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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
32/46

06

 『この伝言がいつ伝わるのかしら、とりあえず久しぶりと言って置くわねシリウス、元気? ちゃんとご飯は食べてる? 不摂生はだめよ? ご飯の前にはちゃんと手を洗って、洗濯物は貯めちゃだめよ? 新しいお家は見つかったのかしら、あなたもう神属でもないから借りるのはちょっと手間がかかるしどうしましょう、わたしに何か伝手があれば良かったのだけれど、ずっと保養地に居ただけだし人脈がないのよねごめんなさいね、そうそう勇人くんたちとまだ旅をしている? 浄化は終わったのかしら、中途半端に放棄してしまってごめんなさいね』


 (いつ伝わるもなにも…ケレスさま、まだ半日も経ってません)



 その幻影が伝える彼女の様子は、悲愴なものは一切無く、嬉しくて興奮冷めやらぬといった様子でございました

 上京した一人息子の留守番電話に母親がどきどきとしながら初メッセージを残すかのようでございます


 ここで時間制限が来てメッセージが途中で切れてしまえば及第点、切れたことに気付いてもう一度メッセージを残せば満点、時間制限が来たことにも気付かずにそのまま話し続ければパーフェクトでございますが、機械的な制限は無いようなので そのような微笑ましい展開は訪れはしないのでございました


 流石、息子に友達も彼女も紹介されたことのない母親でございます、その心配度合いは半端なものではございません

 唯一友達であると認識する勇人青年について友人関係は現在進行形で保たれているのか、新しい友人はできたのか、彼女はできたのか、お嫁さんになってくれそうな人はいるのか、根掘り葉掘り聞き出したい衝動をしかしシャイで秘密主義でやや捻くれ傾向の息子に直でぶつけては纏まるものも纏まらず拗らせてしまうのでは、と聞くに聞けない親心の悩ましい葛藤までが勇人青年にはありありと伝わってくるようでございました、シリウス青年がソレを察することができるかどうかは兎も角として

 けれども長々と続くかと思われた伝言は、横からぬっと伸びてきた手が彼女の腕をぽんぽんと叩くことで遮られたのでございます



 『あら、あ、あぁ、ごめんなさい、ついつい話しが脱線してしまって、言いたいことが山ほどあるけれど、それは伝言じゃなくてちゃんと夢枕に立って伝えるわね』


 『…なんです今の無粋な手は』


 「あー…(俺分かったかも)」



 誰ですかそれは、と一瞬睨むように勇人青年を振り返るも、続く伝言にすぐさま彼は前を向き直ったのでございます



 『夫にはね、ちゃんと逢えたのよ、長く待たせてしまってやっぱり心配を掛けていたのね、この伝言にも一緒にメッセージを残してくれれば良かったのだけど、照れているのかしら、出てくれないのよ』


 (いや、多分違いますソレ、顔出すと呪いそうなヤツがここにいるからだと思います、旦那さん察してますよ絶対、断言できます)


 『この伝言を預かってくれた方にね、あなたの眼のことをお願いしたの、成人した息子のことだし、あまり口出しするのもって思ったけれど、やっぱり身体にどんな影響があるか分からないから…、死んでしまってからね、土の能力を使う時の要領で、世界中を見通してみたのよ、いい腕のお医者様がいないか、って、身体の制限が無くなったお陰か前よりもずっとずっと遠くまで見通すことができたの、そうしたらこの方が、わたしに気付いてくれたの、そんなことを続ければ魂が磨耗して無くなってしまう、って』


 『そんな危険なことを…』


 『息子のために良いお医者様を探しているだけですから、どうぞお気になさらず、って言ったらね、この方の奥さんが心配性で気にするから奥さんの為に止めてほしい、って』


 (…え、それ、嫁が気にしなかったらスルーしてたってことか?)


 『それでね、あなたの眼はこの方が治してくださるって、だから安心して還りなさいって、夫の所にも連れて行って下さったのよ、一瞬だったの、凄かったわ』



 恐らくその奥さんという存在も、彼女自身が気付いたのではなく、周囲の誰かが気付いて彼女に教えたのでございましょう、その流れで考えるのならば、この伝言を伝えに来た存在は気付いていても黙っていた筈でございます



 『あなたからも良くお礼を言ってね、わたしの方は落ち着いたら貴方の夢に逢いにいくから、元気な姿を見せてちょうだいね、その時にはもう貴方もお嫁さんを迎えてお父さんになっているのかしら、楽しみだわ、元気でねシリウス』



 伝言はそこで終わり、伸ばされたままのソレの手のようなものがぐっと握りこむように歪むと、そこから弾けるように一瞬光が迸り、その手からシリウス青年に何かが投げ掛けられたのでございます

 彼がソレを受け取ると、今度は自身の額の辺りを指し示してからその手をそのままシリウス青年の方へ向けなさいました



 『…いえ、これは、母さま…母の、生きた証し、わたしの生きた証しですから、母を止めて下さったことには感謝しますが、これはこのままで』



 シリウス青年の応えに、ソレは僅かに肩を竦め、それから己の眼元を拭うような動作をしたのでございます

 次の瞬間、シリウス青年の肩がビクリと揺れ、勇人青年の目の前で、ソレが薄くなりはじめました



 「あ、ま、待ってくれ!」



 消えようとするソレを勇人青年が引き止めると、ソレが彼の方へ眼を向けたのが勇人青年にもはっきりと感じ取ることができたのでございます、眼など、どこにも見えはしないのに



 「あ、あいつ、あいつだけでもっ」



 勇人青年が何を言いたいのか、ソレには分かったのでございましょう、ソレはしかし、首をゆっくりと横に振ると、彼らの前から消えてしまったのでございます



 「だめ…か……」


 『あなたが頼もうとした気持ちは分からなくもありませんが…もしも機嫌を損ねていたらそこで終わりでしたよ』


 「悪ぃ…凄い力がありそうだから、ついな…」


 『アレはバケモノなんてかわいらしいものではありませんでした』



 話す合間にも彼を覆う茨の檻は見る間に水気を失ってぼろぼろと崩れ去り、勇人青年を振り返った、その姿は



 「お前、眼が……」


 『コレですか、ふふ、一体何をされたのか…アレの姿がはっきりと見えましたよ、…わたしたちは何故今もこうして生きているんでしょうね?』



 閉じられた本来の眼が開き、三つの眼が彼を見ていたのでございます

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