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「ゆうくん」
「…はい」
「ばぁちゃんに分かるように、一切誤魔化さずに、話しなさい」
修羅場でございました
凡人らしくお星様になるところであった勇人青年は、後から悠々と現れたシリウス青年の癒しを受け 間一髪なんとか復活したあと、ご近所の好奇の眼に晒され耐え切れなかった一般的精神力しか持たない彼は混乱する弟妹を担ぎ、巫女たち共々あわてて実家に逃げ込んだのでございました
しかし、ほっと安堵の息をつく間も無く、今度は裏の畑をご近所の分も丸々潰して聳え立つ世界樹(仮)とぱっつんぱっつんの視覚情報的にも世間的にもキビシイ格好をした女言葉の三人組と眼が三つある怪人の説明を求められたのでございます
取り敢えず、名前だけ紹介してはみたものの、当然それで誤魔化されるなどということがある筈も無く、現状に至る次第でございました
「えっと…えー…あー…(いや異世界に行ってましたとかどう説明しろと?!)」
「カミシロはわたくしたちのお母さんですわ」
「ちょ?!」
「時に優しく、ごぶっ!、時に厳しくぼくたちを育ててくれたですぅ!!」
「いやいやいやいやいやっ(育ててねぇ!そんな事実は無い!!)」
「お母さんは、あったかい」
「ゆうくん?」
「はィイ?!」
「食事で贔屓するとは何事だい! 見なさいこの痩せあんばい!! ゆうくんはいつから虐待するような子になったんだい!」
「えぇえええ゛え゛え゛?!(ちょ、免罪っ! めんざいぃぃいいい!!)」
「?? ぼくはちっとも、げふっ、痩せてなんか、うげぇっふ、ないですぅ」
「洗脳まで?!」
「してないしてないしてない!!」
「それにこの窮屈そうな格好!」
「誤解誤解誤解誤解っ!(っていうか何で魔法解けてないんだよ旅も終わったし幻覚なんてもう必要ないだろ?!)」
「何が誤解なんだいばぁちゃんに納得できるように説明しなさい!」
ピンチでございました
誰か助け手はないものかときょろきょろとなさいますが、巫女たちは見たことも無い茶菓子に眼を輝かせ、シリウス青年は余裕の表情で我関せずと一服しております、ものすごく理不尽な気分になった勇人青年でございましたが
怒り心頭の祖母に きょろきょろしない! 後ろめたいことでもあるのかい?! と がっちり顔を両の手で挟まれ、グキィ! と心臓が違う意味でキュンとなるような音をさせて前を向き直させられたのでございます
「いや、あ、えー、あ、あの、か、彼女たちは、巫女なんだばぁちゃん」
「…ゆうくん、あんた頭が……」
「違う違う違うっ!、薬物とか頭の病気とかじゃないから嘘じゃないから取り敢えず最後まで聞いて!!」
憐れなものを見るような眼で涙ぐまれ、慌てて祖母の思考を遮る勇人青年でございます
まったく話しが進まないのは果たして相手が頑固な年寄りであるせいなのか、それともまったく別の要因なのか、彼にはもう分からないのでございました
「彼女達は、巫女なんだばぁちゃん、すごく徳の高い」
巫女なのに徳が高いとはこれいかに、神道と仏教が混然一体となって混ざっておりますが、年寄りというのはありがたいものが絡んでくると、やや盲目的になりがちでございます
特にここ日本では一家庭内に神棚と仏壇が同居しクリスマスなどの祭事まで年中行事としてその地位を確立している始末でございますので相手が神経質か敬虔な信者でもなければ特に問題は起こらないのでございました
「ただ、あまりにも徳が高いために彼女達を妬み危害を加えようとする人間がいる、そういった人間を寄せ付けないために、眼暗ましを掛けられているんだ」
「いくらなんでも嘘か本当かくらいばぁちゃんにだって分かるよ! 年寄りだと思ってバカにしてるのかい?!」
「してないしてないしてない!シリゥ…あー…だめだコイツ見えてても画力が…っ」
「失礼ですね」
唯一 本人達以外で真実の姿が見えているシリウス青年に弁明を頼もうとするも、それは不可能だったと思い出す勇人青年でございました
彼の芸術的センスは前衛的なのでございます
「手を借りますよ」
「えぇ? なんだい急に年寄りの手なんか握って」
「この状態でそちらを見て下さい」
「一体どういう…あらいつの間にか女の子が!」
「カミシロの言った事は嘘ではありません」
「なんてことだい…疑ってごめんねぇゆうくん…!」
「…いや、分かって貰えればそれで…っていうかアレ? お前いつのまにそんな能力持ったんだよ」
「アレ以降ですね、変化がないか色々と検証してみた結果です」
「あれま、よく見ればおでこの眼は本物じゃないかい!」
「あ、ほんとだ、見える見える、そうそう、こんな顔だった、一回しか見てないから新鮮だなぁ」
真実の姿の筈なのになぜか違和感を感じる巫女たちを眺めつつ、何とか納得をさせることができ、一安心の勇人青年でございましたが、そんなことができるのならなぜ最初からやってくれなかったのか、と頭の中が覗かれているのを前提でシリウス青年を睨む勇人青年でございました
しかし彼はこちらを見向きもしないので、怒りの持って行き場が無く理不尽に思うしかない勇人青年でございます
「真実の姿が見えるだなんて、あんたも徳が高いんだねぇ、ゆうくんにこんな凄いお友達がいるなんてばぁちゃんびっくり…ということはゆうくん本当にお母さんになったのかい?!」
「え、あ、んー、いや、成り行き上…」
「いつの間に子供なんて産んだんだい里帰りもしないでばぁちゃんちっとも知らなかったよ!」
「いやいやいやいやいや本当ってそっち?! 何で俺が産んだとかいう話になってんの?!」
「だってゆうくんお母さんでしょう! お父さんじゃないじゃないかい!!」
「いや、そーなんだけど、ちょ、ちが、大体年だって」
「何が違うんだい かぐや姫だって桃太郎だってすぐ大きくなるんだよ! さすが徳が高いだけあるってもんだよ!!」
「えぇぇえええええっ?!」
「相手は誰なんだい! 大事な孫に三人も産ませといて挨拶にも来ないなんて!!」
「待って待って待って、俺男だから俺男だから!!」
そんな修羅場に身をおく勇人青年を、こっそりと襖の隙間から覗く二対の眼がございました
「兄ちゃん男なのに子供生めるのか?」
「従姉妹のよっちゃんが薄い本を見せてくれたじゃない、あれ嘘じゃなかったんだよ」
「えぇーっ、じゃあ俺小学生なのにオジサンかよー、しかも俺よりでかいじゃんあの甥っ子」
込み入った話なので席を外すように言いつけられていた勇人青年の弟妹らでございます
彼らの視線の先にあるのは、大好きな兄が焦っているのか三つ目の怪人の手を握ったまま祖母に言い訳をする姿でございました
「兄ちゃんメンクイだったんだなー、だからイクメンなのに彼女できなかったんだ」
「でも顔はカッコイイのに目がみっつじゃ皆に自慢するの難しそう…」
「なんでだよ、すっげーカッコイイじゃん」
幼い弟妹に多大な誤解を植え付けたとも知らず、相変わらず修羅場の渦中から抜け出せない勇人青年でございます
従姉妹ぇ。




