♪124 2人にまつわるこんな噂
こんな企画があるなんて聞いてないぞ……。
章灯はカメラに向かって顔をしかめた。もちろん視聴者に向けて、ではない。モニタールームにいるであろうプロデューサーに向けて、である。
前回の謝罪は一体何だったんだ。
幸い、生放送ではないので、項目の内容によっては収録を一旦止めることも視野に入れなければならない。カメラマンの後ろに立っているマネージャーの白石麻美子をちらりと見ると、おそらく、同じことを考えているのだろう。章灯と視線を合わせると、厳しい顔つきで小さく頷いた。
松竹さんには悪いけど、この番組は今後断った方がいいかもしれないな……。
わざと引き攣った笑いを浮かべてみるものの、それに気付かないのか、千晴はにこやかな視線を向け、そのよく手入れされた指先で1枚目をめくろうとスタンバイしている。
「さて、1つめの噂ですが……」そう言いながら、ぺらり、と紙をめくった。
そこには『AKIさんは女装癖がある!?』と書かれている。客席からは「えぇーっ!?」という悲鳴にも似た嬌声が上がった。見たい! と叫ぶ者もいる。晶は深くため息をつき、首を振った。
「えっ、これは一体どういうことなんですかね、広瀬さん」
大袈裟なリアクションで竹田が千晴に尋ねる。
「これはですね……。赤坂の方で女装しているAKIさんを目撃した、という方が『SpreadDER』に画像を投稿したみたいなんですね」
そう言って、その隣の紙を剥がすと、どうやらその時に隠し撮りしたらしき画像が載っている。
剥がされる直前までは、もしかして、と冷や汗をかいていたが、見てみると、何てことはない、アレは郁だ。晶も同じだったようで、安堵と呆れの混じった息を吐いた。
「これ……、アキのリアル姉ちゃんですよ……」
脱力しながら章灯が言うと、3人は目を丸くした。「お姉……さん……?」
「そっくりでしょ? 僕も初めて会った時、アキが2人いる! ってびっくりしましたもん」
「本当ですか? AKIさん」
松ケ谷が思わず晶に問いかける。晶は一言も発することなく、首を縦に振った。
「まぁ、リアルお姉さんなら、女装って表現も失礼ですよね」
「そうですよ。それと、お姉さんは一般の方ですし、名前とかは出せません。それに、正直、こうやって顔が出るのもちょっと……」
笑いながらもたしなめるように言うと、千晴はやや気まずそうな顔をした。ここへきてやっと章灯と晶が気分を害しているのが伝わったのだろう。
「で、では次の噂です……」
それでもただのアナウンサーに進行を止める権限はなく、千晴は躊躇いながらも2枚目に手を掛けた。
2枚目をめくると、先ほどとはまた違う黄色い声がスタジオ内に響き渡る。何せ、2つ目の噂というのは、『AKIさんは×××がデカい!?』だ。この×××に何が入るのかは何となく想像がつく。以前、湖上から「こんなSpreadがあったぞ」という報告を受けていたからだ。晶は本日何度目かわからないため息をついた。




