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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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08

 『これは、まずいですね』


 「まずいで済むか!」



 手近でヤケクソに叫ぶ勇人青年の襟首を猫の子のように掴んだシリウス青年が、うねる足場を次々と飛び移りながら呟いたのでございました


 ソレは巫女アプスが風の刃で二つに切ればそれぞれから芽を伸ばし、巫女プラウが灰に還ればそれを栄養に増殖し、巫女ミアプラが氷漬けにすれば自ら粉々に砕き、その破片のそれぞれから新たに芽吹き、貪欲な程の生命力を見せ付けたのでございます


 視界の端では獣人カネスが娘ポラリスを背負い、正宗がその背中を守るように次々と襲う魔手を薙ぎ払うも、到底間に合うものではなく、戦況は一向に好転の兆しを見せることはございませんでした



 『間違いない、土の能力』



 巫女ミアプラが捉えようと迫る触手から水分を抜くも、やはり灰になった時と結果は同様でございました、逃げようにも既に周囲はソレに囲まれており、徐々にその包囲網は狭められていったのでございます



 「土の能力って、あれは植物だぞ?!」


 『四元素の力は人間だけに与えられた能力ではありませんわ、わたくしたち人間が種族差無く発現するのと同じこと』


 『動物にも、げほっ、植物にもありますぅ、ただ、ごぶっ、喋れないだげぇっふごほ!』


 『動物の姿を見ないのは浄化地が近いからかと思っていましたが完全に見当違いでしたわ』


 『恐らくみな養分』



 土の巫女は能力上偵察と索敵も担いますが、完全に経験不足と判断ミスでございました

 巫女ポラリスが偵察の眼を伸ばし、報告を受けた進行先の様子を他の巫女が判断したのです


 何もないと判断して通り過ぎようとした一行を、地中深く潜伏し獲物が通るのを待っていた魔属化植物が周囲を囲う様に彼らを襲ったのでございました



 『捕まれば吸い尽くされ残った骨も皮も栄養だ、この仔だけでも外へ投げて逃がせればいいのだが、どこまで範囲が広がっているのか分からない』


 『や、やだ、投げないで、一緒がいい、かぁちゃんととうちゃんと一緒がいいっ』


 『わぉうわん!(大丈夫だポラリス!)』


 『そう言えば以前、見た目はこの際置いておくとして美少女ハーレムでファンタジーとかだと触手エロがありそうで怖いな、と考えてましたよね貴方』


 「お前空気読めよホント!」


 『凡人ではなく予言の才があることが判明して良かったですね』


 「偶然だし、そもそもこんな状況で喜べる要素 何一つねーだろ!」



 絶叫する勇人青年を抱え、シリウス青年は逃げ回ることしかしておりません

 彼も同じ土の能力者ですが、それは現在母に負ぶわれるだけの巫女ポラリスも同じこと

 此処はこの魔属化植物の体内と同じと言っても過言ではなく、この状況では彼らの能力は何一つその効果を得ることはできないのでございます

 彼の新たな眼も、どこまで変化したのか未だ定かではなく、このような逃げ場の無い状況で使うのは自殺行為に他なりません

 どのような能力なのかすらも分からないのでございます



 『取り敢えず、核が定まるまで凌いでもらうしかありませんね』


 「核ぅ?!」


 『生命の核ですよ、前よりも良く見えるのですが、ソレに絞って見ようとすると見えすぎて調整が難しい…対象が植物内を動き回っている上に、核の手前に人が居てもすり抜けて見えているので下手をすると気付かずに人ごと核を貫いてしまいそうです』


 「そんな悠長なこと言って、」


 『ミアプラちゃん危ないですぅ!』


 『アプス?!』


 『アプスはわたくしが、あなたは離れなさい!』


 『プ、プラウ、ああっ』



 年齢的に一番体力の無い巫女ミアプラが疲労の為かその触手に捕まりそうになり、それを助けた巫女アプスが捉えられたのでございます

 巫女ミアプラの眼の前で絡め取られた彼女は身体のそこかしこを触手で貫かれ、うろたえながらも助けようとする彼女を押し退けた巫女プラウが自身も絡め取られながらも引き剥がそうとするのでございました、けれど一度捉えられてしまえば、そのような抵抗など微々たるものでしかなく



 『う、ぁ、ああ、た、たすけ、おかあさんねぇさまたちをたすけて!! たすけて! たすけてぇえええ!!』



 神属の教育で律せられていた巫女ミアプラの精神は、この絶望的状況下に於いて一気に幼児退行をおこし、その絶叫は今まで母のように感じつつもけしてそう呼ばなかった勇人青年に助けを求めるものでございました



 「おい、下ろせ!」


 『貴方が行って何になります』


 「例え見た目はそう見えなくたって俺ァ助けを求める女子供を見捨てて逃げるほどクズじゃねぇぞぉぉおおおッ!!」



 捕まれた襟首は、故郷の丈夫な布地と異なり、少し強引に引けば簡単に裂けてしまうものでございました

 ぼろきれのようになった上着を纏わり付かせながら転がり落ちた勇人青年は腰から一振りの片手剣を引き抜き、うねるソレに突き立てた瞬間、そこを中心に内部からぼこぼこと歪なものを湧き立たせながらそれは次々に弾けていったのでございました

 驚異的な速さで崩壊していく一方、ソレの抵抗は激しく、勝るとも劣らない速度で増殖していくのでございます



 しかし



 「見えたかシリウス!」


 『それはもうはっきりとっ』



 大部分が消失した折に一瞬だけ露出し、再生の為に動きを鈍らせたその核を彼の眼が見逃す筈も無く

 シリウス青年が投擲した一粒の種が核を貫いた一瞬、発芽したソレが核を砕き、見る間に触手を飲み込み、この場を彼の支配下に治めたのでございます



 『ね、ねぇちゃんたち!』


 『ポラリス、彼女達を癒してやりなさい』


 『う、うんっ』



 瞬く間に枯れ果てたソレがぼろぼろと降り注ぐ中、母カネスの背中から転がり落ちるように巫女たちを癒そうと巫女ポラリスが駆け寄る一方

 シリウス青年も、突き立てた剣に手を添えたまま蹲る勇人青年に眼を眇めながら ゆっくりと歩み寄ったのでございます



 彼には、以前よりもはっきりと見えておりました



 『…もう、大丈夫ですぅ、げぶ、ぼくはもう、早くプラウねぇさまを…』


 『わかった』


 『良かった、これで安心…どうしたかあさ、カミシロ?』



 見る間に癒される巫女プラウとアプスの姿に安堵し、顔を上げた巫女ミアプラが、見たものとは


 その視線の先で、シリウス青年が彼の肩に手を置き、ぐっと持ち上げると、ぐるりと彼は、呆気ないまでに簡単に仰向けになったのでございました



 その身体に外傷はなく、安心したのも束の間


 その眼は、虚ろで


 何も、映すことは無く



 シリウス青年の眼には、無残にも喰い荒らされた勇人青年の魂の残骸が見えていたのでございます

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