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神代勇人は雄染常態!  作者: 忍龍
破れかぶれでも死守しなきゃいけない一線はあるわけで
11/46

01

 なんと気持ちの良い陽気でございましょう、抜けるような青空でございます


 え? いえいえ、何を仰いますやら


 たとえ気高くも可憐な十七歳の乙女の筈の火の巫女の一見して脳まで筋肉で仕立てられた屈強な戦士に見えるその豪腕を抉りこまれた敵が内部から爆発し肉片が千々に舞おうとも


 たとえ春の陽気のような十五歳の乙女の筈の風の巫女が死者の如きというよりは死者そのもののような姿で操る風が敵を粉微塵に切り刻み辺りを血霧で覆おうとも


 たとえ凛々しくもどこか稚い十二歳の乙女の筈の水の巫女の年齢性別にそぐわない万人を惑わすその唇から紡がれた魔法の如き聖句が敵の肉体の至る所から血液も体液も噴き迸しらせ乾いた肉体が砕け散ろうとも


 たとえ生後二週間の可愛い盛りの筈の仔犬の前足がまるで人の手のような指を駆使して敵を万力のように掴んでその四肢をもぎ取り瞬く間に無残な肉塊を撒き散らそうとも


 それらは総て幻視幻聴、さらには幻臭、総じて幻覚というヤツでございます


 草木の合間に身を小さく纏めて埋もれるようにして潜み、一刻も早く阿鼻叫喚が過ぎ去ることを祈る勇人青年にとっては、何が何でも空は晴れ渡り風は穏やかに頬を撫ぜ小鳥は人生を謳歌するように空を舞っているのでございますよ、ふふふ



 『カミシロ殿、お待たせしましたわ』


 「ああ、うん、おつかれさま。」


 『頑張った、とても頑張った』


 「えらいなー、うん、えらいえらい。」


 『ぼくも~げひゅ、がんば、ごぶっ、げふげふっ』


 「すごいなー、うん、すごいすごい。」


 『きゃわんわんわん!(ぼくいいこ?ぼくいいこ?ぼくいいこ?)』


 「いいこだなー、うん、いいこいいこ。」



 さして時間も掛けずに始末をつけて集まってきた巫女たちと幼獣正宗の血と肉片にまみれた顔を、何かを悟ったかのような表情で目線を遥か何処かに据えつつごしごしと丁寧に拭き清める勇人青年でありました


 初めてその姿を眼にした時、絶叫を堪えつつも見た目は兎も角として中身は多感な年頃の少女達を傷付けてはいけない、と彼が身嗜みに気をつけるように言いつつ巫女たちに付着した血糊を拭ったところ、何故か次回から初回以上の血と肉片にまみれるようになった彼女たちを拭き清めるのが勇人青年の新たな日課でございました



 さて、旅はまだまだ二日目でございます



 昨夜は色々なハプニングがございましたようで、彼の眼の下にはくっきりとした立派な隈がその存在を強固に主張しておりました


 死屍累々とした現状を少しでも和ませるために、隈の原因を幾つか列挙してみましょう

 いえいえ、労いの言葉など、そんな、ありがたく頂戴致します

 彼らの旅路を殺伐とした空気から守るのが役目で御座いますから、その暖かな御心が何よりの励みでございますとも、ええ



 それは野営の為に薪を集めようとした時のことでございました



 『自分達だけで野宿、はじめて』


 『何をしたらよいのか皆目検討がつきませんわ』


 「一応、幼稚園児の頃から毎年夏はキャンプしてたから、こっちの食べられるものとそうじゃないものの選別は任せるとして火種さえあればなんとか」


 『ひだねなら、げぼっ、げぶっ、プラウねぇさまがごふっごふっ!』


 『そうですわね、火ならばわたくしが、この通り』



 ゴアッ。



 『キャインキャインキャイン!!(お父ちゃんこわいお父ちゃんこわいお父ちゃんこわい!)』


 「ぎゃぁぁああああ!!」



 天を貫くかと思うほどの紅蓮の火柱が立ち昇り、突然の熱波に後ろへ転がり尻餅をついた勇人青年と幼獣正宗は毛先を焼失させてしまいました、動物である正宗にとっては突然の火柱に驚き怖い思いをしたようで少々可哀想ではございましたが旅としてはこれならば火種の心配は微塵もございません

 因みに巫女プラウの灼熱の焔によって肌を赤く染め上げた逞しいその姿はまるで勇人青年の故郷の物語に登場する魔人イフリートのようでございます、なんと頼もしい姿でございましょう!



 「ひ、火はもう分かった、あ、あり、ありがとうな! えっとそう、他に必要なのは水と薪だな…あ!、もちろん水も大丈夫なんだろ、うん、分かってる分かってる、いざという時に見せてくれれば!」


 『次は薪、大丈夫、ちゃんと用意できる』


 『お任せくだぐぇっほっ!』



 巫女ミアプラとアプスがそう言うと、巫女プラウが直径3Mほどの大木をおもむろに掴み、ズゴォッという音と共に勢い良く引き抜くとそのまま空へ投げました、すると今度は巫女アプスが宙に舞うそれを風を使って使い易い大きさに切断し、最後に巫女ミアプラが燃え易いように水分を抜きました


 ガラガラと良く乾燥した音を立てながら大量に落ちてきた木…いえ、薪は巫女アプスの操る風によって巫女プラウの手元に集められうずたかく積み上げられ、中々の眺めでございます



 「す、ごいな、うん、はは…、でもちょっと多いな、あー…普通はこんな感じの枯れ枝とか倒木を集めるんだ、そんなに持ち歩けないだろ、こんなに質の良さそうな薪を使わなかった分置き去りにしていくのも勿体無いし」


 『『『!!』』』


 「あ! え、あ、でもほら! 路銀の足しにはなるんじゃないか?!」



 良かれと思って張り切ったお手伝いが実は全くの逆効果だと分かった時の子供のようにこの世の終わりを見たかのごとく顔色を青くしたその姿は、巫女ミアプラは謎の怪しい色気が増量し、巫女アプスに至っては青褪めると死体感急上昇でございました


 幼獣正宗はその生死を確認しようと彼女の周りをぐるぐると回りながら匂いを嗅ぐ始末で、勇人青年は慌ててフォローに奔走する次第でございます



 『路銀……ですの?』


 「あっあっ、ほら! 薪としては大きさとか揃っててずいぶん形がいいだろ? どこかに金持ちの別荘とかあれば買ってくれるんじゃないか?」


 『金持ち…確か少し行った所に貴族の城館があった筈ですわ』


 『丁度いい、買い取らせる』


 『たかぁ~く買ってごぅっふ! もらいまひゅう、ぜぇ』


 (あれ? 需要無視か?? いやいやいや、幻聴だな、うん)



 ちょっと売ってきますわ!と勇人青年と幼獣正宗を残し土煙を巻き起こして走り去っていった三つの後姿を見送り、二人は改めて枯れ枝を集めることにしたようでございました


 右も左も分からぬ場所に取り残されたというのに、何故か安堵を感じてしまう勇人青年でございます



 ……わずか三十分程度の束の間ではございましたが

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