♪91 JEALOUSLY
「いやー、しかし傑作だったなぁ」
長田はホクホク顔でチョコレートをつまみにコーラを飲む。
「な? 隠れといて正解だったろ?」
湖上も満足げにギネスを飲んだ。
章灯は真っ赤な顔を両手で覆っている。
「もぅ、何で来たんすか……」
泣きそうな声が指の隙間から聞こえてくる。
「何でも何も、アキからヘルプが来たからに決まってんだろ」
長田は章灯の顔を覗き込みながら言った。
もう9時を過ぎたというのに珍しく晶も同席している。章灯に負けず劣らずの赤い顔で、俯きながらカウボーイをちびりちびりと飲んでいた。
「アキのヘルプって……」
顔を覆っていた手を外し、テーブルの上の水割りを取る。
「ん? なーんかさぁ、この世の終わりみたいな声で俺に電話かけてきたんだよなぁ……」
「おぅ、アキ。どした?」
その電話は6時を少し過ぎた頃にかかってきた。
長田は友達と会ってくると言って息子と共に出掛けてしまった妻の咲が作っていった夕飯を食べていた。
「今日、雑誌の取材があって……」
やけに沈んだ声だ。苦手なタイプのインタビュアーだったのだろうか。というか、晶が得意なタイプのインタビュアーなど存在しないのだが。
「相変わらず忙しそうだな。そんで?」
「女の人で……」
あぁ、女のインタビュアーか。もしかして個人的にファンなんです~のパターンか? いるんだよなぁ、結構。
「言い寄られたか?」
「そうじゃなくて……その……」
「じゃ、どうしたんだ?」
「何か、章灯さんのお知り合いというか……」
「章灯の知り合いか……」
女で、知り合いで。アキのこの沈みよう……。さては……。
「元カノと……」
やっぱりな。
「ふぅん。どんな感じの子だったんだ?」
アキのことだ、男女の深い部分に嫉妬したというよりは、わかりやすく見た目にやられたんだろう。
「背が小さくて、髪が長くてふわっとしてて、可愛い声で、胸も大きくて……」
晶の声はどんどん小さくなっていく。やはりな。アキとは真逆のタイプだ。まったく、わかってねぇな、アキは。
長田は豪快に笑った。晶の不安を吹き飛ばすかのように。
「わぁ~かってねぇな、アキは」
突然の笑い声に晶は「えっ?」と短く叫んだ。
「もしそれが章灯の好みのタイプだったとしても、いま真逆のお前を選んだってことは、そんなのを超越しちまうくらいお前に惚れてるってことじゃねぇのか」
「そ……うなんでしょうか……」
「とりあえずさ、今夜コガ連れてくわ。直接章灯に聞きゃあ解決すんだろ」
「可愛いじゃねぇか、女の焼きもちってのはよぉ」
湖上は目を細めて晶を見つめている。
「可愛いのは女のじゃなくて、アキの焼きもちだからだろ」
だな、と言って2人は笑った。章灯は恐る恐る晶を見る。
「アキ、焼きもち焼いたのか……?」
晶はグラスを持ったまま俯いている。
「章灯、本人はたぶん自覚してないぞ」
長田はニヤリと笑った。
「ですよね。……ていうかアキ、お前だいぶ酔ってないか? そろそろ寝ろ」
そう言って肩を軽く叩き、グラスを奪う。
晶は俯いたまま無言で立ち上がった。
良かった、寝てはいなかったらしい。
ホッとしていると、ソファに座っている章灯の隣にすとんと腰を下ろした。慌てて少し移動し、座るスペースを広くする。
「ちょ、アキ?」
「明日、章灯さん、お休みですから……」
もごもごと不明瞭な発音でそう言うと、章灯の肩にもたれかかる。
「へ? 休みは休みだけど……。おい、ここで寝んな!」
「次の日、休みなら、一緒に、寝るって、言いました……」
晶は完全に目を閉じてしまっている。
そう決まったのは先週のことだった。次の日が休みだとつい深酒になる。それにつられて晶も飲むようになり、ベッドに運んだところで同時にダウンしてしまうのだ。つぶれるのはたいてい晶だが、稀に章灯のパターンもある。ならばいっそ、休日前は一緒に寝ることにしよう、ということになったのだった。
「言った……けど……」
ここにはまだ2人が……。ちらりと2人を見ると、ニヤニヤしながら章灯を見つめてきた。
「ほほぉ」「順調かね、お2人さん」
「じゅっ、順調って……。まだそこまでは……」
「はぁ?」長田は眉をしかめて声を上げた。
「お前らもう1年経つだろ! 何してんだ!」
湖上は不思議そうな顔で章灯を見つめる。
「何って言われましても……。これがなかなか……」
チャンスが無いわけではない。毎週のように1つのベッドで寝ているし、キスだってほぼ毎日のようにしている。そういう雰囲気にならないわけでもないのだが、どうしてもその一線を越えようとすると、晶は怯えてしまうのだった。
「じゃ、今日がチャンスかもしれねぇよな。とりあえず、俺ら帰るからさ。アキ運んでやれ」
長田が腰を上げながらニィっと笑った。




