♪129 丸2年と3年目
「結成丸2年だな」
2009年12月12日。この日は運よく土曜日で『シャキッと!』の収録はない。そして、まったくの偶然だろうとは思うが、ユニットの方の仕事もなかった。つまりは、オフである。
ゆっくりと起き、晶が作ったブランチに舌鼓を打つ。
「そうですね」
晶は食後のコーヒーを啜り、章灯を見つめて笑った。
「どうだった? この2年」
「あっという間でしたね」
「だな」
1年目はとにかくガムシャラだった。自分の番組というのも初めてだったし、アナウンサーと音楽ユニットの二束のわらじはなかなかきついものがあった。この2年ではっきりと成長できたと思うのは、詞を提出する時に恥ずかしがらなくなったことと、譜面が読めるようになったことだろう。自分の成長を実感できるのは、俺がまったくの素人だからだろうか。アキもやっぱり成長した部分ってあるんだろうか。
「なぁ、アキはさ、この2年で成長したなぁーって思うことってあるか?」
「何ですか、急に?」
「いや、俺はさ、音楽に関して0からのスタートだったから、いろいろ成長したなぁって思うんだけど、アキみたいにスタート時からプロのやつってどうなんだろうって思ってさ」
「それは、ありますよ、やっぱり……」
「あるのか? 例えば、どんな?」
「どんなって……。サポートの時はメインメンバーを引き立たせるための演奏ですけど……、何ていうか、章灯さんを引き立たせつつも自分も前に出るというか……」
「成る程」
「あとはやっぱりライブが増えた分、体力もついたと思いますし、技術的な部分でも成長したと思いますよ」
「そういうもんなんだな……。技術的な部分って、アキでもまだまだって思うところはあるのか?」
「それはありますよ。私よりうまい人なんてたくさんいるんですから。章灯さんはどうなんですか」
「俺? 俺は……、詞を出すのが恥ずかしくなくなったのと……、譜面が読めるように……っていってもギターのはいまだにわけわかんねぇけどさ」
そう言ってカップに口をつける。
「歌の方はどうなんです?」
「歌? そうだなぁ。昔よりだいぶ音が伸びるようになったな、そういえば」
「ビブラートも昔より綺麗になりましたよね。それからファルセットも」
「お前、よく聞いてんなぁ……」
「当たり前です」
真正面から言われるとなんだか照れくさい。赤くなった頬を隠すようにまたカップに口をつけた。コーヒーはすっかりぬるくなってしまっている。
「なぁ、3年目はどんな年にしたい?」
「どんな……。そうですねぇ、私はもっとライブがしたいです。宣伝とかあるのである程度のテレビ出演は仕方ないんですが、PVとかを流すんじゃなくって……」
それって……。
「アキ、それ、昨日の……?」
「言ってましたよね、昨日。あんまり演奏してないなって。私も思ってました。自分で言うのも変ですけど、売れた理由の中にヴィジュアルが含まれているのもわかっています。でも、それだけで売っていくのは嫌です」
「そうだよな。俺もそう思ってた」
「露出が減ることで離れていくなら、それまでです。そういう人は、遅かれ早かれ離れていきます。それよりも、私達の音楽を気に入って応援してくれているファンを大事にしたいです」
「……社長に直談判してみるか」




