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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
急転直下の落下先がちょっ、待っ、チェンジで!チェンジで!!
27/46

01

 『おか、いえ、お義父さま、本日の獲物をお納め下さい』


 「あー…(おか? 今"おか"っつったか?)うん、あり、」


 『お待ちなさい! こちらの方が大きいですわ』


 「え、あ、(どっちが大きいとかさっぱり分からん…)」


 『プラウ待つ、量より質』


 『ぼくのおにぐぇっぶおうっぶのほうがぶっ、やわらかいでぇお゛っふげぇっほがふ!』


 『ふ、三人の小姑…相手にとって不足は無い!』


 『あら、やりますの?』


 『安心する、三対一などという卑怯な真似はない』


 『一対一対一対一ですぅげぇっぼごぶは!』


 『わぉうわんわんわん!(カネス頑張れカネス頑張れカネス頑張れ!)』


 「あー…妊婦なんだからほどほどにしときなさい」


 『気遣い感謝しますおか、お義父さま』


 『わかっておりますわ』


 「それから、肉ばっか食ってたら身体に良くないからこの肉は保存食行きな、それ食べきるまでは肉狩って来ちゃだめだからな」


 『『『『?!』』』』



 勇人青年は足元を見てため息をつきつつお小言を言いました、首にぱっくりと切り込みを入れられ血抜き済みの肉(加工前)、肉(加工前)、肉(加工前)、肉(加工前)でございます

 新鮮と言えば聞こえはいいでしょうが、その言葉だけでは穏便に納得のできないグロテスクさと被害妄想でなくこちらをさも恨めしそうに虚ろな眼で見てくるそれらから眼を逸らし、お前のせいだ! あなたのせいですわ! と乱闘に発展していく四人を見て、彼は虚無感に襲われたのでございました



 (…なぁ正宗、なんでお前の嫁は世紀末の覇者みたいな土佐犬なんだろうな)



 彼の視線の先には3Mほどの鍛え抜かれた巨体を惜しげも無く使い全力で肉体言語に勤しむ正宗(息子)の嫁(らしき何か)の姿がございます

 あと数日で出産予定の彼女の腹部は出逢った当初と同じように腹筋が綺麗に割れており、今現在も妊婦どころか正直女性にすら見えません


 そんな彼女と獣人正宗の出逢いは、巫女スピカの分社のあるあの保養地でございました

 いつかの日に、彼が助けたと言っていた女の子が獣人カネスなのでございます


 そうか、きっと…恐らく…いや多分、当時はかわいいおんなのこ…とも思った勇人青年でございましたが、冷静な心の声からの"いや、匂いで分かったんだろ"との突っ込みに何だか世の無常をひしひしと感じ取ってしまった次第でございます

 獣人正宗の加護によって鋭敏化した五感の精度はすさまじく、あの日勇人青年を祖父へと昇進させた夜も、受精そうそう気が付いたのでございました、あなおそろしや


 なお、二人の夫婦生活については妬みだとか羨望だとかとは全く異なるベクトルの自傷行為(致死域)に相当するので考えないように強く、ひたすらに強く心掛けている勇人青年でございます


 父ちゃん父ちゃんと彼を慕っていた獣人正宗を思えばやや空の巣症候群にも似た寂しさを感じなくもございませんが、犬の所為か相変わらず幼い思考回路の方にいささか不安の軍配が上がるのを感じるのでございました

 因みに正宗を譲り受けるにあたって、事前に何冊か読んだ専門書によると犬の知能は大まかに言って人間の二~六歳相当とのことでございます

 犬社会でならそれで充分なのでございましょうが、獣人正宗は現在人間社会で獣人の嫁を貰っているので、それについてもそこはかとなく不安を感じ、なんだか心労の耐えない勇人青年でございました


 そして、彼女の胎内で育まれる命に対しても不安が一つ…



 (やっぱ、そうなんだろうなぁ……)



 獣人正宗が爆弾発言をしたあの夜以降、シリウス青年は前にもまして口数が少なくなり、巫女スピカに対して何かを熱心に訴えているような姿を見ることが多くなったのでございます

 彼の時折 獣人カネスの腹部を見ては眼を眇める様子を見れば、勇人青年にも、それがどういうことなのか容易に想像がつくというものでございます



 (正宗の子供は、恐らく土の継承資質を持ってるんだろうな…、それも…)



 シリウス青年が気にするのであれば、母体のカネスは長命種ということでございます

 獣人の中にも短命種と長命種があり勇人青年には見分けのつかないものでございますが、生来この大陸で生きてきた彼には既知の情報なのでございましょう、もっとも、予備知識が無かったとしても、彼の眼にはよく見えているのでしょうが


 しかし、命が宿って既に二ヶ月、あと数日もすれば生まれるというところまで来ても、説得は一行に進んでいないようでございます



 (どうするんだあいつ…)



 普段は口を開くと良く回る毒舌も、彼の崇拝する義母スピカ相手にはその力を僅かにも発揮できないようでございました

 たった一人自分を慈しみ育ててくれた義母に嫌われたくない、との思いと、最終的には彼女の死へと繋がることへの彼自身のジレンマに、自分自身も強く深く、悩み、葛藤し、それゆえに あまり強く説得できずにいるのでございましょう


 それぞれ寿命という時間制限についてはほぼ無いとして考えなくともよいかもしれませんが、長引くのもそれはそれで問題がありそうではございます



 そうして三日後



 獣人正宗の娘が土の継承資質保持者としてこの世に生まれたのでございました

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