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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
序ノ口というか前菜というか、備えが無いから憂いまくり
2/46

01

 何から語ることに致しましょうか


 そうですね…


 そう、そこ…


 豪然たる戦士、死者の如き神官、冷徹なる魔道士、疾風の如き獣人、四者によって齎される破壊音、絶叫、断末魔、まさしく阿鼻叫喚そのもののような異様な空気に支配されたこの空間で、草木の合間に埋もれるようにして膝を抱えて座り込み、息を潜めて極力その存在感を押し殺そうとする青年の姿が見えますでしょうか?

 とりあえずは彼に視点を定めて語ってみることに致しましょう


 ぎゅっと膝を抱えた俗に言う体育座りの状態で、嵐が過ぎ去るのをただただひたすらに待つかのようにじっと息を潜める彼の名前は神代勇人、テキト…いえ、適当に勇人とでも呼んでさしあげてくださいませ


 本来の彼は地球という星の日本という国に生まれ、大学という学業を修めるための機関に所属する一介の学生であり、顔の美醜に関しては最近の日本の言葉で表すのならフツメンと評するのが妥当なところでございましょう

 これといって他者に自慢できるような秀でた才能も特技も無く、運動能力的にも知力的にも出来は並、名は体を現しておらず、どこに出しても恥ずかしくない庶民代表、キングオブ……

 いえ、キングではありませんね、只の純然たる凡人でございます


 そんな凡庸な彼の将来の夢は結婚する時には婿入りすること、それが無理なのであれば次善策として養子縁組をすることでございました

 「名前自体に文句は無い、ただ苗字に若干の不満があるだけだから、文武? フルフラットですがなにか?」それが今のところのささやかな願いでありました


 このように特出したものは何一つ無い彼でしたが、何の因果か所謂ところの"異世界"で世界を救う旅なるものをしているのでございます


 なぜ彼がこんな旅をしているのか、そもそもの発端をお話し致しましょう


 あれはそう、彼が所属する大学のサークル仲間から生後二週間ほどの柴犬の仔を一匹譲り受け、新たに加わる我が家の一員を今か今かと待ちわびる実家の家族の下へ帰るために駅のホームで電車を待っている時のことでございました

 「この二股男ぉぉぉおおおっ!」女性の金切り声に振り返った瞬間その視界に入ったのは、鈍く光りながらも彼に向かって真っ直ぐとブレることなく、まるで吸い込まれるかのように刺し込まれようとする包丁でございました



 (二股男とか相手の顔をよく確認してから言えよ彼女いない暦イコール年齢の俺に喧嘩売ってんのか買うぞこのやろう!!…ただし学割で頼む)



 などと咄嗟に文句だけは人一倍脳裏に浮かんだ彼でございましたが、けれども口に出せるほどの余裕などあるはずもなく

 それはともかくとして、少なくともその凶刃を避けられる程度の反射神経は持ち合わせていたらしき彼は、足を縺れさせながらも横に数歩分移動することで誰かにぶつかりながらもなんとか回避に成功した、……かのように思えました



 総ては僅かな瞬きの合間の出来事でございます



 目標を失った女性がバランスを崩したところを周囲の人々が取り押さえ、居合わせたどなたかが警察に通報し、騒ぎに気付いた駅員の方々が駆けつけ、実際には切り掛かられてから今この瞬間までに僅か数秒の出来事ではありましたが随分と長く感じたそれが過ぎ去り、やっとそこで一息ついた彼が先ほど避けた拍子にぶつかってしまった人物に謝罪の言葉を伝えようとした時のことでございます


 ぶつかってしまった相手の顔を確認すると、最近の言葉で表現するよりは寧ろ美男子と評した方が適切に感じられる程の美形でございました


 …そう、何かの物語の主人公と断言してしまっても過言ではない程の……



 (あ、イケメン、なんか謝らなくてもいいような気がしてきた)



 相手の顔を確認するなり一瞬そんなことを考えてしまった彼でしたが、一介のフツメンとしてはいろいろと思うところもあるのでございましょう、人間なのですから そのような感情も当然のこと 人それぞれにこれも個性でございます、慈愛の眼差しを装備して斜め45°上辺りからそっと見くだ…見守ってさしあげるのが慈悲の心というものでございましょう


 しかしながら彼は義理を欠くような性格ではないようで、謝罪の言葉は言わなければならない と卑屈な自身の心の内を一瞬で宥め口を開いたその瞬間、なんと彼の足元から眩いばかりの光が放出し、彼を飲み込んでしまったのでございます



 「あ、え、お、おぉ、ぇあ?」



 嗚呼、なんという悲劇!!


 ええ、それは、まさしく一瞬の

 総ては僅かな瞬きの合間の出来事でございました


 瞬きの合間に知覚することすらもできず、正しく一瞬のうちに全く知らない場所へと来てしまった彼は、不安を押し隠すこともできずに定まらない視点でせわしなくきょろきょろと周囲を確認するも、そこは既に慣れ親しんだあの駅のホームではなく、彼自身の周囲を取り囲む人々も見慣れた装いではございません

 先ほどの喧騒とは程遠い厳かな雰囲気を漂わせ 彼を圧倒する白装束の集団の姿に、彼はこの状況を問い質すどころか、意味のあるまともな言葉の一言すら発することもできない有様でございました


 彼は特出したもののない いわゆるところの単なる十束一絡げの一般人、いかなる状況においても平静を保つことを求められ そうあれるよう訓練を積み重ねてきた練達の士というわけでもないのでございます、そのようになってしまうのも無理からぬことでございましょう



 「ま、ま、……マジでか」



 紛うことなくマジでございます


 その日、彼は"望まれぬ異邦人"として、彼の地からこの世へ紛れ込んでしまったのでございます

※因みに仔犬は豆柴をイメージしていますが、豆柴という犬種は正式には無いそうですね

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