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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
序ノ口というか前菜というか、備えが無いから憂いまくり
4/46

03

 勇人青年が想像する通り、此処は禍つ者の蔓延る世界


 しかし白装束の彼らによれば、その憂いを取り除くのは彼の良く知る英雄譚のそれではなく

 この大陸、セラスヴァージュに複数点在する澱みの集いし箇所を浄化するため、各地の神殿から四名ずつ巫女が選ばれ、分担して浄化に当たるのだそうでございます



 「じゃあ…アマノリュウセイは巫女たちの護衛を?」


 『役目が役目だけに巫女たちは充分な能力を備えている、護衛の必要はない』



 幼獣を通した会話は単純な表現になりがちではございましたが、それでもなんとか把握できた彼らの言葉に勇人青年は困惑してしまいました、魔王を倒すためではなく、巫女を護るためでもなく、それならばアマノリュウセイは一体何のために呼ばれる筈だったのでございましょうか



 『道中は魔物と闘い、澱みに侵された人間と闘い、その身体は勿論 心までも削るようなことが起きる、これは避けられぬことだ、そんな苦境のさなかにあっても巫女たちの心を守る為に、彼女たちが人らしさを喪ってしまわぬように』


 『我々を含め巫女たちと同郷の者では彼女たちに義務を強い、非情を強要し、過剰な心への圧力を掛けてしまうこともあるだろう』



 ですから魔物の存在しない別世界から、巫女の方々の心の負担を軽減させ年頃の女性らしさを、更に言うならば人らしさを、大事な心を失わせないよう慮ることのできる者の支えの手が必要なのだと彼らは言うのでございます

 何枚もの薄いヴェールで慎重に包むような表現ではありましたが、しかし勇人青年は彼らのそれ以外の思惑にも気付いた様子でございました



 (つまり何だ? どういうことだよ、人らしさを失わない為ってのは理解できるけどそれが何であんなイケメン…あぁ…イケメンか…)



 何かに気付いたような勇人青年の表情の変化に、彼らは注意深くその反応を探っているようでございました

 勇人青年の返答次第でその処遇がどのように下されてしまうのか、それは青年自身も懸念していることでございましょう

 お互いに予期せぬこととは申しましても、敢えて非の所在を求めるのならばそれは彼らにあり、それは間違いございません


 しかし勇人青年は現状を打破できるような能力は一つとして持たない招かれざる客、異なる世界の存在を呼び寄せる程の力を持つ彼らの気持ち次第でどのようにもなってしまうのでございます

 仮に青年の故国であればこのような事態には手厚く保護がなされることでしょう、けれどもここは彼の故国ではなく、この世界の、この国の性質がどのようなものなのか、勇人青年には彼らの言葉を深く読み取りじっくりと慎重に探っていく他に手立てはないのでございます



 (つまり殺伐とした現実よりも自分達を普通の年頃の女として扱ってくれる異世界の異性を用意することで、巫女達の逃げようの無い辛い現実を水増しさせて薄めるのか、いわゆる恋心ってやつで…いや待てよ、巫女だろ? こっちの世界ではどうだか知らないが地球と同じ意味合いなら恋が実るのもそれはそれでまずいんじゃないのか?)



 勇人青年は一応の納得のいく答えを自分なりに導き出し、しかし更にその先の思惑に思い当たりました



 (…あぁそうか、だからカップルが成立し難いように大勢の女から好かれる可能性の高い 顔が良くてカリスマ性のある異性を一人だけ用意することで巫女たちがお互いを牽制するように仕向けるのか、なまじ人数分異性を用意してカップルがきっちり成立すると後々まずいってことだな、その為には異世界の男ってのも最終的には"いなくなる存在"ってことでブレーキの意味合いを含むのか…)



 "いなくなる"というのが、元の世界へ戻されるのか或いは文字通り"いなくなる"のか…それは現段階では勇人青年に判断できるだけの材料はございませんでしたし、これはあくまでも仮定の話しでございます

 青年が導き出した"彼らの思惑"もまた想像の域に過ぎず、確実なものとはいえないでしょう


 けれども異世界から男性を呼ぶ理由、その男性が女性の関心を惹き易い容姿をしている理由、呼び出される人数がたった一人きりである理由

 勇人青年の推察はなるほどそれぞれにそれらしき可能性が考えられ、それが一番真実に近い気さえしてくるものでございました



 (…だとすると何も恋愛感情でなくても精神安定剤の役目はこなせるよな、なんとかその部分で保身できるようにもってければいいが…、くっそ簡単に切り捨てられたりするもんか、旅について行く行かないはともかく、俺と正宗は絶対還ってみせるぞ)



 危険を考えるのならば旅には同行しない方が勿論良いのでしょうが、帰還の可能性が高まるのならば彼は旅への同行を厭うつもりはないようでございました


 勇人青年が強く決意を固める一方、彼らも通訳を務める幼獣の耳にも届かないよう、独自の術で会話をしているようでございます



 (あの表情の変化…もしやこちらの真意に気付いたのではあるまいな)


 (だとしてもできることは何もないだろう、こちらとしては巫女の能力を継承した子供が欲しいが、下手に外戚を作り神殿へ干渉されても困る故に異界の優秀な男を呼び寄せたまでのこと)


 (次代ができ次第送り返してしまえば神殿に対する脅威は無くなる、尤もこやつの血を引いたのでは大した力もあるまいし見目も凡庸、このような並の男では有り得んとは思うが子をつくられても困る、一応の手は打っておいた方がよかろう)


 (うむ、旅に伴うのであればそれは必須、その場合見送りはそなたに勤めてもらおう、用意が整い次第使いを走らせる、必要あらば時間稼ぎは任せたぞ)


 (分かっている、召喚が失敗した以上誓約がどこまで正常に働くかが分からぬ限り下策は打てぬからな、抜かりなくせねば)


 (万一強制帰還が働かなかったとして下手に此方に留まってもらっても困るしの、まぁしかしそこら辺はどうとでもなろう、それに巫女の心を守らねばならぬのは偽り無き事実、だからこそ"二の舞"を避ける為に今日に至るまで極力"情という情"を削ぎ落としてきたのじゃからな)


 (……それは言うまでも無いがどのみち呼び直しはできぬ、次代については力の強い神官と添わせることにして、さて、どうしたものか)



 神殿に対する発言権を持たせずに排除することができ、高い能力とカリスマ性を有し、信者を手っ取り早く確保するにも見た目が整っていることは重要な要素の一つ、アマノリュウセイはそれらの条件を満たす稀なる存在だったのでございました


 しかしながら崇高なる次世代確保計画は頓挫し、彼らは面倒ごとを抱えただけに終わったのでございます


 詰まるところ勇人青年の不安はまったくの的外れで、敢えて身も蓋も無い言い方で表現するならばアマノリュウセイは単に種馬でございました


 彼の故郷風の表現で現すのならば勇人青年は招かれざる客、不審者、侵入者、曲者…いえ闖入者?

 もっと何か適切な…種馬は勿論、当て馬ですらなく……そう!


 馬の骨というわけでございますね!!


 なんと酷い話ではございませんか、異世界に誤召喚されてその上この言われ様……



 嗚呼、なんという憐れ!



 なんという不憫!



 なんという馬の骨!!

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