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果樹園の指と釣具店の声  作者: 宇部 松清
after debut 2009/7/16~
105/318

♪105 大人の×××

『そういうことなら、私も章灯(しょうと)さんとずっと一緒にいたいです』


 昨日の(あきら)の言葉が耳から離れず、自然と顔がにやけてしまう。

 ただ、まだ婚約の段階だ。というのも、やはり2人の気がかりはユニットである。何せまだデビューして2年も経っていない。個人ではそれぞれにそこそこのキャリアもあり、ユニット自体もだいぶ売れてきたとはいっても、まだまだペーペーの新人である。いまがいちばん大事な時期ということで、入籍自体は保留にしたものの、次の休みにでも婚約の証となるものを買いに行く約束をした。


「先輩、何か今日嬉しそうっすね」

 後ろの席の木崎(きざき)康介が椅子を転がし、顔を覗き込んでくる。「またご実家から何か届いたんすか?」

 『実家から好物が送られてきた』でごまかせることに気付いた章灯は、木崎に指摘される度にこの手を使うようにしている。 

「え? ああ、そうなんだ。昨日食べちゃったんだけどさ。余韻に浸ってたんだよ」

「いいっすねぇ~。ウチの親なんてなーんにも送ってくれないんすよ」

 木崎は拗ねたような口調で不満を漏らす。

「でも、余韻に浸るほどの好物って何なんすか?」

「ハタハタずしだよ。わかる? 後で調べてみなよ。んじゃ、俺もう出るから」

 これ以上追及される前にそそくさと席を立つ。午後からユニット関連の仕事があるのは本当だが、出発にはまだ時間があった。途中にあるコーヒーショップで時間をつぶすことにしよう。

 あれ、今日って……。


「どうも~、音共社の片岡です~」

 そうだった……。今日は『BRAND NEW(ブランニュー) !』の取材だった――……。

「章灯、今日はAKIさんはいないのね」

「ああ、今日は俺だけ。まぁ、普段もしゃべるのは俺だけだしな」

 本日の取材は都内のホテルで行われる。撮影もその一室で行われ、晶の分は後日撮ることになっている。テーマはたしか『大人の色気』とかそんな感じだったはずだが……。

 アキ1人で大丈夫かなぁ……。色気って……、前はだけさせたりとかしねぇよな……? 白石(しろいし)さんがちゃんとストップしてくれるよな……? あれ、こないだのキスマークってもう消えた……よな?

「ちょっと章灯? しょーぉーとっ!」

 目の前で手を叩かれ我に返る。

「こっちに集中してよね」

「あぁ……、悪い」

「じゃ、取材始めるわよ」

「お、おう」


 取材後の撮影もカメラの後ろに真里はいた。知り合いに見られるのは正直恥ずかしいが、仕事なので仕方がない。

「もう少し大人のエロスが欲しいのよねぇ……。章灯ももう30なんだし……」

 真里は拳を顎に当てて何やら考え込み、カメラマンに耳打ちした。

「SHOWさん、シャツのボタンもう1つ開けてみてもらえますか?」

「え? あ、はい……」

 指示通りにボタンを1つ開けると、真里がつかつかと近寄ってきてシャツの襟をぐいぐいと引っ張る。

「もっと着崩す感じにしてほしいのよね。アナウンサーじゃないんだから、お行儀よく着てどうすんのよ」

「ちょ……っ。そんなん口で言えよ」

 そうは言いつつもされるがままだ。

「カメラさん、これでお願いします」

 真里は満足したのか、くるりと背を向け、定位置であるカメラの奥に引っ込んだ。

 出来上がった写真を見せてもらうと、まぁ、たしかに『大人のエロス』は出ていたと思う。しかしそれだけに晶の撮影が不安になる。

 さすがに晶の衣装をここまではだけさせれば、どうしたってさらしが見えてしまう。

 どうやって切り抜けるか……。



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