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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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09

 「おぉーんっ、きゃんきゃん!」


 「大丈夫ですか、怪我はありませんかっ?」


 「え、あ、はい、大丈夫、です」


 「ケージの中は犬ですか? 大分鳴いてるようですが…」


 「あ、え、あ、大丈夫です、相当揺れたから驚いてるんだと思います」


 「じゃあ、一応、事情聴取などお願いしたいのですが」


 「はい、あ、今からですか?」


 「お願いします、お時間が無いのでしたら後から受けてもらうことになりますが」


 「わかり…ました、連絡を入れれば大丈夫だと思います」


 「良かった、でしたらこちらへ」



 突如彼を包む、ざわざわとした懐かしい空気、駅員と鉄道警察隊員らしき人物に声を掛けられ、勇人青年は唐突に意識を取り戻したのでございます


 所内に案内され、事情聴取を受ける間もケージの中からは悲愴な仔犬の鳴き声が聞こえており、ついには聴取担当者の厚意で正宗は外に出され、勇人青年が抱き上げて宥めながらの聴取となったのでございました



 「ご苦労様でした、後日教えていただいた連絡先に一報入れますので、その時にはまたご足労していただくことになるかと思います」


 「あ、はい」



 聴取を終えた彼は、再び電車を待って実家に行く気になれず、かと言って自宅に戻る気にもなれず、切符を払い戻して駅を出ると、そこから少し移動した場所にある公園に入り、ベンチに腰掛けてケージから正宗を出すと、きゅうきゅう鳴き続ける彼を腕に、長く、長く、息を吐き出したのでございます


 事情聴取を受ける間にもじわじわと戻ってきた現実感に、彼は大体の事情を察したのでございました



 つまり、召喚の定義に従い、こちらへと戻ってきたのでございましょう



 ただ、還れる条件は二つあるのでございます

 "役目が果たされた時、或いはそれが不可能となったその時"と、かの白装束の方たちは言っておりました

 勇人青年には、それが果たされたのか、それともそれができなくなり還されたのかの判断はつきかねたのでございます


 遥か隔たれた彼の地の妻と仔を求め、悲愴な鳴き声を上げる正宗も、今はただの仔犬に戻り、現在の勇人青年にはその言葉を理解することはできません

 彼に尋ねることはできないのでございました



 「きゃんっきゃんっきゃんっ! おぉーんきゃん!!」


 「正宗…ごめんな、魔導師にお前だけでもって頼んでみたんだが」



 ごめんなぁ、と鳴き続ける仔犬を抱え込むように蹲る彼に、近寄る二つの人影がございました


 ざり、と地面を見つめる彼の視界に入り込んだ足先に、のろのろと顔を上げると、それは一組の男女でございます



 「お久しぶりです、神代さん」


 「え…あの…どなたですか?」




 *** *** ***




 『カミシロ…どうした…どう、し、死ん? おか、おかあさ、ぁぁぁ…っ』


 『しっかりなさいミアプラっ』


 『おかあさんが、ああ、おかあさんおかあさんおかあさんっ』


 『落ち着くですぅ!』



 ぱぁん!と鋭い音を立て、巫女アプスがミアプラの頬を打ったのでございました

 他の巫女二人も動揺はしておりましたが、勇人青年の創り出した擬似的な家族の影響もあり、妹を持つ姉らしく、取り乱すことはございません

 問題は巫女ミアプラでございました、彼女は頬を打たれると、悲鳴のように泣き叫び巫女アプスの胸に泣き縋ったのでございます


 同じように現状を察して巫女ポラリスも両親に泣き縋りはしましたが、ここまで酷くはございません

 現在育っている者と、育て直しを受けていた者の差でございましょう



 『浸っているところを邪魔しますが、間に合ううちに行動した方がいいのではありませんか?』


 『!』


 『それは、生きているということか?』


 『彼が使ったのは持ち手の生命力を吸い取り力に変える咒いの剣です、まぁ生命力というよりは魂、命そのものですが、肉体的な損傷ではないので、癒しの効果もありません』


 『なぜそんなものが…』


 『以前盗賊の塒を漁ったときに見つけたものですよ、使い道が無いと怒っていたので、売るか捨てるかしたかと思っていたのですが』



 彼とて、四六時中勇人青年の思考を読んでいたわけではございませんし、荷物を透視してもおりません、しかしそれでも多少の悔いは覚えるのでございました

 彼はけして人付き合いの上手くは無い自分と気兼ねなく言葉を交わし、その心の内を覗けると知ってなお、人間なのだからこれくらいのこと当然考える、と彼を避けることも無く、未来を選べず蹲っていた義母をも解放したのですから、あの遣り取りに、多少の蟠りは感じようとも、恨みはございません


 この時になってようやく、"逃げ切る"という言葉を実感すらしたのです、勇人青年は、常に還ることを自覚して、それでも彼は馴れ合いを止めようとはしなかったのでございます



 『そんなこと、どうでもいい、かえれば、おかあさんは大丈夫?』


 『…召喚の定義に従うのならば……けれど、死んで戻った者がどうなったのか記録にはありません、確実なことは元の状態に戻るということ、生きている内に戻すのが一番可能性が高いでしょうね』


 では、すぐにでも浄化地に赴き、役目を果たす必要がある、と巫女たちは役目を枉げて巫女アプスの力で直接 浄化地へと飛んだのでございました

凡人らしく今のところ事情聴取を受けるような被害も加害も経験ないのでその辺りは想像です、すみません

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