惰性メイドはひっそり暮らす
あまりに進みが悪いから気分転換で書いた
タイトルあらすじは結構適当です
タイトル被ってたりするけど気にしたらダメだZE
人物表!
アリス・イン・ワンダーランド
某作品のヒロインとかとは関係ナッシングだぜ!
おじょーさま
即席ラーメンの様に数分で決められた 別名即席ヒロイン 名前を考えたのに名前が出なかった
「うーむ…」
魔道書を片手に唸ってみる。どれだけ唸ってもいい考えが出るはずが無く、先代やら先先代やらから受け継いだ由緒正しき本はうんともすんとも言ってくれない。もはや何世代前から受け継いでいるのかもわからぬ。
「内容が理解できない訳じゃないんだけどなぁ…」
一人暮らしが長くなると、自然と独り言も多くなる。誰かに聞かれるとそれはもう大変不気味な人なのだろうけど、別に誰が聞いているわけでもないし、気にしない気にしない。
というかコレ、内容が理解できるできないというレベルの話で収まらない気がする。
目の前には奇天烈な記号の羅列。たぶん恐らくきっと、その記号が何かと言われたら文字の分類に属するんだろう。
ソレが異常に汚くて、本人以外が読むには解読作業が必要なことを除けば。
「うむむー…」
唸っていれば魔道書の精霊さん辺りが現れて「僕に書いてあるのはね?」とか言って内容を説明してくれないだろうか?してくれないかなー?出てきてもいいのよ?
というかこのままでは代々受け継がれた『アリス』の名が私の代で途絶えてしまう。それも研究途中で不慮の事故にあったとか、出先で不慮の事故にあったとか、途中で先立つものが無くなって背中とお腹がくっついたとかいう、所謂どうしようもない事件ではなく、文字が読めないという至極簡単な理由でだ。
そんな理由で途絶えさせたら、冥界から代々研究を重ねていた皆様方がドロップキックで跳んでくるのは目に見えている。そうなると私も応戦する事已む無しとなり、平和な冥界が哀しみの連鎖に包まれてしまう。亡霊はそのまま眠っていてください。
「…僕に書いてあるのはね?」
暫く先代達がドロップキックでやってきたらどう撃退するかを悩んでいたら、本から精霊が湧き出てきて何かのたまい始めた。そっと目を閉じて本も閉じると、ごみ箱目指して投げ込む。あ、外れた。
「…疲れてるのかな、私」
本に精霊なんて存在するはずが無い!なぜなら私は世間の皆様に夢と希望を振りまく魔術師なのだから!その私が「本から精霊が出てきて内容を教えてくれた!」とか夢いっぱいお花畑な事を言ったら、ただでさえ遠のいている世間の皆様が地平線の彼方へ旅立ってしまう。全く…世の中と言うのはこういう胡散臭い人間にとっては実に世知辛い。餓死しかけないほど世知辛い。
そういう時は気分転換をするといい、というのは偉大なる先人の知恵であり。私は先人の知恵を酷使することを辞さない人である!
意気揚々とふかふかの羽毛布団から抜け出すとメイド服を着こんでいざ外へ!
「あ、ヤバい!寒い寒い!死ぬ!凍え死ぬ!」
私がドアを開けた瞬間、北風の何号さんかが我が身体を貫く。結果、我が気分転換は数秒で壊滅の危機に瀕した。
「へへ…世間と同じで風が冷たいぜ…」
このまま大人しく帰るのは腹立たしいので、馬鹿な事を言ってみる。しかし北風さんは甘くなく、凍えて歯がガチガチ言ってきたので大人しく屋内へ帰還した。
仕方ないので、渋々紅いコートを羽織ると再チャレンジ。そろそろ冬服が欲しい…もしくはもこもこのコートが欲しい…。
ぶつぶつと物欲を醸し出しながら森の中を歩く。丘の上の一軒家と聞くと聞こえはいいけれど、丘の上に一軒しか無い場合、その場所がどれほどの地獄か察するべきである。夏暑く冬寒い。季節を肌で感じられる超優良物件でございます。ついでに周りは大自然の真っただ中でアリ、癒しビーム辺りが満載でございます。
利点はどれだけ電波を発しても誰にも探知されない事。難点はどれだけ電波を飛ばしても誰も気づいてくれない事かな。
そんなマイハウスに世間の皆様は『変なメイドが済む丘の家』とかいう、大変不名誉な二つ名を与えてくれた。しかしあながち間違っていないから否定が出来ないのであった。ぐぬぬ。
そんな変なメイドハウスもとい私の家から道を下ること30分。たくさんの人が行き交う街の中にある公園が見えてくる。皆様メイドがコートを着て歩いていても無反応を貫いていて、慣れって怖いよね。いや、触らぬ神に祟り無しとかそういうことじゃないよ?
「拙いな…」
先代が「私は世界の果てを目指す!」とかいう意味不明の遺言で蒸発してからおよそ3年。コミュニケーションが皆無の一人暮らしを続けるうち、ここには居ない誰かに語りかけている様になってきている。そんな物語の主人公ならば必要不可欠な技術が私に身についてもどうしようもない。私に主人公になれというのか!世界を救う為の戦いも、ワクワクする冒険も嫌いだぞ私は!
お先真っ暗な我が身の未来に絶望しながら公園へと入れば、そこはびっくりするほどユートピア。純真無垢な子供たちが「メイドのおねーさんだー」という黄色い声を上げて私に近寄ってきて、父兄の皆様の視線と鼻血に耐える楽園がそこにはある。
そこには…ある…?
「…」
ひゅーっと風が吹いた。風邪が吹くのと同時、ギーと錆びついたブランコが慰めるようにして鳴く。
私の心のオアシスとしている公園では「メイドのおねーさんだー」と言ってくれる可愛い子供たちの姿は欠片もなく。ブランコが哀しく風に揺られているだけだった。
どうやらあまりの寒気に、子供な皆様方はお家に閉じこもっているご様子。その事実に気づいてしまった瞬間、一瞬で私のオアシスが不毛の砂漠に変貌するのを感じた。子供は風の子と言ったのは誰だ!誰もいないじゃないか!
とにかくこのままでは収まりが付かない。私の幼児メーターはすでに空っぽになりつつあり、このままでは餓死の危険さえある。
どうにかしなければ!と悩んだ末に、居ないなら自己供給すればいいと結論を出した。悟りを開けばここには居ない子供たちの姿さえ幻視することができ、私は夢の世界へ飛び立つこともできるだろう。
「わーい!おねーさんと遊ぼうよー!」
魂の叫びを上げながらブランコへ直進。寂しく揺られているソレに乗り込むと、キーコーキーコーと漕ぎ始める。まだ修行が足りないのか、風が冷く笑顔が歪みかける。
誰もいない公園でメイドが一人ブランコを漕ぐ光景。それは世間の皆様からどう見えるのか、当事者の私には知る由が無いけれどわんこの散歩をしていたおじさんが凄い勢いで走り去ったことから察することができるだろう。
…いや、察するのは止めよう。
「た、楽しいなー!」
な、泣いてない。泣いてないけど、冷たい風が眼球に当たって視界が滲む。こんなことなら大人しく帰るか、どこかの食事処で幼児分と食料を調達すればよかった。今からでも遅くは無い。こんな無意味な自給自足は止めて寒風吹く街へと猛進しよう…な?
そこで私の第六感に衝撃が走った!
西の方角にちびっ子(仮定)の反応がある!
すぐさまブランコから飛び降りると、無意味に一回転してみて着地に失敗。口の中が切れたのか、じゃりっとする砂の味の中に鉄の味を確認。どちらも噛み締めると、服に付いた砂を叩いて第六感を頼りに歩きはじめる。
その子はベンチの裏の茂みに座り込んでいた。
ちぴっ子(確信)は金魚が散りばめられている藍色の和服を着ていて、背中まである髪の毛は黒い。そして何故かその頭には猫耳と、お尻からは尻尾が生えている。この辺りじゃ見ない子と私のちびっ子検索ソフトが結論を出した。しかしそんな事よりなにより、私の第六感が告げた通り、遠目で見てもかなりちみっこい。サイズは私の胸辺りと見た!抱き枕に欲しいサイズね。
さて、いくら念願の目標を発見したからと言って、餓えた野獣の如く「ころしてでもうばいとる」や「ヒャッハー!ロリだー!」と発言して実行するのは私の流儀に反する。ここはあくまで丁寧かつ紳士的に彼女のハートをゲットし、しかる後にお持ち帰りするべきであろう。
「初めまして、飴ちゃんあげるからお姉さんと一緒に暮らしましょう」
「…」
せっかく私が素敵な笑顔で言ったというのに、言い方が悪かったのかキョトンとされた。ふむ、いきなり同居は早すぎるか。最近の子はガードが堅いなぁ。
「初めまして、飴ちゃんあげるから優しい優しいお姉さんとデートしましょう」
「…ああ」
今度は理解できたのか、少女の顔が笑顔になる。私の顔も笑顔になる。オーケー?オーケーなのかい!?
「阿呆が移るので、近寄らないで頂けますか?」
「…うん?」
今笑顔でとんでもない事を言われた気がするけれど、気のせいだよね?
まぁそんなことは後で考えよう。重要なのは今この瞬間をどうするかだ!それによって私の幼児分が補給されると共に、未来が決まるといっても過言ではない!
そこで私の目は捉えた。少女の身体が震えているではないか!そうだよね、こんな寒い日に上着も着なかったらそりゃ寒いよね。ここは少女を暖めるべきなんだろう。それに伴って彼女の心の氷山も溶けて、私の家に新しい住居人が来る…完璧な作戦じゃない!
「ぎゅーっとしてもいい!?」
「言葉が通じないんですか?本当に阿呆なんですね。嫌です。そして何処かに行ってください」
うむー…拒否られてしまった。いきなりハグはやはり駄目なのだろう。嫌よ嫌よも好きの内と言うらしいけど、本当に嫌だった場合取り返しのつかないことになる。私だってそれくらいの事は知ってるさHAHAHA。何てったって、拒絶させられることもやったことあるからね。
拒絶はしたものの、寒いのは確かなようで震える手をこすっている。ついでに私を睨んでいてとっても可愛い。
「こんなところで話も何だし、暖かい場所に移動しない?そしてお話ししよう」
「嫌です。そもそも話すこともありません。私に構わないでください」
あの手この手で誘ってみても、彼女の氷山は溶けるどころか大きく私の前にそびえたつ。よろしいならば実力行使だ。氷山が邪魔なら爆破すればいいじゃない。
「はっはっはー、身体は正直なりよー」
誘拐犯も目を見張るほどの手際の良さで少女を抱きかえると、近くの食事処目掛けて走る。我が家にも暖房はあるけれど、悲しむことに他人に食べさせれる物が無い。よって今は食事ついでに暖まるのが先でしょう。
「ちょっ!離して!離してください!」
「んー?聞こえんなー?」
じたばたとしている少女を抱えている私を見ても、世間の皆様は遠まわしに眺めるだけである。日ごろの行いって大切だなぁと感じました、まる。
□ □ □ □
「何か食べたいものはある?」
「…」
一応聞いてみても、ぶすーっと不機嫌な顔のままで答えてくれない。
「特にないなら私の方で頼むけどいい?」
「…」
絶対に答えるもんかっていう意思が伝わってきて、思わず顔が綻ぶ。意固地に口を開かない癖に、何だかんだで大人しく座っているんだから、可愛いなぁ。
私のストライクゾーンからは大きく外れている店員さんに注文をする。店員さんは思いっきり棒読みの事務口調で注文を取ると、笑顔のサービスもなしに去って行った。私も別にどうでもいいのに今現在の最重要項目に話しかける。
けれどもうんともすんとも言わない。
そんなに意固地になられるとおねーさん困っちゃうなー。私は話題が少ないんだぞ。
「ああ、名前を教えてなかったね。私はアリス・イン・ワンダーランド。普通にアリスって呼んでね」
「…」
私としたことが自己紹介をしてなかった。うん、名前も知らない人とお話ししろっていうのは無理があるよね。知らない人に付いて行ってはいけません。けれどもこの子は付いて来たのではなく、抱えてきたので問題はありません。
「職業は魔術師兼人形遣いでね。まぁ、それだけじゃ食べれないから半分は便利屋みたいなことしてるんだけどね。困ったことがあったらなんでも相談しにきなさんな。話すだけなら無料だし」
「…別に聞いてません」
「あ、答えてくれた」
「…」
笑顔で話しかけていると、ぽつりと答えてくれた。けれどもすぐにぶすーっとした顔で口を閉ざす。とはいえ完全に無視されている訳じゃない様だし、これは進展と見ていいんじゃなかろうか。
けれどそれから先は口にチャックでもしているかの様に何も話してくれず、注文した料理が来る。竜鍋とかいう、名前の怪しい鍋料理は私たちの目の前に置かれてもグツグツと存在をアピールしている。お値段もとってもプライスレス。故に余計怪しい。
「冷めちゃう前に食べちゃおっか」
「…」
無言を了承と取って、何の肉かわからない肉と野菜を少女のお椀によそう。少女の前に置くと湯気が立ち上って、彼女の猫耳がぴくっと動いた。
思わずくすっと笑いをこぼしたら睨まれたので、大人しく自分の分を処理することに集中する。
相変わらず何の肉かわからない癖に美味しい肉を噛み締めていると、少女がレンゲでスープを掬い、恐る恐ると言った感じで口を付けたのが見えた。アツアツであり、奇怪な旨みの出ているスープが舌に乗ったのか、彼女の猫耳が驚いた様にびくっと動いたのが見えた。やっぱり見た目通り猫舌なのかな?
「美味しい?」
「…」
不承不承と言った感じで頷くのが非常に可愛い。けれども現実は残酷であり、食事と言う戦場で可愛さは考慮しない。
「早く食べないと無くなるから気を付けてね」
「あっ…」
自身の皿にさっさと次の分をよそうと小さく声を漏らして慌てた様に食べ始める。そして熱かったのか、びくっとして息を吹きかける。
少女が息を吹きかけている間に私は黙々と食べ続けて、彼女がお椀を空けるころには私のお椀も空いていた。私が無言だからか少女も無言で、そのまま二人とも無言で食べ続ける。
〆までしっかり食べ切り、お鍋が空になったころには身体も暖まった様で震えていない。ごちそうさまをしっかりしてから、また少女に話しかけるとしよう。
「ここ私のお気に入りのお店なんだよね」
「…どうして?」
「んー?」
蚊の鳴くような声でぽつりと呟かれたので、一言も漏らすものかと聞き耳を立ててみる。
「どうして、私を連れてきたのですか?」
「どうしてって…ねぇ?」
理由を思考してみること数秒。それらしい結論は出たけど、表情筋を全て使って笑顔を作る。
「あなたが可愛かったから」
「真面目に答えてください!」
「うむぅ…」
ある程度正直に答えたのに怒られてしまった。どうやら私の巧みな話術を繰り出す時が来たようだね!ここ数か月ほど値引き交渉以外で活用されたことは無いけれど。
「そうね。最近一人でばかりいたから誰かと一緒に食事がしたかった…っていうのはどう?」
「…一人なんですか?」
「うむ、一人一人。数年前までは人なのか化け物なのかわからない知的生命体と一緒に暮らしていたけど、出て行ってからは生きているのか死んでるのかもわからない。それより前は…まぁいっか」
こうは言ったものの絶対に生きてるだろうなー、あいつ。その辺で死んでて欲しいんだけどなー。
「そう…ですか」
一体今の話のどこに落ち込む要素があったのか、やや影を落としてしまう少女。ココは私の優しい話術で好感度アップだ!好感度アップのついでに私の願いも叶えられるならば尚良し!
「さて少女よ、一つ提案がある」
「何ですか?」
「私は暫く一人で暮らし続けていたが故の寂しさから、あなたとあーんとかしたい。別にとって食べようとかそんなことないし、むしろ食べ合いっこするだけだからそんなに睨まないで…ね?はい、あーん」
「嫌です。その辺の野良犬とでもしていてください」
少女の鋭い言の葉!こうかはばつぐんだ!だが鉄で出来たガラスのマイハートには傷一つ付かないぜ!
しかしこう…彼女みたいにちっこい子からジト目でにらまれるとぞくぞくするものがあるね。癖になりそう。
しかしそんな私に世間様は冷たいのであった。過去形でありたい。
数撃ちゃ当たると言わんばかりに己の欲望を連打した結果。お店側からの視線は氷点下まで低下している。これ以上私を見る目が低下してしまうと、私は不審者扱いを受けてしまい大変よろしくない。なぜならば世間一般から見て私は、名も知らぬ少女を飲食店に連れ込んでいる現行犯だからだ!
もしも通報されたら私は弁明の余地なく捕まるであろう。勿論黙って捕まる気はない。もしも黙っていても明日に向かって逃走する覚悟だ。
「さて…と、暖かくもなった様だし、後はあなたの好きなようにしたら?」
「…え?」
支払いをするために席を立つと、少女が驚いた様にして言葉を漏らした。その際に私の良心メーターがメトロノームの様に揺れ動く。決して幼児メーターの事ではない。
少女よ。私にできる事はすべてやったのだ。後はあなたが己の足でなんとかするがいい。私と違って、帰る場所もあるのだし。
「帰る場所があるんだから、きちんと帰りなさんな。あ、付き合ってくれてありがとね。ここは私が会計しとくから」
最後に月並みなセリフで占めて笑いかけると、お会計をお願いする。私の会計を担当したお姉さんは驚くほど無愛想だった。私も無愛想なのでお相子である。誰が好き好んでストライクゾーンから大きく離れた人に愛想よくするのだろうか。
そこで一つやり残したことを思い出したので、未だ席を立たずに私の方を見つめていた少女へと近づく。
「ああ、何か困りごとがありましたらこちらまでどうぞ」
「え…これって…」
作ったはいいけれどなかなか渡す機会の無い名刺を放置ごみの如くテーブルへと置くと、脱兎のごとく店から出る。なんて事は無い、店員さんが電話を手にしたのが見えただけだ。
外へと出ると世間の風と同じくらい冷たい風が私を貫いて、思わず足を止めかけた。恐らく私は、ほとぼりが冷めるまであの店に行くことはできないだろう。お気に入りの店だったのになぁ。
しかし私は過去を見ないのだ。未練を振り切るためにも、速度を緩める事はせず我が家へと向かって猛進するのである。
…ちょっと疲れたから歩いていこう。
□ □ □ □
ぎんごーんと錆びついたベルが鳴り響いて目が覚めた。
何の音?と思って音源を確かめ様としても、音源が見つからない。音源が見つからないという事は、大した音ではないか幻聴の類だろうと言う結論を出して安らかな二度寝を始める。
もう一度ぎんごーんと鳴った。
どうやら幻聴ではないらしい。
寝ぼけたままで思考を走らせると、そういえば家のベルがあんな感じの音だっけか…とぼんやり思い出した。我が家のベルが鳴ることなんて怪しい宗教の勧誘か、セールスマンの押し売りくらいである。しかしどちらも見込みがないことを察したのか、ここ数か月はお目にかかっていない。
ぼーっとしながらもメイド服を着ると、ドア窓から来場者が誰か確認する。もしも映ったのが警察やその関係の方々だった場合は、気の毒だけれど居留守という事でお引き取り願おう。それにしても、ここを覗くと向こう側から刺されるんじゃないと思って少し怖い。
ふむ…。
一度ドア窓から目を離すと自分の姿を確認する。勿論確認するまでもなく、何時も着なれているメイド服である。
そしてもう一度ドア窓から外を覗き込んでみる。
メイド服が見えた。
正確にはメイドさんが見えた。
それも私の様にカチューシャ?めんどくせぇ!とか言っている惰性メイドではない。きちんとした身なりの立派なメイドさんである。皴の無いメイド服を久しぶりに見た気がする。
メイドさんが居るという事は、つまりそれ相応の身分のお方が我が家を訪ねたという訳であり、つまりどういうこっちゃ?
まぁお嬢様ないし坊ちゃまが来たところで、別に私の生活に変化があるわけじゃないだろう。早々に要件を聞いてから健やかな眠りにつくことにしよう。
ドアを開けると、当然のことながらメイドさんが見えた。後ろにも何人かのメイドさんと、名前は忘れたけど黒塗りの車。
「突然の訪問失礼します。アリス様にお話があるのですが…お取次ぎをお願いできるでしょうか?」
家の中からメイドが出てきたことにも驚くことをせずに、ぺこりとお辞儀をするメイドさん。いやその、アリス様はあなたの目の前にいるのだけれど、一体どういったらいいんだろうか。
「ええっと…一応私がそのアリスなんだけど…」
「ああ、それは失礼しました。私共は…」
そこから何だか自己紹介的な言葉が聞こえてきたけれど、右から左へ聞き流したからよくわからない。たぶん私の人生でその言葉が活用されることは無いだろうし。
「で、メイドさんが私に話ってなんだい?」
「はい、この件についてお話がありまして参りました。屋敷の方にてお嬢様がお待ちですからご足労願えませんか?」
そして名刺を差し出される。その名刺は見間違う事もなく、私の名刺である。一体どこで入手したんだろうか。そして何故だろう。お願いされているはずなのに、有無も言わさぬ様子である。
「好奇心で聞くんだけど、断ったらどうするの?」
「お嬢様の命令は絶対ですので」
「実力行使、とさせていただきます」と言いながらまたぺこりとお辞儀をするメイドさん。何それこわい。
とりあえず私に選択の余地が無いことはわかった。そして選択させる気が無いならなぜ頼むんだろうか。いや、選択させる気が無いから頼むのか?何でも丁寧に言えば許されるわけでもなかろう。
「まぁ、いいけど…」
「ではこちらに」
まるで連行されている様にして車に乗せられると、どこかへと走り始める。まるでドナドナを歌いたくなるような気分だ。もしも精肉工場や警察署に連れてかれたらどうしよう。
車中で何の様なのかを聞いてみても、全く答えてくれない。客扱いされてるのか、客扱いされてないのか実に判断しづらい。そして座り心地が良くて意外と眠くなる。
眠気でぼーっとしているとどこかのお屋敷についたらしく、これまた連行されている様にして連れ出された。屋敷の中でも何人かのメイドさんがいて、私を見かけるとぺこりとお辞儀をする。
「こちらでお嬢様がお待ちです」
メイド長らしいメイドさんにある一室へと案内されると、ぺこりとお辞儀をして扉を開く。扉の先には、見覚えのある少女が居た。
見覚えはある…見覚えはあるんだけど…誰だっけか?
うんうん唸りながら悩んでいると、少女はメイドさんを下がらせると口を開いた。
「お久しぶりですね」
「お、お久しぶりです」
とにかく、よくわからない時は話を合わせるに限る。けれども私の反応に違和感を感じたのか、少女は可愛らしく首をかしげた。
「あの…」
「はい?」
「もしかして…」
「もしかしまして」
「私の事を覚えて…ない?」
「…」
大変答え辛い質問だったのでにっこり笑ってやり過ごす。…彼女の反応を見るに、どうやらやり過ごせなかったようだ。
いや待て私。貴様は少女に哀しい顔をさせているのだぞ。そこは何としても記憶から彼女の事をひねり出すしかないだろう。
ここ最近の記憶を掘り起こしてみても何も出てこない。むしろここ最近は人と会った記憶すらない。という事はもっと昔か?
遠い遠い過去への船出を出していると、彼女の猫耳へと目が留まった。
ああ…公園の…。
「きちんと帰ったんですね」
「思い出したんですか?」
「ええまぁ…アレから人と会ってないので時間は掛かりましたけど。で、私に御用とはなんですかお嬢様?」
聞いてみても彼女の顔は曇ったまま。うーん、何か変な事したっけなぁ。
「…敬語はいい」
「んー?」
「…私と話すときは敬語じゃなくていいです」
「ふむ」
よくわからないけど、彼女がそう望むのならそうしよう。
「で、私に何の用があって快適な睡眠時間を削ったの?」
「その…」
笑顔で再度問いかけてみると、そんなに言い出しづらいことなのか、もじもじとしている。
「名刺は…」
「んー?」
「名刺の内容は…本当なのですか?」
「名刺のナイヨウ?」
私…名刺に何書いたっけか。
これでもし私に実現できないようなことを書いていたら最悪の事態である。ということで、早速作ったはいいけどあんまし渡す機会が無いそれらを取り出すと確認してみる。
『人探しから暗殺まで、あなたの依頼をなんでも解決いたします』
最悪の事態だった…。
なんでもって、私にできない事を依頼されたらどうするんだよ。
しかし書いてある以上嘘はつけない。出来るか出来ないかは、依頼を聞いてから判断しても遅くは無いだろう。
「ま、まぁ…私にできる範囲なら」
予防線を張っておくのは忘れない。いざという時にこれが役に立つはず。
私の返事を聞いても少女はもじもじとして中々切り出さない。もしも依頼内容が「世界を滅亡させて欲しい」とかだったら私は即効で土下座をしよう。私の土下座で世界が救われるのなら、それもよし。
「その…人手が…」
「ん?人手が?」
「…足りないんです」
「んと、人手が足りないってこと?」
「…はい」
蚊の鳴くような程小さい声で出されたのは、よくわからない言葉だった。人手が足りない様には見えないとかは別にいいとして、何でそんなことで気まずそうにする必要があるんだろう。
「つまり、私にここで働いて欲しいって依頼でいいの?」
「…よろしいんですか?」
「色々条件はあるけど、特に問題は無いかな」
「そうですか!」
よくわからないけど笑顔になる少女。良く考えたら名前も知らないけど…まぁ、後でわかるでしょう。仕事内容は…家事くらいなら一通りできるからきっと大丈夫なはず。
こうして惰性メイドは二つ返事で貸出メイドへとジョブチェンジすることになったのであった。
数日後、私の立場は普通のメイドではなく所謂「お嬢様付き」のメイドになっていたという事実を知って驚愕したのは別の話である。
次話は全く考えてない!
見切り発車!ふふーぅ!
思いついたら書きます
きっと続きますよたぶんおそらく
ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです