♪122 ウェルカム!
「ウェルカム!本日のゲストは、いまノリに乗ってるロックユニット『ORANGE ROD』のお2人です!」
広瀬千晴の明るい声で、章灯と晶はセットの扉から登場する。
「どうも、ORANGE ROD ヴォーカルのSHOWと、ギターのAKIです」
章灯が晶まで紹介すると、お笑いコンビ・松竹の竹田が「AKI君はしゃべられへんのかい!」と大げさに転げる。ここまでがいつもの流れだ。観覧客からはお決まりのように拍手が起こる。
勧められるがままにソファに腰掛けると、晶はすぐさま借り物のギターを構えた。特に何かを弾くわけではないものの、これがあるのとないのとでは安心感がやはり違うのだという。
「いや~、SHOWさんでしたっけ、山海さんでしたっけ、朝とはぜんぜん別人ですなぁ」
「タケ、今日はSHOWさんの方で来てるんだから、その名前出すなって!」
竹田からの軽いジャブに章灯は苦笑する。
「午後からは僕、ロッカーですからね」
「出た! 午後からロッカー発言! 皆さん、聞きました? いや~、偉なったわぁ、SHOWさん」
竹田は右手を口元に当て、左手で扇ぐようなしぐさをする。まるで大阪のおばちゃんである。
「言ったっていいだろ、事実なんだから!」
松ケ谷は苦笑しながら竹田の肩を叩く。
「まぁまぁ、松竹さん。さて、本日は先月発売したばかりの5枚目のシングルの宣伝ということで……」
取り成すように千晴が宣伝用のパネルを取り出す。
「あ、はい、そうなんです」
「いや~、もうね、ウチの番組なんか宣伝でもなけりゃ出てもらわれへんのですわ」
松ケ谷が自虐気味に言うと、「そりゃ~、前回が前回だもんなぁ」と竹田が深く頷く。
「って、やらかしたのはお前やろ!」
そう言って、勢いよく竹田の頭を叩いた。
「前回は何があったんですか?」
千晴が笑いをかみ殺しながら章灯に問いかけると、一度晶の方をちらりと見て、苦笑した。
「竹田さんがちょっとアキに絡みすぎたっていうか……」と濁す。
「そうそう! この、バカ! が、AKIさんに抱き付いてキスしようとしたんですわ!」
松ケ谷が忌々しそうに竹田を睨むと、彼は客席に向けて投げキッスを放った。客席からは悲鳴のような声があがる。
「止めろ! 番組打ち切られるぞ!」
「いや~、でもね、あの後、大変でした。僕、初めてですよ。カミソリレターなんて」
「うわっ、マジですか?」
「マジマジ。『SpreadDER』でも「殺す!」とか「死ね!」ばっかりでしたし」
そう話す竹田はなぜか得意気だ。
「そんなわけでね、僕はもうORANGE ROD さんに出てもらわれへんやないかってね、朝の番組で必死にゴマすりしてたわけですよ。SHOWさんのコメントの度に、おっしゃる通りです! 旦那! なんつってね」
「竹田さん、たしかに言ってましたね……。あれ、そういうことだったんですね……」
「じゃ、今回の出演は、竹田さんのその努力が報われた、ということですね」
千晴は晴れやかな笑顔で章灯にコメントを求める。
「いえ……、コッチが良かったので……」
片目を瞑り、わざと悪い顔をして右手でギャラを示す輪っかを作って見せると、松竹は声をそろえて「そっちかい!」とのけ反った。




