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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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 「わたしですよ、佐倉真由子です」


 「…え? 佐倉さん…ってあの?!」



 驚く勇人青年に笑顔ではい、と返したサクラマユコは、あの高校一年生らしい幼さは既に無く、大人の、勇人青年よりも年上の女性に見えたのでございます

 隣に立つ男性も、よくよく見てみれば髪と目の色は違うものの、あの神官ハダルでございました



 「貴方はあの頃のままだな」


 「いや、あの頃っていうか、え? ぇえ?」


 「驚くのも無理ないですね、わたしあっちに行ってしまったの、こっちでいう十二年前なんです」


 「はぁ?!」


 「今日だということは分かっていたから、子供達を義父母に預けてきたんだ」


 「お父さんもお母さんも今日は孫とデートだって張り切ってたから丁度良かったよね」


 「え、ちょ、つまり、どういうことだ?」



 混乱する勇人青年に、二人は あっ、という顔をすると慌てて説明を始めたのでございました



 「最初はわたしが還る前に、プラウさんたちが訪ねてきてくれて伝言を頼まれただけだったんです、いつ召喚が行われるかは分かってるから、その場に居合わせて、還ってきた時に伝えてほしい、って…でも、その後シリウスさんが一人で訪ねて来て」




 *** *** ***




 「そう…ですか…神代さんは、還ってしまったん、ですね」



 サクラマユコはその一報に、そっと眼を伏せたのでございました

 彼女もまた、別れが待っているのでございます、自分を訪ねて来た巫女たちの赤く泣きはらした眼を見れば、それは未来の自分の姿だと否応も無く実感させられるものでございました


 だからこそ、想いを告げず、去る覚悟をしている彼女は、しかし、今目の前にいる娘を抱いた獣人カネスが自分達の一行から去った後、巫女たちの理由の無い責めから以前よりも手厚くカネスの分まで庇ってくれる神官ハダルとの距離は、ますます縮むものであり、現状はただ、言葉に出さず、行動に移さないだけで、既に想い合っている状態でございます


 そんな状態で彼と離れ離れになれば、自分は一体、どうなってしまうのか


 とても他人事ではなかったのでございます



 「…わかりました、伝言、ちゃんと伝えます」


 『ありがとう…時間と場所はここに記しておきましたわ』


 「っ、これは…はい、…何て伝えればいいですか?」



 メモを見ながらサクラマユコは少々驚いたようでございました、その日付は、彼女の生きた時間よりも未来のものだったのでございますから

 年上だと思っていた勇人青年は、彼女の時間ではまだ十歳にも満たないのでございます



 伝言を預かった後、疲れきったような、焦燥したような、そんなもどかしい彼女達を見送り、同じく落ち込んだ様子のサクラマユコを心配する神官ハダルに少しだけ一人にしてほしい、と頼み

 渋々ながら彼女に背を向けた彼の後姿を見送った後、彼女の背中に、声を掛ける存在があったのでございました



 『別離の恐怖に怯えているんですか』


 「?!、え、シリウス…さん?」



 唐突なその言葉に、驚いて振り返れば、それは意外な人物でございました

 たった一度会っただけでございましたが、それでも何の関係もない自分にわざわざ会いに来るような人物ではないことは確かでございます

 そんな彼が、いったい、自分に何の用があって訪ねて来たのか、と 思わず彼女は身構えたのでございました



 『…これを』


 「え…種?」


 『成功するかどうかは確率すら分からないので、他の者には秘密にしてください、ただ、それを持ち帰ることができ、更に芽吹かせることができたなら、あるいは…』


 「成功…? なにが、ですか?」


 『…芽吹けば、花が、咲くことができれば…分かるかもしれません、還る時には、口の中にでも入れておいてください、あの獣人が仔犬に戻ったことを考えれば、手に持っていても持ち帰れる可能性はほぼ無いでしょうから』


 「教えてはくれないんですか?」


 『…今、それを言っても仕方の無いことです』



 彼は、身勝手なことに、言いたいことだけを言い、去っていったのでございます

 そうして、その一月ほど後、サクラマユコもまた、想いを残し、懐かしい故郷へと還っていったのでございました




 *** *** ***




 「なんだそれ、相変わらず自分の言いたいことしか言わないヤツだな」


 「ふふ、ほんとですよね、でも、言わないのはちゃんとした優しさだったんだって、今は思えるんです」


 「え?」


 「種は、持って還ることができました、小さな鉢植えに植えて、どうなるか分からないから、雨風にあてないよう、わたしの部屋の窓辺に置いて育てたんですよ、芽吹くまでに三年、花が咲くまでに更に四年かかりました」



 中身を零さないようにか、小さく透明なアクリルの箱に入れられたそれを、彼女はそっとバッグから取り出したのでございます


 それは小さな花でございました、雑草の中にあれば、見過ごしてしまいそうな程に、小さく、色はありふれて、しかし花の形だけは、幾重にも細長い花弁が折り重なり、美しい姿をしていたのでございます



 「恐らく、これが芽吹いた頃だろう、俺のところにヤツが訪ねて来たのは」


 「やつ?」


 「それは勿論、シリウスだ」



 そして、彼は神官ハダルに尋ねたのだそうでございます



 『貴方は愛する女の為に死ぬ覚悟がありますか?』



 …と

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