♪100 最後まで
「まったく……。あの2人には内緒って言ったのに……」
章灯のベッドで並んで寝転がり、晶の顔を見て大きくため息をついた。
「すみません……」
晶は気まずそうに視線を逸らす。
章灯は晶の方へ寝返りを打ち、肘をついて頭を乗せた。上から晶の顔を覗き込む。
「でも、まさかアキがあそこで俺のことを書いてくれるとはなぁ……」
「別に……章灯さんのことを書いたわけでは……」
「ほぉ~。とするとアキが書いた、手料理を美味しそうにたくさん食べて、綺麗好きで、ホラーが苦手ってのは一体誰のことを書いたんだ? そうかぁ、俺じゃないのかぁ……」
大げさに寂しそうな声を出して背中を向け、縮こまる。
「えっ……。あの……、章灯さん?」
予想通り晶は慌てて身体を起こし、覆いかぶさるようにして章灯の顔を覗き込んでくる。
「何だよぅ。俺以外にいるんだろ? そういうやつ……」
晶に顔を見られないようにうつぶせになり、さらにいじけた声をだすと、いよいよ晶は慌てだした。
「いっ……、いません! そんな人……!」
そう言いながら肩をゆすってくる。章灯は笑いを必死にこらえていた。
「本当か……?」
「本当です! ……あれは……章灯さんのこと……書いたんです……」
晶の声はだんだんと声が小さくなる。
「俺のそういうところが好きなのか……?」
「そうです……」
「ホラーがダメなところもか……?」
「そうです……」
「何でだよ……」
「何か……子供みたいで……」
一瞬馬鹿にされているのかと思ったが、言葉足らずの晶のことだからきっと、「子供のようで母性本能がくすぐられた」とかそういう意味に違いない。
弱弱しく肩をゆする晶が何とも可愛らしく、章灯の我慢の限界が来た。勢いよく仰向けになると、急に現れた満面の笑みの章灯に驚いている晶にガバッと抱き付いた。「えぇっ?」
「かぁ~わいいなぁ、アキはよぉ」
そう言いながら強く抱きしめると、こわばっていた晶の身体からゆっくりと力が抜けていく。
「良かった……。章灯さん、元気になって……」
安心したのか震えた声でそう言われると、何だか罪悪感に苛まれる。
「ごめんな、アキ。お前があんまり可愛くてちょっとからかっただけだから」
頭を撫でながらそう言うと、上目づかいでにらんでくる。その目は少し潤んでいる。
「もぅ、章灯さん……」
「言ったろ? 俺の好みはツンデレなんだよ」
「こういうのがツンデレなんですか……?」
「んー、たぶん」
「たぶんって……」
口を尖らせて拗ねたような声を出す晶をなだめるように優しく抱きしめ背中をさする。
「アキって普段素っ気ないだろ? でも、2人きりになるとちょっと可愛いところ見せてくれるだろ? そういうギャップに俺は弱いんだよ」
「そんなこと……」
「ありませんとは言わせねぇぞ? 俺がそう思ったんだから」
ニヤリと笑ってそう言うと、無防備な首筋に唇をつける。吸わずに、ただ軽く触れただけだ。それでも晶の身体はびくんと跳ね、みるみるうちに耳が赤く染まっていく。
「首に跡つけたら隠すの大変だからな」
独り言のようにそう言うと、晶は「跡って何ですか」と真っ赤な顔で問いかけてくる。
その答えを言う代わりに部屋着の襟元を軽く引っ張って鎖骨に唇をつけると強く吸った。「しょう……と……さん……?」
唇を離してニヤリと笑う。「これが跡。消えるまで、外に出る時は襟つきのシャツだな」
「いきなりするからびっくりしました」
「だって聞いたらどうせダメって言うじゃねぇか」
「別に……いつもいつもダメなわけでは……」
「いいのか? いいなら今度はもっと下につけるけど」
「し……下っ? 下は……っ!」
晶は真っ赤な顔で股間を隠す。その慌てぶりに章灯は苦笑する。
「さすがにそこじゃねぇって。胸だよ」
「何だ……。びっくりしました……」
ホッとした表情で胸を押さえながら章灯にもたれかかってくる。
すかさず首筋に唇をつけ、跡が残らないように軽く吸う。その度に晶の身体は小さく震えたが、必死に声をこらえている様子である。何だよ、声を出したら負けとか、そういうやつだったっけ……?
「アキ、胸にはつけていいんだな? 俺、止まんなくなるかもしれねぇけど……」
口を開けばさすがに声が漏れるだろうと、問いかけた後も休みなく首筋に唇を這わせた。
「止まら……なくって……、どういう……」
章灯の読み通り、時折声を上ずらせながら、途切れ途切れに言う。
「最後までだ。ダメか……?」
耳元で囁くように言うと、晶は一際大きく震えた。「がん……ばります……」




