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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
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 『自分が素質を持っていると知ったのは、齢七つを目前にしたある時でした』


 「彼女に、教えられた…の、か?」


 『いいえ、母さまは一度も、一言も、わたしに教えては下さらなかった』



 傷の塞がった手をそのまま伸ばし、彼は勇人青年から酒瓶を取り上げ、そこから直に一口、酒を飲み言葉を続けなさいました



 『わたしはその時まで、度々母さまの分社に訪れる神属者は只の客人か何かの連絡役だと思っていました、けれど一人、客にしては一言二言交わしただけですぐに分社を立ち去り、毎回違った人物と二人連れで訪れる者がいました、連絡はわざわざ訪ねなくとも便利な術があります、訪ねる必要はないのでその人物を含め連絡を目的に訪ねてくる者もいないでしょう、その人物が訪れる頻度はとても少なく、毎回、連れてきた者を母さまに見せては、すぐに立ち去りました』


 「もしかして…継承者の確認か?」


 『ええ、継承者に足る素質の有無を見分ける方法は簡単です、継承者同士でも、継承していない素質者同士でも、相手を見るだけでいい、まぁ土の継承者に限っては視力ではなく能力を使って、ですが、相手の内に、光が見えるのです』



 巫女スピカは、生まれたばかりの彼の魂に、確かに存在する見間違い様の無い光を見たのでございましょう



 『その人物は土の能力者を見つけては、母さまに面会させ、素質があるかどうかを調べていたのでしょう、素質を見極める程には至りませんが、同じ四元素を持っている者同士はお互いがその属性の能力者だと本能で分かりますから、そうして見つけた数少ない能力者を連れてきたのでしょうね、わたし自身は、常に母さまの内に見える光が一体何を示すものなのかを知ったその時まで、自分が土の能力を持っていることすら知りませんでした』


 「隠して、いた、…のか?」


 『そうです、ですからほら、そこの神官、彼はわたしが同じ四元素だとは気付きません』


 「ッ! そういえば…っ」



 咄嗟に視線を向けた先に、まだ和気藹々と言葉を交わす彼らの姿を勇人青年は眼にしたのでございます

 考えてみれば、声を潜めているとはいえ、先ほどから勇人青年は憤るような声と態度を隠してもいないのでございます、不穏な空気を感じ取り巫女たちがこちらに来ても良さそうなものでございましたが、そのような様子も一切ございません


 特に、シリウス青年の話を思い出すならば、土の継承者である神官ハダルに対しては声を潜めようとも意味がございません、であるにも関わらず、シリウス青年が土の継承資質保持者だと告白しても彼に反応は無いようでございました

 恐らく今現在、シリウス青年が何かの細工を自分達に施しているのでございましょう



 『今は自分の力で隠しています、遠く離れた任地から動かないのであれば兎も角、流石に浄化の為に土の継承者が外を出歩くようになれば、すぐに分かってしまいますからね、ですから今は光共々捉えられないようにしています』


 「じゃあ…お前を次の継承者にするわけでも無く、隠す、ってことは…」


 『ええ、母さまはわたしを継承者にはしたくなかったのでしょう、理由は先ほど話した通り、神属者がどうやって育てられるのか、土の継承者がどんな扱いを受けるのか…、彼女は幼いわたしによく言って聞かせました"普通に幸せになってくれればそれでいい"と』


 「ああ…そう、だな、あの人は優しいから、そう思うはずだ」


 『わたしは今までその言葉に違和感を感じていました、母さまの忌避する育成方法も土の継承者の戒めも、神属者にとっては特別変わったことではありません、母さまは成人してからの神属だったそうですからその所為かとも思いましたが、しかしそれも違う気がしていました、けれど最近、答えが見つかった気がします』


 「違和感? その答えってのは何だ…」


 『母さまの言う"普通"は多分…貴方の知る"普通"ではないか、と わたしは貴方を"見て"そう思うようになりました』


 「……? どういう意味だ?」



 勇人青年の疑問に、彼はその第三の眼を眇め、やはりすぐには答えを返す様子はございません



 『わたしは自分が継承者の素質を持つと知って、すぐさま神属化することを決めました、今までわたしを慈しみ、育ててくれた彼女が私に対し移譲するとは思えませんでしたし、何よりも移譲が済めば母さまは即座に命を失うでしょう、ですからわたしは二つのものを欲した』


 「ふたつ?」


 『母さまが気兼ねなく移譲をできる次代と、わたし自身の強い能力です』


 「気兼ねなく移譲って、あの人の性格上無理だろそれは」


 『そう難しい話でもありません、世界は広大ですから、元々長命種で素質を持つものを探せばいいのです、それも同種族同士の夫婦でいることが望ましいですが、独り身であっても適当に性格の合いそうな同種の異性をあてがえば問題は無いでしょう』


 「は? 理屈がぜんっぜん分かんないぞ」


 『母さまが気にするのは逃れられない不自然な長命と土の継承者独特の戒めです、ですから元々長命種である素質保持者を探せば問題ありません、視力と聴力を奪うのも精神的に不安定に陥ることを未然に防ぐためですから、同じ長命種の伴侶がいれば安定し、そのような処置も必要無くなる、そう考えました、視力と聴力の剥奪は誤魔化す方法はそれなりにありますし、任地についてしまえば常に忙しく、患者は兎も角として神属者と会う機会は劇的に減ります』


 「そんな都合よくいくかよ」


 『当時まだ七歳そこそこでしたからね、浅はかでかわいいものです、今ならもっと確実且つ巧妙にできます』


 「(いや、ぜんぜんかわいくねぇよ)ああ…そう…で、強い能力ってのは…?」


 『土の能力は、大まかに言って大地から植物に生命力を注ぎ込み作用させる実り、その派生として草木を自身の五感や手足の延長として操る、そして同じく派生として、植物を成長させ実らせるのと同じように人体に対して影響させる癒し、大体この三つです、因みに継承者はこれら四元素の力が浄化の力に対抗できる程に強力です、でなければその力は浄化に耐えられず消えますから』


 「…それで?」


 『この癒しの能力を強化することを考えました、肉体の劣化を解消できれば、移譲しても母さまは死ぬことは無い、と』


 「ああ、うん、それは良さそうだ、それで神属したってことか、お前に内緒にしてたくらいだし、彼女は力の使い方とか教えてくれなさそうだもんな、で、お前のことだから、当然可能なんだろ?」



 こちらでの生活で、巫女スピカを第二の祖母のように感じていた勇人青年は、途端に満面の笑顔になり彼の考えに一も二も無く賛成いたしました

 しかしシリウス青年の言葉は、期待したものとは違っていたのでございます



 『それは勿論、……ですが望みは絶たれました』


 「え、な、なんでだよっ?!」



 勇人青年の焦るような問いに、彼は祈るように眼を閉じ、静かに答えたのでございました



 『母さまは死を望んでいるからです』

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