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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
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 「どうした正宗?」


 『わぅおう、おおん(知ってる匂いがする、ちょっと行ってくる)』


 「おー、気をつけてなー」



 路銀稼ぎと食料補充に街へ寄り、巫女スピカを宿で休ませ、あれも食べたいこれも食べたいと収拾がつかない巫女たちには素材売りを任せ、勇人青年とシリウス青年と獣人正宗で買出しに市場に出たところ、正宗は知人の匂いを感じ取ったのか人ごみの中へ紛れていったのでございました



 (あいつ、他の獣人より五感が鋭いんじゃないか?)



 獣人正宗がどの程度遠距離の匂いを嗅ぎ取って向かって行ったのかは分かりませんが勇人青年がそう思うのも当然のことで、この六ヶ月、たびたびこうして道なりに街に寄っておりますが、そこで見掛ける獣人たちはみな人間よりも嗅覚と聴覚が鋭くやや体格が大きい程度で外見は獣のものであるのは兎も角として後は他の種族とさして大差が見当たらないものでございました


 けれども正宗はそんな獣人たちに比べ身体は小さいものの五感においては彼らを数段上回り、腕力も脚力も比較にすらなりません、生肉を好むのも恐らく鋭敏すぎる味覚の所為でございましょう、勇人青年はアマノリュウセイが受け取る筈であった加護の影響では、と考えているようでございます



 (言ってる意味は分かるけど、他の獣人は人の言葉を話してるのに正宗は犬の鳴き声のままなんだよな……、そのせいか行く先々で女にモテても一歩引いてるっていうか)



 街に寄る事があっても、幼獣の頃の経験からか、美しくとも義母以外にはおよそ表情がそぎ落とされた近寄り難いシリウス青年の傍に寄るか、はたまた別の意味で近寄り難い巫女たちの傍に寄り、女性達どころか他人が近寄るのを避けているようでございます


 街中では勇人青年と二人だけで行動することは殆どございません、一度それで勇人青年が言い掛かりをつけられたことがトラウマとなっているのでございましょう

 彼の容姿は凡庸であるので、このような集団の中にあっては妬みの対象なのでございます

 そんな獣人正宗が、知り合いがいる、と言って一人別行動をとる姿は、勇人青年の眼にはとても珍しいものとして映ったのでございます


 本当に知り合いなのか、それともその鋭敏な五感で何かの危険を事前に察知したのか……



 『貴方が気にしてどうなることでもないでしょう』


 「あぁ…そう、だな、買い物を、続けるか」



 巫女スピカを宿で待たせているのを思い出し、彼は後ろ髪を引かれつつも本来の目的に戻ったのでございました

 隣に立つシリウス青年の違和感に言及せず、勇人青年が違和感を感じていることに彼が気付いていることにも、敢えて口にせず




 *** *** ***




 「ほんとだ日本人じゃん、でもアンタ顔はダメだなぁ」


 「(初対面でコレかよ)……お帰り正宗、帰ったら手洗いうがいだぞ」


 『わぉうわん(ただいま父ちゃん)』


 「うわ待った待った! んだよ愛想悪ィなぁアンタ、コミュ障なんじゃね?」


 「ちょっと帝くんっ、いくらなんでも失礼だよっ」


 「真由子は気にしすぎなんだよ、そんなんだから彼氏の一人もできねぇんだって」


 『そうよマユコ』


 『ユーシャさまの言う通りだわ』



 宿に戻った獣人正宗は日本人二人を含む集団を連れておりました、面子は発音はネイティブの日本語ながら顔立ちは整った日本風の金髪碧眼の男性と、純日本人風の女性に、巫女が三人と獣人と神官が一人ずつ

 構成人員が似ており、どのような集団であるのかは想像に容易くはありましたが、挨拶も無しに初対面で他人の容姿について話し出すその態度に勇人青年は関わる必要は無いと判断し、室内に戻ろうとなさいました


 しかしながら、相手はやはり図々しさも兼ね備えていたようで、断りも無く室内に入り込もうとまでする始末でございます



 『その方々は…』


 「あぁ、大丈夫だプラウ、奥で皆と荷物整理を続けてくれ、さてお前ら、表へ出ろ」


 『まぁ何て無礼なっ、ユーシャと同じ異界人だからと図に乗って!』


 「無礼? 無礼ってのは初対面で挨拶も名乗りもせずに開口一番相手の容姿をあげつらうことか? 招いてもいないのに図々しく他人の部屋に入り込もうとすることか? 諌めようとした女の子のことを寄って集ってバカにすることか?」


 『くぅんおおう(父ちゃん…)』


 「あぁ、大丈夫だ正宗、中に入ってな、さて聞こえなかったか? 表へ、出ろ」



 勇人青年は確かに加護を持たない凡人であるのでこの面子の中では恐らく二番目に非力でございましょう、けれどもその剣幕には無視できないほどの圧力がございました

 しかし珍しいものではございません、日本人にありがちの、大人しいヤツほどキレると怖い、というヤツでございます


 老眼で耳は遠くとも触れる建屋や大地を介して遠方まで周囲を探り状況を察することのできる巫女スピカが、こちらの面子の中で一番沸点が高く口と腕の立つ義息子シリウスに目配せをすると、彼は深くため息をついて立ち上がり、勇人青年の傍で初めて見る彼の怒気におろおろとする巫女プラウと獣人正宗の襟首を掴んで奥へ引き入れ、ご自身は出入り口で立ち塞がる勇人青年の背中を押しつつ室外に出て後ろ手に扉を閉じなさいました


 部屋とは隔絶され、他にも宿泊客のいる筈の宿の通路は誰か通りかかっても良さそうなものでございましたが、傍目にも分かる聖職者同士の争いとあっては、とばっちりを避ける為であるのか遠巻きに眺めることすら無く、宿のオーナーも建屋が破壊でもされない限りは注意にも仲裁にも現れないことでしょう

 何か出来ることがあるとすれば、それは破壊された場合に神殿に請求書を送るくらいでございます

 どういった現状になっているのか気付きもしない相手の方々は、余程 勇人青年に集中しているのか、シリウス青年には見向きもなさいませんでした


 さてさて、他所のお家の"お母さん"を怒らせてしまった"躾のなっていない世間知らずの坊やたち"はお説教だけで済むのでございましょうか?

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