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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
13/46

03

 「……あの」


 『なんですの?』


 『なに』


 『なんでふがぁっふげふごほっ』


 『きゃんわんわん?(お父ちゃんどうしたの?)』


 「(……なんで……なんで)……いや、狭くないか?」


 『『『全く』』』


 「…そう……か」



 最初は野宿の為の装備らしい装備も無く、幼獣正宗が横になった勇人青年の身体を温めるように彼の腹部で丸くなっただけでございました

 けれども気が付けば右側に巫女プラウ、左側に巫女ミアプラ、そして頭の上に巫女アプスといった具合に三方を固められておりました


 距離としては、日本人である勇人青年には少々…いえ視覚情報込みで物理的にも精神的にもかなり厳しいパーソナルスペースの侵略具合でございます



 「あー…あ、ほら、交代で見張りとか!」


 『結界を張ってあるので心配は無用ですわ』


 『三人で混合で張った、とても頑丈』


 『安心して、えぐっふ、お眠り、くださひぃ~~』


 「あ、ああ、みんなありがとな(なぜだろう、永眠しろと言われた気がするのは)」



 精神的疲労と肉体的疲労で身体は睡眠を欲していた勇人青年でございましたが、うとうとと眠気が襲うたびに、婦女子ならばよろめいてしまいそうな左右からの寝息と、何時止まってもおかしくないような不安を大いに煽る途切れ途切れの呼吸音に眠れぬ夜を過ごし、立派な隈を目の下に作ったのでございます




 *** *** ***




 「山越え?」


 『ええ、あそこに見える山を越えれば土の巫女がいらっしゃる保養地にすぐ着きますわ』



 そんなわけで立派な隈を作った勇人青年は巫女プラウが指し示す方角をやや朦朧とした意識でぼんやりと眺めたのでございました

 彼女が示す先には、山頂が雲から突き抜けるほどにうずたかい山が聳え立っておりました、もっとも彼女達が拠点とする神殿のあった山よりは幾分か低くそうではありますが、勇人青年にその判断がつくはずも無く、多少低かったところで特に劇的な変化もございません



 『大丈夫、アプスが風で運ぶ、プラウの爆風よりも安全に到着する』


 『堕落に繋がるので楽をする為だけに使うのは忌避されるのですが今回は旅の目的が目的ですし、神もお許し下さいますわ、ねぇアプス?』


 『がんばりまひゅぇえ゛っほげほげほげほ!』


 「え、何言ってんのかちょっとわかんないんだか嫌な予感だけは凄くするちょっとまてまてまてまてぇぇえええぇええ゛え゛え゛え゛!!」


 『きゃいんきゃいんきゃいんきゃいん!!(お父ちゃんこわいお父ちゃんこわいお父ちゃんこわい!!)』



 おや、もうあんなに高く遠く、まるで砂粒のようでございますね

 さて、勇人青年らが向かったのは怪我や病を患った人々が療養の為に訪れる保養地でございます

 巫女の方々の話しによれば、土の巫女は癒しの力に長けており、訪れる者たちを癒す為に赴任しておられるのだそうで、まずは彼女を迎えに行くことが最優先なのだとか


 それはそれとして加護を持つ巫女たちや幼獣正宗とは異なり全くの生身の状態で遥か上空に強制上昇していった彼が凍りついたり窒息したりしていなければよいのですが…






 ―― ゆうくん


 (…ばぁちゃ……?)


 ―― そうだよゆうくん、ばぁちゃんもお父さんもお母さんも、ひでくんもせいちゃんも、ゆうくんが行方不明になったって聞いて、とっても心配したんだよ


 (ごめん…しんぱいかけてごめん……)


 ―― こんなに冷え切って、寒かったろうねぇ


 (ばぁちゃんの手はあったかいな…冬の寒い日は…いつもこうやってあっためてくれたっけ)



 共働きのご両親に代わって勇人青年の面倒を見たのは彼の祖母でございました、手を繋いで二人で買い物に出掛けた時、木枯らしの吹く中を家に帰った時、冷え切った彼の手と頬を包むように温めてくれたのでございます


 やがて年の離れた弟妹が生まれた時、勇人青年は聞き分け良く一歩引いてその手を二人に譲ったものでしたが、それでも折に触れ彼女のその手は彼を暖かな気持ちにしたものでした



 ―― まぁ嬉しい、ゆうくんは急にお兄ちゃんになってしまって遠慮がちになってしまったから、こんな風に素直なゆうくんはどれくらいぶりだろうねぇ



 彼が小さい頃のように、皺の刻まれた手に頬を摺り寄せると、その手のひらが勇人青年の頭にそっと伸ばされ




 み゛しり。




 「ぃだだだだいだいだいだいだだあぁああぁあぁあ゛あ゛あ゛ッッ?!」


 『わたしの母さまに何の真似ですかこの下郎、その大罪 身を持って償なって下さい、貴方のその空っぽの頭を粉々に砕いてさしあげますよ』



 強制的に覚醒させられた勇人青年が見たものは、彼の頭部をすっぽりと掴んで砕こうとする手の向こうに凄む、見事な作り笑いの美青年の姿でございました



 『こちらの方が土の巫女のスピカ・ケレス様です、壌土の巫女と呼ばれていらっしゃいますわ』


 『こっちの彼は、げふ、がふっ、シリウスさんですぅ~』


 『スピカさまの義息子、性格は最悪』


 「あぁ、えっと、神代勇人です、こっちは正宗」



 きゅうきゅう鳴きながらべろべろと頭を舐めてくる幼獣正宗をなだめつつ、とりあえず紹介された老女と青年に挨拶を返す勇人青年は不躾だとは思いつつもじっくりと二人のお姿を確認なさいました


 土の巫女と紹介された老女はにこにことした様子でかなりの高齢と見受けられ、何か食べているのかそれともわりと高齢者にありがちなアレなのか、常に口元がもぐもぐとしており

 青年の方は、本来こちらに呼ばれる筈だったアマノリュウセイが霞む程の美形でございます


 たとえ彼の両の眼が閉じられ、その額に存在する第三の眼がこちらをじっと凝視し、勇人青年既知の故郷の常識は置いておくとしてこちらの常識的にどうかの判断が付かないとしても、敢えて美形かと問われれば、まぁその範疇には属しているのでございましょう、恐らくは



 「(なんだよイケメンは滅びろ、じゃなくてこんなに顔のいい男がいるのになんで召喚なんか、いやそれはともかく治療のお礼を)あの、さっきはどうも、治してもらってありがとうございます」


 『母さまに色目を使うのはやめて下さい、眼球を抉り取られたいんですか』


 「(あ、これダメな感じのヤツだ)いや、俺熟女はちょっと(いや熟しすぎだけど!)因みに年齢差前後2~3歳くらいまでだから、うん」


 『母さまを袖にするとは度し難い屑ですね、眼球を抉り取られたいんですか』


 「わっかんねぇよ!お前の正解はどっちなんだよ!!」



 理不尽に正解などございません

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