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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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 「お兄ちゃん、これどんなお花が咲くの?」


 「うーん、一度だけ見たんだけどなぁ、決まってないみたいなんだよ」


 「兄ちゃんが見たのはどんなだったんだ?」


 「俺が見た時は小さな花だったよ、ちょうどこれくらいかな」


 「えーっ雑草じゃん!」


 「はは、そうだな、雑草と間違えて引っこ抜かないでくれよ」


 「「はーい」」



 実家に帰省した勇人青年は、譲ってもらった鉢植えを庭の隅の花壇に植えようとなさいました、しかし祖母から、繁殖力の強いものだと後々手入れが大変になる、と言われ、今度は家のすぐ裏にある畑の隅に植えることにしたのでございます


 こちらであれば、いざという時にはごっそりと掘り起こせるからとのことでございました



 (まぁ、もう弱ってるみたいだし、そんな繁殖力もないだろうけどな)


 「ヘンな根っこー」


 「ひらべったいね」



 鉢植えから取り出し、固まった土をぼぐすと、中には円盤状に張った奇妙な根がございました

 恐らくそれが術を成り立たせた何かなのだろう、と思いながらも、軽く根をほぐし、それを土に活けたのでございます



 「よし、これでいいだろ、こうやって石で囲っておくから踏まないようにな」


 「うん」


 「わかってるよ」



 立ち上がって周囲を見回せば、実家の畑に並ぶように近所の家々の畑も隣り合い、家が点々と建ち、懐かしい、田舎の景色が眼に映るのでございます


 たとえ風景は違えども、眼に優しく落ち着かせるようなその緑の多さは、あの世界を思わせるものでございました



 「さて、じゃあ今日はもうこれから暗くなる時間だから、動物保護センターは明日にして、スーパーに晩飯の買い物にでも行くか、明後日の昼までいられるからリクエストがあれば今のうちに言えよ」


 「カレー!」


 「ハンバーグがいい!!」


 「間を取ってカレーハンバーグでどうだ」


 「「さんせー!!」」


 「散歩も兼ねて歩きだぞ」


 「「えー!」」


 「自転車で行こうよ!」


 「そうだよー!」


 「兄ちゃんの自転車はお隣さんにあげちゃっただろうが」


 「あ」


 「ばぁちゃんの三輪自転車は英人が篭に乗って遊んでぶっ壊して修理中だって聞いたぞ」


 「あ」


 「ということで反対意見は却下、各自手を洗って、十分後に玄関前に集合!」


 「「はぁ~い…」」



 歩いて片道三十分ほどのスーパーマーケットへの道のりを弟妹と手を繋ぎ、あんなことがあった、こんなことがあったと久々に直接会う勇人青年に対して興奮を隠せない様子の姿を見て、彼はあの世界の巫女たちを思い出すのでございました



 (よく手を繋いだっけなぁ…)



 巫女ポラリスが生まれると、急に大人びて振舞うようになった巫女たちの姿は、かつての、弟妹が生まれた頃の自分を思わせるものでございました

 姉としての矜持があるのか、巫女ポラリスには見つからないようにこっそりと甘えてくる姿は、あの外見に慣れた頃には微笑ましいものを感じたものでございます



 ――じゃあ、伝言を、伝えますね



 不意に、唐突に、サクラマユコが伝えてくれた、彼女たちの言葉が思い出され、ただ、ただ、懐かしさと、寂しさを感じるのでございました



 ――親というものに触れたことが無いので、わたくしたちには正しいものがわかりません


 ――でも、正解なんて人それぞれ、スピカさまとカネスさんを見て思ったですぅ


 ――わたしたちのお母さんは、間違いなく、カミシロだった


 ――わたくしたちを同じ人として扱ってくれて感謝しますわ


 ――心配されるの、嬉しかったですぅ


 ――褒められたり叱られたり、わたしたちも同じ人間、これ以上ない時間だった


 ――ありがとう、わたしたちのお母さん



 (空の巣症候群…てやつかもな)




 *** *** ***




 「ねぇ兄ちゃん、アレなに?」


 「…なんだろうなぁ」


 「ねぇお兄ちゃん、あんなのあったかなぁ?」


 「…どうだったかなぁ」



 買い物を終えて家路を戻る途中、見慣れないものが勇人青年らの眼に映ったのでございました


 やや現実逃避気味に弟妹の問い掛けに返事を返す勇人青年の視界には、このーきなんのき というよりは、いわゆるファンタジーで言うところの世界樹的な存在感を遺憾なく発揮する巨木が聳え立つのでございました


 ざっと見積もっても東京タワーほどはあろうかというソレは、この距離からでもはっきりと分かるほどに大きな花を大量に咲かせており、ちょっとした恐怖でございます



 「ねぇ兄ちゃん、アレなに?」


 「あー…見たことあるなぁ」


 「ねぇお兄ちゃん、こっちに来るよ?」


 「あー…うん、これはちょっと…避けろぉぉおお!!」


 「ぎゃぁああああ?! 兄ちゃん?! 兄ちゃぁああああんっ!!」


 「お兄ちゃんがっお兄ちゃんが吹っ飛んだぁあああ?!」


 「うわぁああ?! 神代さん家の勇ちゃんがぁあああ!!」



 勇人青年が世界樹(仮)の方角に何やら身に覚えのある地鳴りと土煙がみえるなぁ、と思った時には既に一瞬のことでございました


 体育会系筋肉達磨(美形)と風俗街帝王(美形)と危篤系死霊(死相)に体当たりされた兄が風の谷の少女のように華麗に空中へ跳ね上がるなどという幼い子供にはショッキングな光景が、弟妹と地鳴りに気付き外へ確認に出てきた地元民の前で披露されたのでございます

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