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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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 『どういう…ことだ?』


 『サクラマユコに種を預けました、それが発芽すると分かるようにした上で…』


 『マユコに?』



 話しが飲み込めず疑問を隠さない神官ハダルに、シリウス青年は話を続けなさいました



 『カミシロが還る時、サクラマユコが還る時、わたしは見ていました、この"眼"で』


 『魔眼で…か…?』


 『召還術の構造が見え、術のその向こうまで、見ました、種にはその術を再現するように手を加えてあります、もしかしたら、あちらへ…』


 『渡れるのか?!』



 詰め寄るように反応した神官ハダルに対し、シリウス青年は露骨に嫌そうな顔を隠すことなく示したのでございます

 美形の嫌悪感丸出しの表情というのは心の芯に突き刺さるものがございます、あまりの表情に、勢いを削がれた彼は、びくりとなって二三歩下がった程でございました



 『わたしはこの眼を得るためにセラスヴァージュの外に出たことがあります、世界を渡ったという伝承もいくつか聞きました、有名な話では、妖精の国の第二皇子に嫁いだという異界の娘の話です、彼女はこちらの世界に渡った時、身体が異常に大きくなっていたそうですよ』


 『身体が?』


 『彼女の身体が我々と同じくらいだとして、我々の大きさはこの指の一本ほどだったそうです』


 『そんなにか?!』


 『ええ、伝承で身体に変化のあった異界人の話はいくつかありました、変化の内容も必ず大きくなるというものでもありません、生死に影響する変化が無いとは断言できません…それに、わたしは元々魔導系ではありません、付け焼刃で多少は学びましたが所詮は見様見真似です、それでも、貴方は行きますか?』


 『…行く』


 『そうですか、ではまた後日、力が満ちたことを知らせる花が咲いたら貴方を訪ねます』



 用は済んだとばかりに背を向けたシリウス青年に、神官ハダルは疑問を口に出して尋ねたのでございました



 『…なぜ、俺にそんな話しを?』


 『単なる人体実験です』


 『な?!』




 *** *** ***




 「人体実験って、もうちょっと言葉を選べないのかあいつは!」


 「はは、捻くれているんだろうな…、まあそんなわけで、死ぬ覚悟でこっちへ来たんだ、この髪と眼は、それで変化したんだよ」


 「随分都合よく変化したんだな」


 「それが偶然じゃないみたいで」


 「え?」


 「どうせならと、変化させたい部位を誘導したらしい」


 「それで…黒くなったのか…」


 「脅したのは単に俺の覚悟を見るためだろうな、元々あの魔導師の術を参考にしたんだ、失敗する可能性は低かったんだろうと思う」



 三人は、すぐ傍の自動販売機から飲み物を購入し、そこで一息入れたのでございました



 「ハダルがこっちに来た時は、わたしもう、声も出ないくらいに驚いて、泣いちゃって」


 「真由子の顔を見たときには本当に驚いた、向こうでは二月も経っていなかったのにこっちでは七年も経っているとは思いもしなかった」


 「じゃあ…時間の流れる速度が違う、ってことなのか?」


 「そこまでは分からない…」


 「そっか…あの、伝言っていうのを、聞きたいんだけど」


 「うん、それなんですけどね」



 姿勢を正して勇人青年に向き直ったサクラマユコは、先ほども見せたあの小さな鉢植えを両の手で包み込むように差し出してきたのでございます



 「彼が、ハダルが来る少し前にね、この花は咲いたんです、その時はここまで小さくなくて、もう少し大きくて、花も一輪だけじゃなく、五つは咲いたんですよ、ハダルが来るのと引き換えになったように散ってしまって……それから五年、前よりも長い時間を掛けて、一昨日やっと咲いたんです、前よりも小さく、たった、一輪だけ」



 差し出されたその花をそっと受け取った勇人青年は、少しの沈黙の後、呟いたのでございます



 「向こうへ、行けるかもしれない…?」


 「…はい」


 「…でも、小さい花が、たった一輪だけ」


 「…そうです」


 「…その上、次は、咲かないかもしれない」


 「…はい」


 「伝言を聞くか、この花を試してみるか、…か」


 「…はい」



 小さな、とても小さな花が一輪だけ、彼女の夫が五輪必要だったのなら、一輪での確率はどのようなものでございましょう


 彼は、勇人青年は、長くため息を吐き出し、その花を、腕に抱いた正宗の鼻先に近づけたのでございます



 「正宗、行くか?」


 「わん!」


 「…神代さん」


 「伝言を、教えてくれないか佐倉さん、ポラリスとカネスの伝言は必要ない、こいつが、正宗が直接聞きに行くから」


 「…はい」


 「ハダルさんはこの花の使い方を教えてくれ」


 「ああ、勿論だ」



 そうして彼の息子のような愛犬は、遥か遠い地に、妻と仔の元へ還ったのでございます



 「もしもし? うん、連絡が遅くなってごめんな英人、お前だけか? 聖子もいる? うん、そうか、ごめんな、兄ちゃんが今日貰ってくるはずだった仔犬なんだけど、家族と離れたくないってすごく鳴くんだ、かわいそうで貰ってこれなかったんだよ、うん、楽しみだったのにごめんな、少し遅くなるけど、これからそっちへ帰るってばぁちゃんと父さんと母さんに伝えてくれるか? うん、それでな、後でみんなで一緒に動物保護センターに行こう、それなら元々一緒の家族と引き離すことにもならないし、いいだろ?」



 サクラマユコ夫妻と別れた勇人青年は、再び駅のホームに立っておりました

 その手には空のケージと、譲ってもらったあの鉢植えを持って



 花は既に散り、もう、二度と咲かないかもしれません



 いつか枯れ果て、土に還るだけかもしれません



 それでも、実家に持ち帰り、庭の片隅にでも植えようと



 そう、思うのでございました



 「選ぶまでも無く、俺の住む世界はこっちだけど、思い出と花くらいなら、いいだろ」

なんか最終回っぽいけど「最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ」

因みに当然のことながら今上帝はフられました、彼は今も独身です(笑)


あと、"妖精の国の第二皇子に嫁いだという異界の娘"の大きさは既読の方はご存知の通りもっと遥かに大きいですが噂や伝承なんて正確には伝わらないもので中途半端でもここまで伝われば良い方です、実際の大きさについては"おっきくたっていいじゃない! ちっちゃくたっていいじゃない!!"を読んでいただければ最終的に解ります(最終的www)

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