♪120 出来上がり
2009年12月10日。
晶は何度も足を運んだことのある工房から、注文していたものを受け取って来た。工房内で出来を確認し、せっかくだからそれっぽい箱にでも入れて、綺麗に包もうかと自分の店に寄る。
「あら、晶さん」
店内は女性客が数人とカップルが一組だった。紗世が笑顔で出迎えてくれる。軽く会釈をしてカウンターからプレゼント用の小箱を取り出した。
「出来上がったんですか?」
「ええ……、まぁ……」
章灯と婚約したことと、指輪の代わりにペンダントトップを作ったことは伝えてあるものの、やはり何だか照れくさい。なるべく紗世を見ないようにして黙々とラッピング作業に集中する。
「あのぅ……、AKIさんですよね?」
名前を呼ばれ顔を上げると、頬を上気させた若い女性が瞳を潤ませてこちらを見つめている。
ここが晶の店であることはファンの間では周知の事実だ。オープン当初から特に隠しているわけでもない。ユニットが軌道に乗ってからは、混乱を避けるため、デザイン画はなるべくFAXやメールで送るようにしている。それでも数ヶ月に一度は顔を出すので、熱心なファンはその1日のためだけに毎日通うのだという。ユニットのグッズ等のデザインも晶が行っているが、それらはこの店には置かない。ここはあくまでも『晶個人の店』なのである。
見つかってしまっては仕方がない、と晶はにこりと笑って頷いた。
「あっ、あのっ、握手! 握手いいですか?」
そう言いながら差し出された手を握ると、女性は感動したのか涙をぽろぽろと零している。それが嬉し涙だとわかっていても、目の前で泣かれるのは苦手だ。どうしようかと紗世に助けを求めるが、間の悪いことに彼女は接客中である。
手を離した後も女性はなかなか立ち去らず、どうしたものかと思っているとポケットに入れていたスマートフォンが振動した。取り出してみると章灯からの着信だ。
カウンターの上の小箱を持って奥の部屋へ入る。郁がいるだろうが、この際背に腹はかえられない。
「お、いま大丈夫か?」
「……大丈夫です」
そう答えたが、視線の先にはもの言いたげにこちらを見つめている郁の姿がある。せめてもの抵抗と、背中を向けた。
「あれ、どうだった?」
あれ、というのはもちろんこの箱の中身だ。
「よく出来てました」
「そうか、良かった……」
「仕事、5時からですよね」
「おお」
「迎えに行きます。日のテレ前でいいですか?」
「悪いな。じゃ、後で」
ちらりと時計を見ると現在の時刻は4時である。余裕を持ってそろそろ出ないと……。スマホをポケットに入れ、振り向くと、いつの間にか郁は席を外していた。安堵していると、ゆっくりとドアが開き、郁がひょっこりと顔を出す。
「ちょっと、店、大変なことになってるんだけど」
どういうことだとこっそり覗いてみると、晶が来店しているのを聞きつけたファン達が押し寄せている。さっきの女性か、もしくはさっき店内にいた客がSNSにでも投稿したのだろう。
「裏口から出るしかないんじゃない?」
「でも、車が……」
「キー貸して。裏に回すから」
「……いつも悪いな」
「これは借りよ」
「……後でまとめて返す」




