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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
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02

 『ばぁば、ばぁば』


 「じぃじだ(これ明らかに教え込んでるだろ、誰だ犯人は)、どうしたポラリス」


 『ばぁば、あまーの、ちゃいちゃい』


 「あー…(すでに修正は効かないのかくそぅ)、ほら、いっぱい食べるとご飯が食べられないからこれだけだぞ」


 『あいっ』



 よたよたとした足取りで足に縋り付いて来た幼獣を抱き上げると、勇人青年はりんごのような形をしたバナナを取り出し皮を剥いてその手に持たせてあげなさいました

 この仔の名はポラリス、正宗とカネスに頼まれなんとか頭を捻って名付けたのでございます

 北極星のように、どこにいても分かるように、その一生が幸せであれと祈りが真っ直ぐに届くように


 甘い果物をもらって大喜びの幼獣ポラリスはじたばたとむずがり、そっと地面に降ろしてもらうと父正宗のところへと歩いていきました

 彼は娘を甲斐甲斐しくべろべろと毛づくろいし眼の中に入れても痛くないといった可愛がりようでございます



 『申し訳ないお義母さま、もうすぐ乳の時間だからだめだと言ったのだが』


 「お義父さんな、お義父さん、母乳だけじゃ足りないのか?」


 『いや、乳は充分だお義母さま、だがそろそろ何かを齧りたいのだと思う』


 「あー…(え、なんなのこれ俺男なんだけど俺男なんだけど)、じゃあ後でアプスとプラウに手伝ってもらって干し肉を作っとくか」


 『それはありがたい! 噛めば噛むほど深みが増すあの味! 素晴らしい!!』


 「……ポラリスのだぞ?」


 『じゅる、分かっている、大丈夫、大丈夫、ちょっとだけ、ひと齧りだけ』



 分かっているとは仰いますが、彼女の尾は激しく振られ、どうも理性よりも本能が凌駕しそうになっているようでございました

 仕方なく彼女の分も作ることに決めた勇人青年でございましたが、そうなると巫女三人も黙ってはいないことは明白でございます

 めでたくも干し肉の大量生産が決まった瞬間でございました




 *** *** ***




 (一杯付き合え)



 夜、皆が寝静まった頃を見計らい、勇人青年が酒瓶を二本と皮袋を持って横たわるシリウス青年に頭の中でだけ声を掛けると、彼はただ眼を閉じていただけのようで、すっと起き上がり、二人は眠る面々に声が届かない距離にまで移動なさいました


 生憎、今夜は曇っており、焚き火の灯りも届かない距離では勇人青年からはシリウス青年の影しか認識できませんでしたが、彼にはよく見えているのでございましょう

 栓を抜いて差し出された酒瓶は、迷うことなく受け取られ、彼は喉を潤すように口を付けたのでございます



 「ほら肴」



 皮袋の口を広げて差し出すと、彼がその中から一枚干し肉を取り出していくのを確認してから、ようやくと勇人青年も一枚齧ったのでございました



 「…失敗したな、酒だけ呑むのもと思ったけどこれじゃ逆効果だ」



 思いのほか酒が進みそうな味付けに上手くできるのも考え物だと思った勇人青年でございます

 そのまま暫く、彼は話し始めるのを待っていましたが、酒が進むばかりで一行にその気配はございません


 頭の中を覗かなくとも、彼がなぜ酒に誘ったのか、シリウス青年には容易に察することができているのでございましょう、けれども、どうしても彼には自分から口火を切ることができずにいるのでございます



 「…で、お前、覚悟はできたのか」


 『…貴方もなかなかに意地が悪い』


 「選べないか」


 『……』



 義母を失うか、それとも苦痛を伴う長命を敢えて黙認するか

 いま選ばなくとも、いずれは否応無く選ばされる日が来る、と それは分かっております

 この先何百年と過ぎ行く先に、巫女スピカだけがいつまでもその座に居座ることは必ず問題になることは想像に容易く

 このまま継承資質保持者を秘匿し、やり過ごしても、他の土の継承者が見つけた資質保持者を次は貴女が、と斡旋される可能性もあるのでございます


 そうなればもう、避けることはできないでしょう


 それに、問題はもう一つあるのでございます、いくら彼女が小指の約束を心の拠り所にし精神を保っていると言っても、それが何時までもつのかは分からないのでございます、土の継承者はその戒めゆえにやがて感情的なものを捉えられなくなっていく、そうなれば行き着く先は、人の心を失った何かに他なりません



 『…選べません…わたしにはどちらの選択肢も…とても…選べない…』


 「…そうか」



 客観的に考えれば、今、解放することが一番彼女の為になるのでございましょう、シリウス青年も理性ではそう考え、義母にそれとなく仄めかしはしますが、それは説得と呼べるほどのものではなく、そしてその話しをしなければと思えば思う程に、彼は、重く澱んだものが腹の底で冷えていくような感覚が増していくのでございました



 「お前、充分"普通"じゃないか」


 『…ふつう?』


 「お前はお袋さんが望んだように、"普通"に育ってるじゃないか」


 『根拠は何です』


 「根拠ってお前、ヘタれてる時くらい素直に聞けよ、そうだなぁ…俺の知ってる"普通"なら、親を死なせるような選択肢なんて、よっぽど虐待されたとか恨むような何かがあったとか教育でもどうにもなんないほど元々が歪んでるとかそういう理由でもなきゃそうそう選べるもんじゃねぇよ、それが選べないほどお前は愛されて育ったんだろ、それだけで彼女の望みの大半は叶ってる」


 『母さまの…望み…』



 "普通に幸せになってくれればそれでいい"と、義母スピカの望みの通りに、彼は愛されて育ち、当たり前のように親を敬愛して育ち、健康で丈夫な身体を持って成人しました


 このセラスヴァージュでは、親の愛に触れたことの無い者も、愛ではなく憎しみを与えられる者も、成人まで生きながらえることができず幼くして黄泉路に旅立つ者も"普通"でございます


 ですがそれは彼女の望む"普通"ではございません


 勇人青年の言うソレこそが、彼女の望むものでございましょう



 「どの選択肢選んだって、お前はきっと絶対に納得できねぇし、いつまでたっても後悔が付き纏う、だからお前は俺を恨めよ、俺なら逆恨みされたって逃げ切れるからな」


 『逃げ…きる…?』


 「明日、お袋さんと二人だけで話しをする、お前は邪魔すんなよ」


 『まさか母さまに不埒なまねを』


 「ねーよ! 何でお前この流れでそう返すんだよこのマザコン!!」



 勇人青年の絶叫は夜の闇に響き渡り、巫女たちと獣人一家は蜂の巣を突付いたような大騒ぎになったのでございました

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