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果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
Extra chapter Ⅱ the sunny crane (2010)
158/318

♪14 MUSIC TOPIC

「続いては、『MUSIC TOPIC』のコーナーです」

 局一の爽やかイケメン、木崎アナがそのスマイルと共に大きなパネルを運ぶ。そして、そのパネルの後ろをトコトコとついて来たのは今回と次回のゲストである『日向カメラ』である。2週連続で特集というコーナー始まって以来の試みに、章灯しょうとは営業スマイルの裏で本当に大丈夫なんだろうかとハラハラしていた。

「本日のゲスト、日向カメラさんです!」

 そう紹介すると、カメラはギターを肩から下げたままぺこりとお辞儀をした。黒のライダースジャケットの下に、裾を無造作に切った派手なプリントのロングTシャツ、鋲のたくさんついたごつめの太ベルトをちらりと覗かせ、オーガンジー素材の黒いミニスカートは下に履いたパニエで少し膨らませている。若さ溢れる素足には、少し高めのヒールが付いた黒のニーハイブーツである。

 そして、肩から下げているのは、彼女の唇と同じ真っ赤なギターだ。

「いやぁ、がらりと雰囲気変えてきましたなぁ」

 わざとらしいまでに鼻の下を伸ばし、セクハラオヤジ然とした態度で竹田が言う。

「何か、来週も来るんだって?」

 そんな相方に突っ込もうともせず、松ケ谷はさらりと言った。

「そう! そうなんです!」

 よくぞ言ってくれましたと、それに答えたのは進行役の木崎である。とはいっても、この件に関しては打ち合せ通りなのだが。

「日向さんの方から重大発表があるんですよね?」

 木崎がそう振ると、カメラはひょこひょこと歩いてところどころが隠されているパネルの前に立ち、はにかんだような笑みを見せた。

「えぇっと、えへへ、実は同時に2つのレーベルから曲を出すことになりましてぇ」

 せっかくの恰好が台無しになるほどの甘えた口調でそう話し始める。章灯はハハハと力無く笑った。

「それがどこかっていうのは、あたしからは言えないんですけどぉ」

「はいっ! そういうわけでですね、今週と来週でその2曲を歌っていただけることになったんです」

 なぜか得意気な表情で木崎が締めた。

「ええなぁ、カメちゃんモテモテやんか」

「えへへぇー」

「お前、カメちゃん言うたらアカンて。亀みたいやんか」

「せやかてカメラちゃん言うたらカメラさんドキドキやがな」

「阿呆! 何でオッサンがオッサンに『ちゃん』で呼ばれてドキドキせなアカンねん!」

「松竹さん、そろそろよろしいでしょうか。木崎アナがお待ちですんでね」

 苦笑しながら章灯が割って入ると、松竹の2人は揃って肩をすくめてみせた。いつものやりとりである。

「さぁー、それでは、皆さんご注目下さい! 3分で振り返る、日向カメラさんのヒストリーです!」

 そう言いながらぺりぺりと紙を剥がしていく。そこに現れたのは『あの大手2社が争奪戦! いま大注目の日向カメラ ヒストリー』という文字である。


 間違いじゃない。

 確かに、彼女争奪の売り上げバトルが開催されている。

 そんで、俺の相方はそれに片足どころか両足、いや、身体全部を持っていかれちまっている状態だ。

 

 その『大手2社』の関係者であることがバレないように、周りに合わせて「えぇ?」だとか「おぉ!」と合いの手を入れるが、心中は複雑である。


 この子がカナレコに来ちまったら、アキ繋がりで限定ユニットとか組まされそうだな。


 そんなことを思ってしまって、背中に冷たい汗が流れた。



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