表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
after debut 2009/7/16~
88/318

♪88 ヨリドコロ

 午前の仕事が終わり、章灯(しょうと)は自分のデスクに戻った。デスクワークと昼食を済ませたら、次は雑誌の取材が入っている。もちろん。これは『ORANGE ROD』の仕事だ。今日は音共社の音楽雑誌『BRAND NEW(ブランニュー) !』である。写真撮影もあるので(あきら)は既に現場に入っているはずだ。インタビューは絶対に受けないが、今回はその風景もカメラに納めたいとのことで、同席だけはすることになっている。

 人見知りの晶が大人数に囲まれて困惑している姿を想像した。

 なるべく早く終わらせないとな。待ってろ、アキ。


「すみません、お待たせしまして」

 今日の撮影は日の出テレビ本社ビル近くのスタジオである。息を切らせてメイクルームへ飛び込むと、案の定、疲れた表情の晶がいる。しっかりとギターを抱えているところを見ると、余程心細かったのだろう。

「お疲れ様ですSHOWさん」

 SHOWが章灯であることは周知の事実だが、アキはユニットの仕事中はなるべく『章灯さん』と呼ばないようにしている。

「SHOWさん、早いですね」

 専属のメイクさんはそう言って章灯に着席を促す。

 早い、と言われて時計を確認すると、予定よりも20分早く着いていることに気付いた。

 あぁ、飯食わずに来ちまったんだ……。まぁ、いいか。


 章灯の撮影も終わり、メイクと衣装はそのままでインタビューが始まる。

「アキ、ギターはいらないんじゃないのか……」

 章灯の隣に座った晶は相変わらずギターを構えたままだ。晶は章灯の言葉に首を振る。

「失礼致します」

 背後から声をかけられ、章灯は立ち上がった。振り向くと、小柄な女性が笑顔で立っている。

「音共社の片岡真里です。本日はよろしくお願い致します」

 そう言って真里は名刺を取りだし、章灯に手渡す。アナウンサーの時であれば名刺があるのだが、と思いつつそれを受け取る。片岡……真里……真里……。

「真里?」

 名刺をまじまじと見つめていた章灯が声をあげると、真里はにっこりと笑った。

「久し振りね、章灯」

「おぉ……、久し振り……だな。お前、音共社(ココ)に入ったのか」

「ずっと別の雑誌担当してたんだけどね、『BRAND NEW !』の熊谷さんが産休に入ったから、その穴埋めに……。ねぇ、座っても?」

「え? あぁ、ごめん、どうぞ」

 章灯が椅子を勧めると、真里は「相変わらず優しいのね。インタビューされる側がする側に椅子を勧めるなんて」と笑った。

 章灯はやや気まずそうに頭を掻いて椅子に座った。隣には目を細めて気難しい顔をしている晶がいる。その目は完全に「お知り合いですか」と語っている。

「あぁ、アキ、あのな、この人は……、えー……っと……」


「AKIさん初めまして。実は章灯の元カノなんです、私」


 その言葉に晶は目を見開いて章灯を見つめる。単なる驚きの表情にも見えるが、章灯にはそれがそれだけじゃないような気がしている。

 もしかして、ちょっと怒ってたり……?

 だとしたら、少し嬉しい気もする。一応、焼きもち焼いてくれてるってことだしな。でも、面倒なことになりそうな……。

「でも、元カノっつっても、もー10年近く前だぞ? 別に連絡とかも取ってなかったしな!」

 慌ててそう言ってみる。晶のことだから浮気だとかそういうことを心配しているとかではないのだろうが、そう言わずにはいられない。実際、晶は単に目の前の女性が自分と真逆の、小柄で、緩くウェーブされたロングヘアで、女性らしいラインを持つ可愛らしいタイプであることにショックを受けただけであった。

 章灯さん、本当はこういう女性が好みなんじゃないか……。

「もぅ、章灯ったら。そんなムキにならなくても~。今日の私はインタビュアーなんだから」

「まぁ……、そうなんだけどさぁ」

 視線を晶から離し、正面を向く。

 やりづれぇ……。アキ、変な想像とかしてないといいけど……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ