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果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
before debut 2007/12/12~2008/4/7
9/318

♪9 笑顔の裏側

「CM挟んで、『ホットニュース』ですー」


 新人ADの声が聞こえる。

 セットの裏で最終確認をしていた章灯しょうとは、その声を聞いて自分の立ち位置である朝刊のパネルの前に立った。

 今日は珍しく、血なまぐさい殺人事件や痛ましい児童虐待のニュースは無く、岐阜県の児童相談所へ某アニメヒーローの名前で大量のランドセルが寄付されたというものから始まる。そして、散々心温まった後で高齢者による万引き事件という、寒風吹きすさぶ流れだ。


 逆にすれば良いのに、何でこの順番なんだ。


 そんなことを考えながら、カメラの位置を確認するために顔を上げる。

 1カメ、2カメ、と1つ1つ確認していくと、章灯の視線はいるはずのない人物の姿をとらえた。

「――え?」

「CM空けまーす。10秒前ー。……4、3、2……」

 いつものテーマが流れる。テレビ画面には『ホットニュース!』というテロップが表示されているはずだ。

「おはようございます! 今朝の朝刊から、ホットなニュースをお届けします!」

 平常心を装って、いつもどおりに進める。


 ――なめんなよ! これに関してはこっちがプロなんでな!


 いかにもな好青年の顔を作ってはいるが、腹の中ではどす黒い感情が渦巻いている。


 何であの3人がいるんだ!


「――以上、今日の『ホットニュース!』でした! 今日も笑顔で、いってらっしゃいませ!」

 右手の握りこぶしを顔の横で軽く振る。局内でも『キラー・スマイル』と誉れ高い極上の笑顔で締めのポーズだ。

 そのままの姿勢で5秒ほど静止すると、カメラがメインMCに切り替わったのを確認してセット裏へと移動する。


 5時から8時まで1時間ごとに3回、各10分間ずつの短いコーナーを担当していた自分がまさか新番組のメインを務めるなんてなぁ、と章灯はしみじみ思う。


 でも、それはアナウンサーとしての実力なんだろうか。もしかしてユニットの為だけに選ばれたわけじゃないよな……?


 セット裏に用意してあるパイプ椅子に座り、一息つく。


 いや、待て! 一息ついてる場合じゃない!


 セットの裏からこっそりと顔を出し、3人の姿を探してみるが――、


 あれ? いないぞ? もう帰ったのかな……。

 まぁ、それならそれに越したことはないか。

 まったく、あれくらいで動揺なんかしねぇぞ、俺は。

 これでもちょいちょい修羅場くぐってきてんだからな!


 そう心の中で毒を吐いた。


 さて、これが終わったら後はデスクワークと――、引っ越しだ……。


「アキ、どうだった?」

 後部座席に座ったあきら長田おさだが問いかける。

「だいぶ雰囲気違いますね。スーツでしたし」

「いや~。あんな好青年がゴリゴリのロックを歌う姿ってかーなーりおもしれぇだろうな」

 朝食用にとコンビニで買ったパンをかじりながら、助手席の湖上こがみがニヤリと笑う。

「デビューシングルさぁ、うんと激しいやつにして、歌詞も過激なやつ書かせろよ。ギャップでぐっときちまうんじゃねぇの?」

「激しいのは作るつもりですけど……。歌詞は章灯さんにお任せですから……」

「アイツはむっつりだから大丈夫!」

「コガ、わかんのかよ?」

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだよ」

「誰なんだよ、お前は」

 長田はそう言うと豪快に笑った。

「とりあえず、章灯が仕事終わるまでちょっと寝ようぜ。さすがにきついわ」

「俺も、結構限界だ」

「運転代わりましょうか?」

 晶は運転席の背もたれに手をかけ、身を乗り出した。

「駄目だ。アキはまだ酒抜けてねぇだろ。この下戸下戸ちゃんが頑張るから良いんだよ」

 湖上が晶の方を見て笑う。

「誰が下戸下戸ちゃんだ。降ろすぞ」長田は横目で湖上をにらんだ。

「怒るなって、オッさんだって運転代わる気なんてねぇだろ?」

「当たり前だ、馬鹿野郎」

 長田は口角を上げて笑うと、ハンドルを切った。

 湖上はパックの牛乳を啜りながらスマホを操作した。

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