♪105 大人の×××
『そういうことなら、私も章灯さんとずっと一緒にいたいです』
昨日の晶の言葉が耳から離れず、自然と顔がにやけてしまう。
ただ、まだ婚約の段階だ。というのも、やはり2人の気がかりはユニットである。何せまだデビューして2年も経っていない。個人ではそれぞれにそこそこのキャリアもあり、ユニット自体もだいぶ売れてきたとはいっても、まだまだペーペーの新人である。いまがいちばん大事な時期ということで、入籍自体は保留にしたものの、次の休みにでも婚約の証となるものを買いに行く約束をした。
「先輩、何か今日嬉しそうっすね」
後ろの席の木崎康介が椅子を転がし、顔を覗き込んでくる。「またご実家から何か届いたんすか?」
『実家から好物が送られてきた』でごまかせることに気付いた章灯は、木崎に指摘される度にこの手を使うようにしている。
「え? ああ、そうなんだ。昨日食べちゃったんだけどさ。余韻に浸ってたんだよ」
「いいっすねぇ~。ウチの親なんてなーんにも送ってくれないんすよ」
木崎は拗ねたような口調で不満を漏らす。
「でも、余韻に浸るほどの好物って何なんすか?」
「ハタハタずしだよ。わかる? 後で調べてみなよ。んじゃ、俺もう出るから」
これ以上追及される前にそそくさと席を立つ。午後からユニット関連の仕事があるのは本当だが、出発にはまだ時間があった。途中にあるコーヒーショップで時間をつぶすことにしよう。
あれ、今日って……。
「どうも~、音共社の片岡です~」
そうだった……。今日は『BRAND NEW !』の取材だった――……。
「章灯、今日はAKIさんはいないのね」
「ああ、今日は俺だけ。まぁ、普段もしゃべるのは俺だけだしな」
本日の取材は都内のホテルで行われる。撮影もその一室で行われ、晶の分は後日撮ることになっている。テーマはたしか『大人の色気』とかそんな感じだったはずだが……。
アキ1人で大丈夫かなぁ……。色気って……、前はだけさせたりとかしねぇよな……? 白石さんがちゃんとストップしてくれるよな……? あれ、こないだのキスマークってもう消えた……よな?
「ちょっと章灯? しょーぉーとっ!」
目の前で手を叩かれ我に返る。
「こっちに集中してよね」
「あぁ……、悪い」
「じゃ、取材始めるわよ」
「お、おう」
取材後の撮影もカメラの後ろに真里はいた。知り合いに見られるのは正直恥ずかしいが、仕事なので仕方がない。
「もう少し大人のエロスが欲しいのよねぇ……。章灯ももう30なんだし……」
真里は拳を顎に当てて何やら考え込み、カメラマンに耳打ちした。
「SHOWさん、シャツのボタンもう1つ開けてみてもらえますか?」
「え? あ、はい……」
指示通りにボタンを1つ開けると、真里がつかつかと近寄ってきてシャツの襟をぐいぐいと引っ張る。
「もっと着崩す感じにしてほしいのよね。アナウンサーじゃないんだから、お行儀よく着てどうすんのよ」
「ちょ……っ。そんなん口で言えよ」
そうは言いつつもされるがままだ。
「カメラさん、これでお願いします」
真里は満足したのか、くるりと背を向け、定位置であるカメラの奥に引っ込んだ。
出来上がった写真を見せてもらうと、まぁ、たしかに『大人のエロス』は出ていたと思う。しかしそれだけに晶の撮影が不安になる。
さすがに晶の衣装をここまではだけさせれば、どうしたってさらしが見えてしまう。
どうやって切り抜けるか……。




