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雇われメイドの多忙な一日

勢いだけで書いた

反省はしている後悔もしている


人物表

アリス・イン・ワンダーランド

魔術師兼人形遣い兼メイド つまり変態


お嬢様

猫耳ちびっ子 作中に名前が出るときは来るのか 名前を考えてないだなんて言えない


駄メイドさん

お付きのメイドさん第1号 名前はまだない


 屋敷での拉致監禁もとい出稼ぎに来ている私の朝は早い。

 チュンチユンと朝の鳥が鳴き始めるころには夢から覚醒し、ぬくぬくとした布団を堪能する。そしてお嬢が目覚める少し前に布団から這い出るとメイド服を着、寒さに負けて赤いコートを羽織った。

 まずは愛用のメモ帳をめくって昨日まであったことを確認しよう。ゆっくりと、記憶を噛み締めると、何となく窓を開ける。

 切れそうなほど冷たい新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで精神集中。

 キリキリと幻聴が聞こえる。

 見えた!

 何が見えたのかはわからないけど何かが見えた!

 勢いよく部屋から飛び出すと、風の如くと廊下を駆ける。目覚めた同業者の皆様の生暖かい笑顔で見送られれば、辿り着くはお嬢の部屋。

 音もなくドアへとへばり付くと、鍵穴を覆うように手を当てる。ついでに目を閉じて意識をドアノブへ。


「カチャカチャカチャっと…」


 小声で呟けばあら不思議!カチリとした音と共にドアの鍵が開くではないか!

 防犯上問題があるであろうドアノブを回して開けると、一歩、二歩、三歩。床を踏みしめて最高速度に達すると、勢いよく跳ぶ。目標はもちろん、お嬢が眠っているふかふかの桃源郷(ベット)


「おっじょっうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


 楽園(おじょう)まであと一歩と言うところで、私の腕が何者かに捕まれる。しかもあろうこととか、そのままジャイアントスイングの如く回転させられて壁へと叩きつけられる。饒舌に尽くしがたい痛みが私の全身を駆け巡って、ぐへっと一言だけ吐き出された。

 しかしその痛みも、お嬢をぎゅっとしたりわふわふとしたいという希望に掛かれば吹き飛ぶというもの。全身のバネを使ってゾンビの如く立ち上がると、ビシィと元凶へと指を指す。


「おのれ駄メイド!毎朝毎朝ゴキブリの様に弾きおって!私を邪険にしていいのはお嬢だけだと、何故わからぬ!」

「…あなたこそ、毎朝毎朝面倒なのでやめていただけますか?それと私は駄メイドではありません」


 さらりと流れる赤髪をした女性(ダメイド)が冷ややかな目でこちらを見てくる。彼女こそメイド長の立場を押し付けられている駄メイド(私命名)である。感情の起伏が乏しい表情に白い肌。大人しくしてれば人形の様にも見えなくもない容姿であり。クールに見える容姿は仕事が出来そうにも見える。

 だが侮るなかれ、こいつは何も出来ないがためにお嬢の付添いをしているのだ。

 料理をさせれば味覚と嗅覚を破壊する何かが出来上がり、掃除をさせれば大工が儲かる。何事も手を抜けない性格はこの時ばかりは破壊の化身と成り代わり、悪意のない破壊の渦が生まれる。その結果お嬢の付添いメイドという大変美味しい立場を頂いた。

 同じ立場のはずなのに、馬車馬の如く雑用をさせられている私とは雲泥の違いだ。この世に神は居ない。


「あんたお嬢の抱き枕以外に仕事が無いじゃないか!」

「失敬な。他にも仕事はしています」

「お嬢の付添いじゃねぇか!抱き枕の仕事を私に下さい」

「嫌です」


 土下座をしながら頼んだら即答された。土下座までしたのに…土下座までしたのに!

 どうやら此奴とは決着を付けないといけないらしい。


「こい、駄メイド!私に抱き枕の立場を譲らなかったことを後悔させてやる!」

「…もしかして頭を打ちましたか?」


 せっかくこちらが言い放ったのに、駄メイドは全く乗り気じゃない。それどころか、蔑んだ目で私を見る。こちとらお前みたいなデカい奴に蔑まれても何も感じないんだよ!そして私の頭を踏むんじゃねぇ!


「んにゃ…」

「おはようございます、お嬢様」

「おはようお嬢。さ、目覚めのチューをしようか」

「…何をしてるの?」


 まだ寝ぼけているのか、ぼーっとした目で耳をぴくぴくさせて私を見るお嬢。そんな君も可愛いよ、と言いたいのだけれど、土下座をしている真っ最中だからいまいち決まらないだろう。


「お嬢を抱きしめる権利を巡って平和的交渉の真っ最中。そして目覚めのちゅーは必要かい?」

「…この馬鹿をここから放り出して」

「畏まりました」

「待ってくれお嬢!今日のパンツは何色ぉぉぉぉぉぉごふぅ!」


 お嬢が冬の空気よりも冷たい言葉を発すると、私の身体が蹴り上げられる。鋭い痛みから逃れるように身体を仰け反らすと、そのまま襟首を掴まれて窓の外へと投げ飛ばされた。だから私に暴行を加えていいのはお嬢だけだというのに!

 反転した世界の中、冷ややかな視線で見つめてくるお嬢に向かって爽やかな笑顔を送る。君に届け!私の想い!

 けれどもいつまでも爽やかな笑顔を見せていては私の生命の危機である。くるくると重力を無視して無駄な回転を数回すると、華麗に着地をした。

 サムズアップをお嬢の部屋へと送るべく振り返ると、調度品の壺がスローモーションとなって迫ってくるのが見えた。けれども哀しいがな、私の身体もスローになっている様である。私に出来る事と言ったら、次の瞬間に頭部を襲うであろう衝撃に対して覚悟を決める事だけだった。


「…ぬふっ!」


 壺の砕ける音と共に私の意識が落ちた。



□ □ □ □



 両手いっぱいに本を積み上げてふらふらと廊下を歩く


「あ、それが終わったらこっちの助っ人お願いー」

「いえっさー!」


 運悪くメイドさんと遭遇し、仕事の追加を頼まれたので気合を入れるべく返事をする。しかしあまりに気合を入れすぎると、鼻に詰めたティッシュが吹っ飛び、相対的に鼻血も吹っ飛び、本の生命を終わらせる事になりかねない。

 そうなると私の首も吹っ飛ぶことになってしまう。いくら顔面に壺を投げつけられ、鼻血が噴出し、他のメイドの皆様に要らぬ誤解をされたとしても、久しぶりのようじ…依頼を手放すわけには行かないのだ。

 細心の注意を図らねばならない。

 三食付きだが昼寝は無し、といういいんだか悪いんだかわからない待遇もお嬢という成分が加われば元気百倍である。

 しかし起きたばかりのお嬢の破壊力は素晴らしい。寝ぼけ眼でトロンとした目でキットの睨まれる時など、思わず永久保存したくなる。

 あの顔に会えるなら朝早起きするのも苦ではない!むしろありがとう!


「あら鼻血が…」


 白から赤黒い色へと染まりきったティッシュを外すと、流れるような手つきで新しい物を詰める。本日は私、少々貧血ですの。オホホホホ。

 しかし今日だけで私のティッシュ詰め技術は極まれようとしている。惜しむべくは利用先が無いという事か。いや待てよ?お嬢が鼻血を出したときに華麗かつ鮮やかにティッシュを詰めるのに使えるか?そうなると…。

 如何にしてその場面にかっこよく登場すべくか考えていると、書庫へと辿り着いたので抱えていた本を降ろす。

 それが終わると先ほど呼ばれたメイドさんの所まで行き、掃除のお手伝い。幼児成分は皆無である。余りに欠乏しすぎると幼児脱症状となり、夜な夜な世界を呪う事になりかねない。世界の平和のためにも私にちびっ子を!出来るなら可愛いちびっ子を!近くにお嬢と言う大変素敵で可愛らしい方が居るといのに、私はここでガラス拭き。


「…おかしい」

「んー?何が?」

「仮にもお嬢付きのメイドと言う話だったのに、なぜ私はお嬢に付かずに窓に張り付いているの?」


 そう!どうせ拭くならこんな透明な壁を貼る様な奴ではなく、あからさまにこちらに向けて壁を張ってるちびっ子を拭きたい!拭き合いっこしたい!


「そりゃ私が頼んだからだよー。にしてもアリスさん窓拭くの上手いねー。こっちに配属変わる気はないでござるか?」

「そこにちびっ子は居るでござるか?」

「いるわけな「遠慮するでござるよ」」

「アイヤー、即答で振られたかー」

「ふっ…私の愛は世界の子供たちにのみ分けられるのさ!」

「ちょっとかっこいい!」

「勿論性的な意味でも」

「アリスさんって何で捕まってないのー?」

「まだ手を出してはいないからさ!でも双方合意ならセーフだよね!?」

「捕まれ犯罪者予備軍!」


 ほんのりとした口調で毒を吐いてくるメイドさんとくだらないことを話しながら機械的に窓を拭く。勿論私は紳士なので、私より少し下くらいの子に毒を吐かれたからと言って興奮することは無い。容姿と年齢的な要素は大切である。

 そしてひたすら窓を拭く。いくら私がお嬢付きのメイドと言っても、私は雇われた助っ人であり、つまりはメイドさん以下である。頼まれればノーとは言えず、結果的によくわからん雑用係の立場を確立している。

 勿論お嬢からのお願いならばノーどころか、おはようからおやすみまでウェルカムなのだけれど、今のところその様なお願いが来たことは無い。そもそもお嬢には駄メイドという正真正銘のメイドが付いていおり、私のような似非メイドが入る隙は皆無である。お嬢付きのメイドとはなんだったのか。

 深い哀しみを背負いながら窓を拭き終わると、食事の時間になった。当然ながら、私のようなメイドA達が我が愛するお嬢と同じ食卓を囲むことはできないのである。


「アリスさんはご飯どーするの?残飯でも漁るー?」

「お嬢とあーんし合ってくるでごさるよ!にんにん」

「よろしい!がんばでござる!にんにんー」


 声援に対してビシィと拳を突き出して応えると、颯爽と駆け出す。

 お手製の地図を片手に、お嬢の部屋までの最短ルートを駆け抜ける。お昼休憩で食堂へと向かう同僚たちの生暖かい声援に応えれば、目の前には楽園(おじょう)へのドア。

 速度を殺さぬままに身体を捻りながら跳ぶと、私とお嬢の間にある壁を回し蹴りで破壊した。心の壁は今だ解放できず。

 ちなみに直すのは私の役目じゃない。けれども、直すときにお声が掛かるのは言うまでもない。


「おっじょっうぅぅぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁ!?」


 そんな確定された未来を気にせずに木くずの中へと転がり込むと、私の腕を何かが掴んで止めた。そしてあろうことか力任せに振り回すと、壁へと叩き付ける。全身を駆け巡る激痛。ついでに止まりかけていた鼻血が再出した。


「おのれ駄メイド!力任せに振り回しやがって!貴様には淑女としての気構えが無いのか!」

「…力付くでドアを破壊する様な人には言われたくありません。床が汚れるのでさっさと出て行っていただけませんか?」

「元凶のいう事か!」


 だらだら流れる鼻血を抑えながら駄メイドを見上げる。さすがに血が足りなくなってきたのか、ふらついてきた。


「はぁ…」


 私と駄メイドがにらみ合っていると、呆れた様なため息が聞こえた。勿論、ご飯を食べる時に服を汚さないため、エプロンを首から掛けたお嬢である。


「お嬢!二人の仲を急接近させるために一つ提案がある!」

「一応聞いてあげます」


 それにしても、呆れながらも用件を聞いてくれるお嬢は本当に優しい。こちらが何かを言う前に暴行を加えるどこかのメイドとは大違いだ。


「私とあーんし合おう!」


 私が笑顔で言うと、お嬢も笑顔になった。これは…ついに念願が叶う時が来たか!


「嫌です」

「エプロン姿も可愛いよ!だから私と「嫌です」」


 うむぅ、付け入る隙もない。まぁいきなりあーんじゃ恥ずかしいよね。ここは互いに妥協点を探し合ってこそ、二人の幸せがあるというもの。


「それじゃ一緒にご飯食べよう!」

「嫌です」

「ちゅっちゅしよう!」

「嫌です」

「私ね、お嬢のために一生懸命手料理作ったの!食べて?」

「野良犬にでも振舞ってあげてください」

「あ、そう…」


 …この世は無情である。

 さすがに今のは効いた。効いたという事にしよう。

 血が足りなくてふらふらとしながら部屋の外へと出ると、さっと物陰に隠れて様子を窺う。つい先ほど私が破壊したドアが見えた。

 ココからは忍耐が肝要である。

 先ほどの言葉はさすがに言い過ぎたと思ったお嬢が追いかけて来たら「気にしてないよ」と優しく抱きしめて、そのまま一緒にご飯を食べるのだ!名付けて『言いすぎちゃった罪悪感に付け込もう』作戦!あわよくばあーんもできる!

 我ながら完璧な作戦と言える。大丈夫、安心して私の胸に飛び込んでおいで。



□ □ □ □



「…きゅるるー」


 どれだけの時間が経ったのか、きゅるるーとお腹が鳴ったので、きゅるるーと返してみる。お嬢を優しく抱きしめるどころか、追いかけてくる気配すらない。

 これはアレだろうか。放置プレイという奴だろうか?それならそうと縄で絞めるとか焦らすとかしてくれれば、私もそれ相応の準備をしたのに…。

 とはいっても私は地味に多忙なので、いつまでも放置プレイに付き合っては居られない。放置プレイは血沸き肉躍るのだが、今現在血が足りぬ。今すぐにでも倒れそうだ。

 しかしお腹がすいた。腹が減っては戦も出来ぬというのだし、栄養を補給してから今後の事を考えることにしよう。

 トコトコと廊下を歩いても誰とも会わない。

 それも当然だ。

 昼食の後はメイド総出で駄メイドのフォローに回っている。向上心があるのはいいけれど、諦めが悪いのも問題ね。

 きっと今この瞬間もお屋敷のどこかで、駄メイドが悪意の無い破壊の渦を巻き起こしているんでしょう。


「くっださっいなー」


 ふらつく身体でどうにか食堂へと辿り着くと、力を振り絞って声をかける。しかし返事は無い。どうも調理場のメイドも駄メイドの巻き起こす破壊の鎮圧に回っているらしい。こいつぁ本気で残飯を漁るしかない様だぜぃ。

 フラフラと毒餌を食べたゴキブリの様にあっちこっちへと移動して食材を探しまわるも、未調理のままで食べれそうなものが見つからない。さすがの私も、生肉や生卵、油なんかをむしゃむしゃと食べるような野蛮な行為をする気にはならない。かといって生野菜では本格的に倒れる危機だ。

 その結果、どうにかこうにかしてすぐに食べれそうなお菓子を数点見つけた。すぐさま緩慢な動きで確保すると、自室へと戻る。

 倒れ込むようにしてベットに座りモフモフとマシュマロを食べる。差し込んでくる日差しが程よく暖かく、研究何て気にせずこのまま眠ってしまいたい衝動に駆られた。

 マシュマロを頬張りながら、夢と現の間を彷徨っていると、開けっ放しにしていた窓から猫らしき物体が入り込んでくる。


「あ、あなたも食べる?」

「ぬーーん」


 足が無く、まるでナメクジと猫を合体したかのような生物は一声長く鳴くと、私の置いた煎餅に乗っかる。明らかに食べていない様に見えるのだけれど、彼の者の下からボリボリと煎餅を咀嚼する音が聞こえてきた。ううむ…いつ見ても奇妙な生物だ。

 私もバリボリと煎餅を食べながら手を差し出してみると、指先を少しだけ嗅いで頭を擦りつけてくる。耳の後ろを撫でると、気持ちよさそうに伸びた。決して比喩ではない。

 貧血でぼーっとする頭で瞳を閉じると、微かに何かが壊れる音とメイドたちの悲鳴が聞こえてくる。嗚呼、彼女たちに幸あれ。

 コンコンとドアがノックされる音がしたので意識を部屋の中へと戻した。軽いめまいを味わいながらドアを開けると、パジャマ姿のお嬢が立っている。


「いらっしゃい。入る?」

「…変なことしませんか?」

「変な事ってどういう事カナー?」


 両手を広げて抱き付こうとすると、踵を返して歩き始めてしまう。


「…帰ります」

「冗談冗談。私の部屋へようこそ」


 笑顔で入室を促していると、不承不承と言った感じで入った。そのまま一直線に窓際へ行くと、眠った様に動かないナメクジ猫を見つめる。猫耳少女を見つめるナメクジ猫の尻尾がゆらゆらと揺れて、猫なのか疑問になる生命体と見つめ合うお嬢の尻尾もゆらゆらと揺れる。猫同士通じ合うものでもあるのかねぇ。


「撫でる?噛み付いたりしないと思うけど」

「…いい」

「そうなのかー」


 立ち続けているとふらついて辛いので、ベットに座って目を閉じる。

 お嬢も私の隣に座った様でベットが少しだけ隣に凹んだ。


「あの…」

「んー?」

「鼻血は大丈夫なんですか?」

「希望的観測と現実的観測と、どっちがいい?」

「希望的観測」

「貧血気味ですの」

「…そうですか」


 薄く目を開けて様子を伺うと、どうも浮かない表情をしている。そういえば、お嬢が笑ったところって見たことないっけ。

 …いつか見られるといいなぁ。


「お菓子でも食べる?」

「…頂きます」


 私の差し出したチョコレートを口に含むお嬢。私も飴を一つ取り出すと放り込み、再び世界を闇に閉ざした。甘ったるいイチゴの味が口の中を侵略する。


「…」

「…」


 互いに無言のゆったりとした時間が流れる。窓から差し込んできた日差しが心地いい。

 暫くすると、トンッと私の膝に軽い衝撃が伝わって来た。目を開けると、少女の紫色の瞳と目が合った。

 私が目を開けると、お嬢の耳がビクッと動いたけれど、私が何もしないで見つめていると大人しく私を見つめてくる。


「何も…しないんですね」


 痺れを切らしたかのように問いかけてた。んー、そうだなぁー。


「頭でも撫でるかい?」


 笑って問いかけてみると、お嬢は静かに瞳を閉じた。


「…いちいち私に聞かないでください」


 思わずくすりと笑みがこぼれると、閉じていた瞳が開かれて睨まれる。けれどもさらりと頭を撫でると再び瞳を閉じた。私の手の動きに合わせて、ゆらゆらと耳と尻尾が揺れる。


「…少し眠ります」


 そういうと、パタンと落ち着いたように尻尾が倒れる。それでも静かに頭を撫でていると、穏やかな寝息が聞こえてきた。時折ピクッピクッと彼女の猫耳が動くのが、大変可愛らしい。食べちゃいたいくらい。

 …コレってちゅーしてもばれないんじゃない?

 ちらりと邪心が心を過ぎったけれど、自分自身を褒めてあげたいほどの精神力で抑える。そもそもちゅっちゅというのは互いに合意の上で行うものであり、恋人同士でもない人様が寝ているからと言って安易にしてはいけない。そんなこど罷り通ってしまったら、安心して眠りに着くことすらできないではないか。

 いかん、いかんぞ私。いくら目の前で無防備で大変可愛らしい寝顔を晒しているからと言って、それにホイホイと釣られてしまっては紳士の名折れ!とにかく視線を外せ!視界に入るからダメなのだ!ちゅっちゅがしたいならマシュマロとでもしていろ!

 けれども今ここで私がちゅっちゅをしたとして、一体誰に咎められることがあるのだろうか?据え膳くわぬは男の恥である。私は男ではないけれど、誇り高き紳士でもある。この様な千載一遇のチャンスを逃して、果たして貴様は絶対に後悔しないと言えるのか?言えないだろう?ならば誰に見られているわけでもないし、目の前の少女のマシュマロを口にしてみても問題は無いのではないだろうか。

 なぁに、一度してしまえばあとは転がるだけさ。

 なる様になる!

 激突する理性と欲望。間に挟まれた私は貧血でクラクラして、機械的にお嬢の頭を撫で続ける。


「…いつもこうならいいのに」


 お嬢から囁く様な声がしたけれど、聞こえなかったことにして、思考と共に飴玉を噛み砕いた。

 最後にポンッと彼女の頭を撫でると、目に見えない糸を引っ張った。それに伴って勢いよく飛んできた本を片手で受け止めると、ページをめくる。

 何代前の魔道書か知らないけれど、相変わらず幾何学的な記号にしか見えない。

 「ぬーん」と窓際に居たナメクジ猫が鳴くと、私に頭の上に乗っかってきた。

 頭と膝の重みを味わいながら、私は次の代のために魔道書の解読を続ける。



□ □ □ □



 夕食が過ぎ、お風呂も入った後は風を切って駆けだす。火照った身体に夜の空気が少し心地よいけれど、冷たくなってもらっては困る。完全に冷え切る前に付かねば!急げ私!

 減速する時間も惜しく、閉まっていた桃源郷へのドアを押し開ければ中へと転がりこむ。


「おっじょうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!一緒に添い寝しよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 転がり込んだ先では待ち構えた様にして駄メイドが立っていて、呆れた顔のお嬢も居る。きっと今回も私は迎撃されるのだろう。

 それでも私は私であるためにも突撃する。

 生憎と、出来ないことは聞かない主義なのだ。

うん、何も思いつかなかったんだ

うん、お察しの通り、あとがきも何も思いつかないんだ


書けない書けない言って仕上げた作品です


次話があるといいなー


ではでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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