♪108 俺次第
「お待たせしました~! ORANGE ROD のお2人です~!」
司会の声で集まっていた客の嬌声と拍手が起こる。ライブは平気なのに、どうしてこの手のイベントって慣れないんだろう。章灯はにこやかに手を振りながらも何となく落ち着かない。
ほんの1段高いだけのステージの上で、用意された椅子に腰掛ける。隣に座る晶は相変わらずのポーカーフェイスだ。しかし、時折微笑んで手を振っては黄色い声援を独り占めしていた。
「さて、本日は、昨日発売の……『Up To Me!』の宣伝ということで来ていただいたわけなんですけれども……」
「はい、そうですね。1枚でも多く買っていただけると、アキの懐にお金が入りますんでね……」
章灯が笑いながらそう言うと司会の女性は「またまた、SHOWさんにも入るじゃないですか。今回も作詞されてますよね」とそれに乗っかる。
「ははは、いやいや……。まぁ、冗談はさておきですね。今回もありがたいことに『歌う! 応援団!』の2期オープニングを担当させていただくことになりまして……」
「そうですね、大人気アニメ『歌う! 応援団!』は1期から前期後期共にオープニングを担当されてましたね。もしかして、この2期の後期オープニングも……?」
「いえ、さすがにまだそんなお話はいただいてませんが……。出来れば後期も任せていただきたいですね。アキがネタ切れじゃなければ……。イケるか、アキ?」
そう言って顔を覗き込むと、あらかじめ準備されていた○のプラカードを上げ、こくりと頷いた。
「『歌う~』のスタッフさん! 見ましたか? アキはまだまだイケるみたいです! 後期もよろしくお願いします!」
「SHOWさん、カメラ目線っぽくしゃべってますけど、今日はカメラ入ってませんからね」
「いやぁ、いつもの癖で1カメ探しちゃいました……」
わざとらしく頭を掻くと、客席から笑いが起こる。
「さて本日は『Up To Me = 私次第』ということで、お二人の『これって俺次第だなぁと思った』エピソードをお聞きしたいと思います」
これはあらかじめ聞いていたので、晶の分も含めてフリップに用意してある。
「では、まずAKIさんですね。フリップをどうぞ」
司会者に促され、晶は伏せていたフリップを客に見せる。そこには『最近のSHOWさんのモチベーションは自分の料理次第』と書かれていた。
「SHOWさん……、こう書かれてますが……」
「あー……、当たってますね……、これ……。いや、基本的にアキの飯は何でもうまいんすけど、ここ一番って時には必ずヒレカツが出てくるんですよ」
「ヒレカツですか! それで頑張れちゃうんですか?」
「そうですね……。それで頑張れたり、元気が出たり、ですね。ただ、あともう何年かしたらたぶん年齢的にカレイの煮つけとかになると思うんですけどね……」
「胃袋がっちり捕まれてますね。ということは、今回のシングルでもお世話に……?」
「なりっぱなしです、本当に」
深く頷くと、晶もつられて頭を下げた。
「ほんと、仲がよろしいようで……。では、SHOWさんのエピソードはいかがですか?」
「僕はこれですね……」
そう言ってフリップを客に見せる。
「自宅の整理整頓! これです!」
でかでかとそう書かれたフリップを得意気に掲げ、声を上げた。客席からは「ああ~」という納得の声らしきものが上がった。晶の片付け下手は既にネタ化されている。
どうだ、と言わんばかりの表情で晶を見ると、苦笑しながら左手で顔を押さえ俯いていた。




