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果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
Extra chapter Ⅰ Man of Genius (2015)
139/318

♪9 不満の渦

 『音楽王は誰だ! ~SEIKAKU無慈悲~』


 課題曲に対し、いかに正確に歌い、もしくは演奏しきるか、という点にのみスポットを当てる番組である。対決は主に新人対ベテランという組み合わせで行われる。キャリアも長く、人前での演奏経験が多いベテランの方が有利であろうという既存の概念を覆し、基本に忠実な新人が勝利することが多い。しかも、ほとんどの場合、その課題曲がベテランアーティストの往年のヒット曲であるために、彼らの面目は丸つぶれである。テレビ局側としては彼らの顔を立てた恰好になっているのだろうが、ほとんどの場合新人に軍配が上がるので、もしかしたら心の奥底では過去の栄光に縋りつき、現在では大した売り上げも無い癖にギャラばかりが高額であるベテラン勢を小馬鹿にしているのかもしれない。


 俺らはいつからベテランアーティストの仲間入りを果たしたんだ。


 そう思いながら、章灯しょうとは課題曲である『Mr.ロックスター』の歌詞を目でなぞる。

 さすがに今回はあまりメディアに露出していない曲ではなく、最も知名度の高い曲が選ばれた。枚数的にはこれよりも売れた曲もあるのだが、全国区のテレビアニメ『ROCK A GOGO!』のOPに起用されたことで、いまやORANGE RODの看板とも言える曲である。

 やや不満気に歌詞をなぞる章灯の真向かいには、彼以上に不満のオーラを身に纏ったあきらが、眉間に深い深いしわを刻んだ状態で同じく『Mr.ロックスター』を爪弾いている。

「ハニー、美しい君にそんな顔は似合わないなぁ」

 そんな冗談すら言えないような雰囲気に、章灯はごくりと唾を飲んだ。

 無理もないだろう。

 『音楽』王と謳ってはいるものの、内容は完全にバラエティーである。そもそもテレビ出演が得意ではない晶にはかなり厳しい話だ。

 負けるわけにはいかない、が、勝者に掛けられるチャチなマントも滑稽である。

 晶は深いため息をついた。

「……やっぱり出なきゃダメですか」

 演奏する手をぴたりと止め、救いを求めるような目で章灯を見つめる。この目に見つめられると「よし、二人で逃げよう!」などと口が滑りそうになってしまう。

「まずいだろ、さすがに」

 何とかその言葉を絞り出し、章灯もため息をついた。


 MoGがあの業界最大手、LOVER’s RECORD と契約を交わしてしまった以上、彼らの挑戦を拒むことは出来ない。大人のしがらみというやつである。しかも珍しくあの渡辺が二人に頭を下げたのだ。「すまん、俺の顔を立ててくれ」と。こりゃあ雹でも降るぜ、と湖上こがみは笑った。

 どうやら『シャキッと!』出演前からLOVER’s RECORD との契約話はあったらしい。まだ高校生である彼らは卒業後まで待ってもらおうと話し合っていたらしいのだが、例の『MUSIC TOPIC』での大惨敗が彼らの闘争心に火を点けた。

 そこで目を付けたのが『音楽王は誰だ! ~SEIKAKU無慈悲~』である。正確性なら誰にも負けないという自負がある3人は、勇敢にも契約の条件としてORANGE ROD との再戦を提示した。最近、所属アーティストの売り上げが振るわず、話題性を欲していたLOVER’s RECORD は二つ返事で了承したと、そういうわけである。

 そして、そんな『クソ生意気天才高校生』達は、学生らしく爽やかに挨拶にやって来た。経緯などしっかりこちらの耳に入っているのに、さも、大人達が勝手に対決を組んでしまって、とでも言いたげな態度である。まぁ、いまも第一線で活躍しているユニットに真正面から勝負を挑めるほどの度胸はなかったのだろう。


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