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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
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 『わたくしは、わたくしは今まさに! 絶・好・調!!』


 『"ですわ"抜けてる』


 『はわぁ~ねぇさまとっても嬉しそうでげぇぶぉおおっ!』


 『わぉうわんわんわん!(父ちゃん大丈夫か父ちゃん大丈夫か父ちゃん大丈夫か!)』



 ほーっほっほっほ!!と古式ゆかしい高笑いを披露する巫女プラウでございましたが、真実の姿ならばよく似合ったその古き良き様式美も鍛えすぎて実用性を逸脱した肉体美を誇る体育会系美男子の姿では筆舌に尽くし難いものがございます、が、明るい気持ちになることは心身にとってとても良いことでございますので、そっとしておいてさしあげるのが最善かと存じ上げます


 さて現在の状況としましては、澱みの影響を受け易い負の要素を元々持ち魔属化してしまわれた人々の集団を相手に巫女たちは戦っておられます

 まぁ平たく表現すれば盗賊の類いであるとか傭兵崩れであるとかそのへんでございます

 巫女たちはこうした魔に影響された動植物や人々を浄化しながら目的地を目指しているのでございます

 ですので、保養地に向かう為に一足飛びに山を越えた行為は説教を受けるに充分な理由であり、下手をしなくとも哀しいことに勇人青年が瀕死に陥った事態よりも重要性は格段に上でございます


 話しは戻りまして、流石に元は人間でございますので魔獣を相手に容赦なく猟奇的行為に勤めるようにはできません、ですから四人の巫女で力を混ぜ合わせた浄化の光を宿した拳でただひたすらに打つ、撃つ、討つ!

 おっと、討ってしまってはいけませんでしたね、ともかく、浄化の御手で頭部や腹部などを張り飛ばす、もしくは抉り込むように打たれた彼らは口や眼、耳、鼻などから黒く燻る澱みを吐き出し解放されていったのでございます

 勿論、そんな彼らも路銀の足しとして立派に懸賞金へと昇華する運命でございました


 ところで、巫女プラウが喜びのあまり笑いが止らない現象でございますが、それも致し方ないことでございましょう

 この六ヶ月、味もさることながら栄養面でも劇的に変化した食事は彼女に慶事を齎したのでございます


 なんと、どこにあるのかも曖昧な巫女プラウのゴルゴタの丘が、かなりのご老体でも自転車に乗ったまま負荷を感じずに越えてしまえるほどにその存在感を発揮したのでございます

 物量で満たすだけのかつての食事を鑑みれば、それも当然の結果と言えましょう

 彼女の丘が隆起したことについては、一部、特定の趣味趣向を崇拝する層にとっては勇人青年を消し去らんばかりに許し難いことではございましょうが、それは置いておくとして

 およそ欲とは無縁を努める神属であるとはいえ、彼女も十七歳の年頃の乙女でございます、気にしていないつもりでもご本人すら気付かぬ心の奥底ではひっそりと劣等感を感じていたのでございましょう


 その喜びようは治まることを知らず、勇人青年に大きくなったことを報告し感謝する彼女のその胸は、彼の眼に重圧さを増した胸板としてぴっくんぴっくんと元気良く自己主張をするのでございました、あまりの衝撃に平時であれば"年頃の娘なんだからそんなことをしてはいけません"と言うところですが口から意味の在る言葉を何一つとして吐くことができない有様でございます


 ごりごりの胸板の篤い抱擁を受け白目を剥く勇人青年は兎も角として、健康的な食事と家庭(比喩的表現)の温かさのお陰か、巫女たちは心身ともに充足しており精神を病む気配は今のところ微塵もなく、寧ろ破竹の勢いで加速するかのように より精力的に浄化に勤めるほどであり、そういう面では此度の召喚は大成功と呼べるものでございましょう

 彼がこちらへ来てしまったのは不幸な事故だとしても、アマノリュウセイの果たす筈であった役割を勇人青年は勇人青年なりに立派に果たしているのでございます、これも天の配剤でございましょうか、世の中は収まるべきところに収まるということでございます


 因みに、勇人青年がこのように心神喪失状態になってから実に十数時間経過しているのでございますが、その間、彼は白目を剥きっぱなしであり、巫女たちのご飯コールで無意識に食事の支度をする以外は辛うじて生命活動を維持している状態であり、獣人正宗は心配で心配で戦闘に参加せず獲物を狩りにも行かず彼の周囲をぐるぐる回る始末でございます

 見兼ねた巫女スピカが樹木を操って彼を運ぼうとしたところ、義母の手を煩わせまいとシリウス青年が勇人青年を小脇に抱えるという奇跡まで起こったのでございました

 勿論シリウス青年は、最初はそのまま廃棄していこうと提案なさったことは言うまでもございません



 『こ、これは!』


 『ねぇさま、げぇっふ、ついにやりましたねぇえ゛え゛ぉうっぶ!』


 『植物図鑑!植物図鑑!!』



 魔属化した者達を精力的に屠って、いえ、解放していた巫女たちは、彼らが人としての理性を失った後も塒としていたアジトを漁っ、検めておりましたところ、念願の植物図鑑を掘り起こしたようでございました

 発見した盗難品は可能な限り提出する義務がございますが、持ち主の特定が難しい量産品の書籍や刀剣類などは持ち主に返されることはほぼ無いに等しく、倉庫を圧迫するだけですので、こういったものは提出を嫌がられ発見者の懐に入ることも敢えて見逃される品々でございます


 それ故に、巫女たちは図鑑を悪気無く懐に収めることとしたようでございます、まぁ図鑑などという高価な書籍は提出を求められる部類ではございますが、その辺りは無視でございました


 この快挙を褒めて欲しい巫女たちと、勇人青年に突撃してくる彼女たちを見た獣人正宗との間でちょっとした抗争があったことをさり気なくご報告申し上げましょう



 「お前ら、喧嘩は、やめなさい」



 その騒がしさでようやっと現世に戻った勇人青年は ぐったりとした様子で彼らを叱りましたが、やはり効果はございませんでした



 「あぁ、これなんか手頃な大きさだな」


 『効力の強い加護が付与されているようですから、貴方には価値があると思いますよ』



 なんとか騒ぎを収めた後、提出を喜ばれない類いのものを路銀として整理する為に仕分けていると、その中に控え目な装飾の一振りの片手剣がございました

 今現在のところ、その必要性はほぼ無いとはいえ、そろそろ護身用に一本ほど持とうかと思っていたところのようで、タダで手に入る上に柄が握り易く手頃な長さの刃渡りのそれは素人の勇人青年ににも丁度良いように見受けられました



 ……が、



 『見たところ使用時に持ち手の生命力を吸い取り力を発揮する剣ですから、無力な貴方にとても適していると思います』


 「加護っていうかダメな感じの咒いの剣だろそれぇぇえええええ!!」

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