表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
after debut 2009/7/16~
117/318

♪117 MUSIC TOPIC

「本日はよろしくお願い致します!」

 本番前に元気な声で挨拶をしてきたのは若手シンガーソングライターのMINAMIである。

 『MUSIC(ミュージック) PLAZA(プラザ)』で共演した際に『シャキッと!』への出演を打診したところ予想以上の好感触だったため、張り切った番組プロデューサーが彼女のマネージャーと交渉し、無事、出演の運びとなった。

 一応、(あきら)にはその旨を伝えてはあるものの、またおかしなスイッチが入ったらどうしようと章灯(しょうと)は気が気ではない。おそらく、今日の放送もしっかりチェックするだろう。

 スタッフから渡された資料を見ると、どうやら彼女は晶と同い年であるようだが、誕生日が9月のため、一足先に23歳になっていた。デビューは今年の4月。路上でギター片手に歌っていたところをスカウトされたのだと言う。『MUSIC PLAZA』でギターの腕を見たが、なかなかのものだと晶は言っていた。もっとも、晶のようにエレキギターを弾くわけではないので、自分と比べるのはお門違いだとも言っていたが。

 何だよ、こういうのなら女がギター弾いたって何も言われないのかよ、と章灯は腑に落ちない。最近はアコギ片手に弾き語りをする女性歌手が増えてきたと思う。それなのに、何でアキはダメなんだ。

「……い、先輩」

 とんとんと肩を叩かれ、章灯は我に返る。

「本番始まりますよ、先輩」

 隣にいる(みぎわ)明花(さやか)が心配そうに顔を覗き込んでくる。『先輩』と呼ぶのは局内だけだが、気を抜くとぽろりと出てしまうようだ。

「ああ、ごめんごめん」

「珍しいですね。若い女性に鼻伸ばしちゃいましたか?」

 茶化すように笑うと、目の前にいたMINAMIは照れたように笑ってから軽く会釈をしてカメラの奥へ移動した。コーナーが始まるまでだいぶ時間があるので、控室で待ってもらっても良かったのだが、せっかくだから見学させてください、という彼女たっての希望だった。


「続いては、『MUSIC(ミュージック) TOPIC(トピック)』です」

 アシスタントの木崎(きざき)康介がカメラ目線で笑顔を振りまく。

 MINAMIのプロフィールが書かれたパネルが運ばれ、それと共に本人がカメラの前に歩いてくる。

「本日は、今年4月デビューで人気急上昇中のシンガーソングライターMINAMIさんです!」

 スタジオ内は拍手に包まれ、バックには彼女のデビューシングルが流れた。


「ありがとうございました!」

 コーナーが終わり、CMが終わったところでMINAMIは小走りで章灯のもとへ駆け寄って来た。丁寧に頭を下げる。

「もしよかったら、また曲を出す時にでも来てくださいね。このコーナー、常に出演者募集してますから」

 明花が笑顔でそう言うと、MINAMIは元気よく返事をした。やがて、ADの「CM明けまーす」という声が聞こえ、再度頭を下げてから足早に駆けて行く。

「感じのいい子でしたね」

「そうだな」

 さらさらと揺れる長い髪を見送って、章灯は視線をカメラに移した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ