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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
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 「あぁ……そう……か」



 巫女スピカが己の死を望む、シリウス青年にとって受け入れ難かったであろうその答えは、勇人青年に衝撃を与えることはございませんでした


 彼女がそう思うのも無理はないと、彼は瞬時に理解したのでございます


 巫女スピカは既に数百歳、何度も、何度も、独り大地にうずくまり、孤独に取り残されるようにして見送ってきたに違いございません

 親しい友も、親も、兄弟も、成人してからの神属ということは、見送った中には夫や子供もいたかもしれません、そしてシリウス青年のように、我が子のように慈しんだ者も……


 自分のようなめに遭わせたくは無い、と、もしかしたらシリウス青年のように隠したのは、彼一人だけではないかもしれません


 ですから、確かに、彼の言う通り、彼女はもう、終わりにしたいのでしょう


 けれども、次代を自分のようにしてしまうことも、彼女は躊躇っているのでございましょう



 『孤独、ですか……、やはり貴方の判断では母さまがそう思うのは納得のできることなんですね』


 「やっぱり試してたか…、お前の喋る話、産みの母親がどんな風にお前を妊娠して、どんな風に罵られたとか、お袋さんが死にたがってるとか、あの人がお前相手に絶対に話すわけないもんな…心が読めるんだろ?」



 勇人青年の指摘に、彼は微かに頷いて肯定を示したのでございました

 生母のくだりはわざわざ話さなくとも身寄りが無く引き取られたと言えば済むことでございます、シリウス青年は会話の最中、ずっと勇人青年の顔を見ておりました、見定めるように、ずっと



 『貴方の想像の通り、この眼によるものです、わたしは母さまの次代を探す為によく見える眼が欲しかった、遠く、彼方まで、命の果てまで見通せる眼が』


 「やっぱその眼は元々のものじゃないのか」


 『ええ、貴方が最初に尋ねた呼び名、破戒僧シリウスの由縁です、この眼を手に入れる為にこの大陸の外まで探しに行きました、セラスヴァージュでは大規模な浄化が行われるので、魔属の超越的な進化はほぼありえません、ですから外へ』



 魔属を相手に負った常人ならば即死しているであろう負傷も、彼には掠り傷ほどのものですら無かったことでございましょう

 彼は、巫女スピカの為にその癒しの力を高めたのでございますから

 その回復力が、再生能力が、どれ程のものであるのか、勇人青年には想像すらもつきませんが



 「ソレは、魔物の眼だったのか…」


 『探し回っただけあって、中々の優れものですよ、読む能力については、読めると言っても今考えていることだけですから、知りたいことがあればそれを問うなり仄めかすなりして相手に連想させる必要はあります、他には貴方の知る通り、術の痕跡が見え、四元素が発する波動が見え、死者が見え、生死に関係なく、その心の声が聞こえる…、誰かさんは買出しで痛んだ食材を見分けるのにご愛顧してくださるようですが』


 「ぅぐ、べ、便利なものは使ってこそナンボだろ、勿体無い、お前だってそのお陰で腹を壊さずにすんでるんだぞ、持ちつ持たれつだ」


 『勿体無い、母さまもよく言っていました、今まで必要性が無かったので心を読めることを敢えて態度に表し口に出して伝えたのは貴方だけです、他人の心の内など薄汚いばかりでうんざりですから用も無いのに使うことはありませんし そういった素振りも見せませんが、勘の鋭い者は気付きます、そういった者達は誰も彼も、わたしを恐れ、遠ざかった』


 「そりゃ、腹減ったとか、便所行きてぇーとか、あいつムカつくとか、あのこ胸でかいなーとか、覗かれたら恥ずかしいことだって山ほどあるだろ、それ以外に何かあるなら、それは疚しいことがあるって自己紹介だろ、っていうか、魔物の眼だから遠ざかったんだろ、単純に怖くて」


 『それもありますが、心まで読めることは知らなくとも、やはり魔属の眼と知って近寄ってくる者は一定数いましたからね、何かしらの旨みを期待して』


 「あー、それはありそうだな、俺みたいなヤツとかか」


 『貴方はその分野においては雑魚です』


 「雑魚とか言うな、珍しく嫌味も無しによく喋るなと思ったら いきなり辛辣だなお前」


 『果物を並べて見せてどちらが甘いか鑑定させるのは雑魚ではないとでも?』


 「同じ値段なんだから甘い方が美味いしお得だろ!」


 『はいはいそうですね』


 「うわーお前ほんとムカつくなぁ、しかも俺の口真似込みとか狙って言ってるだろ」


 『とうとう開き直って口に出して言うようになりましたか』


 「今更口に出そうが出すまいが同じだろっ…で? 何なんだよわざわざソレバラしてまで聞きたいことってのは」



 会話で誘導し連想させればよいのですから、わざわざどういう能力なのか話す必要はございません、であるのなら、相手が連想するのでは足りない部分の情報を欲しているということなのでございましょう



 『母さまの小指から赤い線のようなものが延びているのです』


 「赤い線? …あぁ」



 勇人青年は、そう言えば中学時代のクラスメートが隣のクラスの女子に告白した時に"わたしの運命の赤い糸はあなたの小指に繋がってないから"とか断られて"赤い糸ってなんだよそれフるなら単純にゴメンでいいだろぉぉおおお?!"と吼え、後日その彼女に"赤い糸なんて元は中国の逸話だし小指じゃなくて足首に縄だろ、しかも相手が不細工な子供だから今のうちに殺しちまえって切りかかる話!"と大声で叫んでぶっ飛ばされてたっけなぁ……と思春期時代を回想するのでございました



 『貴方の闇に閉ざされた思春期などどうでもいいです』


 「闇に閉ざされたとか断言するな」


 『それで、その線…糸とはどんなものですか、貴方の記憶によれば運命がどうとか』


 「女子向けの話しだからあんま詳しいことは知らないなぁ…将来結婚する相手とは小指同士が赤い糸で結ばれてる、とか それにあやかってカップル同士で赤い糸とか紐とかで小指結んで来世でも回り逢えますように、とか 俺が知ってるのはそれくらい」


 『なるほど、それででしたか……』


 「なんだ、お前のことだから"母さまの運命の相手だなどと烏滸がましいにも程があります"とか言うのかと思った」



 ほっと安堵するかのようなシリウス青年の反応に、勇人青年は全くの予想外のものを見たかのような反応を返しました



 『あれは母さまの心の拠り所です、本人には見えていないようですが、精神的には常に小指を意識しているようです、…そこに赤い糸が繋がっているのを母さまは知っているのですね』


 「もしかしたら恋人か旦那か誰かと結んだのかもな、ここまでくれば俺にも分かるわ、彼女…異界人、日本人なのか?」


 『いいえ、珍しくも無い亜人種の一種です、記憶はあるようですが、流石にそこまでは覗きません』


 「俺に対しても遠慮しろよ」


 『貴方は口に出さなくても顔で語っているのでどちらにせよ同じことです』


 「マジでか」



 やけに情報量の濃い時間を過ごし、勇人青年は頭を冷ますように大きく息を吐き出しなさいました

 シリウス青年に奪われた酒瓶は空になり、窓辺に置かれたそれは月明かりに照らされておりました

 内緒話の時間は終わったのか、先ほどまでは気にならなかった巫女たちの話し声が聞こえてきます、今はもう彼が施した細工は解除されたのでございましょう



 「あぁ…ほら、待ち人来る、だ」


 『ええ』



 窓の外には自身の操る樹木に抱きかかえられるようにして戻ってきた巫女スピカと、ちょうど帰り道が重なったのか、獣人正宗とカネスの姿がございます



 「お帰り、遅い時間だから静かに戻れよ」



 ご近所を気にしてか、獣人正宗たちには充分に聞こえる小さな声で勇人青年がそう窓辺から声を掛けると、夜の闇も晴れ渡るかのような元気な返事が返ったのでございます



 『おぉんわん!(ただいま父ちゃん、仔供できた!)』


 「なん…だと…?」



 彼は男であるにも関わらず立派にお母さんを担うだけでは飽き足らず、図らずも一行最大の難敵であるシリウス青年を攻略し酒を酌み交わす仲にまで上り詰めた勇人青年はしかしとどまることを知らず、独身であるにも関わらず更に父から祖父へとクラスチェンジしてしまったのでございました


 彼の光の差さない青春の行方や如何に?!

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