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月読の奏  作者: 南爪縮也
第一章 第三幕 刻迂(こくう)の修羅
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#65 桜並木の錯覚(四)

 場違いなほどに穏やかな夜風が坂道を通り抜けていく。いや、本来であればそんな柔らかい風の方が、この場所には最適なはずだろう。しかし桜の花びらが舞い散る中で、ジュールとデカルトと呼ばれる男は、お互いに尋常でないほどの殺気を放ちながら真正面に対峙していた。それも凍てつくほどに冷たい視線を交錯させながら。ただそんな状況の中でデカルトがジュールに向かい口を開く。男は目の前に立つ少年のそぐわない表情に不審さを覚えてならなかったのだ。

「なぁ少年よ。どうして君は笑っているんだい? 戦意剥き出しの私を前にして余裕を感じているとも思えないし、むしろ君は恐怖を感じているはずだろう。だって君は私を前にして、無意識に後退しているんだからね。それなのにどうしてそんな顔をするのかな? 勝負の前に教えてはくれないかね」

 そう告げつつもデカルトは格闘の構えを崩しはしない。ただその言葉通りにジュールの返答があるまでは攻撃しない様子だ。そしてそれを察したジュールは(わず)かに頭を悩ませる。彼はこの隙に効果的な攻撃が仕掛けられないか考えたのだ。ただ直感として良案が思い付かなかったジュールは、仕方なしに男の問いに受け応える。しかしそれはデカルトの想像する答えとは少し異なっていた。

「俺が笑ってるって? そうか、あんたにはそう見えるのか。でもそうなのかもしれないな。だってあんた、相当強ぇだろうからね」

「ん? 私の事を強いと思うなら、尚更どうして笑うんだい? まさか(あきら)めたがための苦笑いというものでもないだろう。現に今の君からは、私に勝とうとする(みなぎ)った気迫が感じられる。それも禍々(まがまが)しいほどの嫌な殺気をね」

「チッ。あんた、意外とおしゃべりなんだね。でも別に何だっていいだろ、俺が笑っていようが泣いていようが、あんたには関係ない事なんだからさ。それよりもヤルのかヤラナイのか、はっきりしてくれないかな」

「私がここでヤラナイと言ったところで、君は止めるつもり無いんだろ」

「分かってんじゃねぇか!」

 そう言うなりジュールは踏み込んで猛烈な突きを繰り出す。男の顔面を狙い一直線に突き出された木刀は、直情の狂気を噴出させるよう唸りを上げた。

 だがそんなジュールの強烈な突きをデカルトは紙一重のところで(かわ)す。いや、そうではない。男は完全に彼の突きを見切っているのだ。だから必要最低限の距離で木刀を(かわ)したに過ぎない。デカルトにしてみれば、それはごく自然な対処だったのだろう。

 ただそんな男の戦闘スキルの高さをジュールは即座に把握する。全力で繰り出した一撃が容易に(かわ)された事で、むしろジュールは覚悟を決めたのだ。退く事は許されない。攻めまくるしかないのだと。

 ジュールは全力の突きを連続で繰り出す。その威力とスピードは、とても少年が繰り出すものとは思えない攻撃である。しかしデカルトの動きは更にそれを上回っていた。

 ジュールが繰り出す凄まじい連続攻撃がデカルトの顔面を襲う。だがデカルトはそれらを容易に(かわ)し続けた。それも鼻先をかすめるほどの距離で。

 見た目の恰幅(かっぷく)の良さからはまったっく想像出来ないほどに身のこなしは素早い。と言うよりも、無駄な動きがまるで無いのだ。そんな男の動きにジュールは舌を巻く。だがそこで彼は連続攻撃のタイミングを変化させた。突きの狙いをデカルトの顔面から腹部に切り替えたのだ。

(上半身は早く動かせても、その張り出した腹は簡単に動かせないだろっ!)

 ジュールは全体重を乗せてデカルトの腹に渾身の一撃を突き立てる。

「ガッ」

「なっ!」

 ジュールは思わず一驚する。それもそのはず。なんとデカルトは全力で突き放たれたジュールの木刀を両腕でガッチリと掴み止めていたのだ。もちろん男の腹に木刀は届いていない。まったくの無傷である。それに掴まれた木刀はジュールの力ではビクともしない。尋常でない動体視力と握力だ。ただそんな怪物じみた男を前にしてもジュールは止まらない。

 デカルトの有り得ない動きに驚きはしたものの、ジュールの戦意は高く保たれたままだ。彼は掴まれた木刀から迷いなく手を離すと、その手を自分の背中に回す。そして背中に隠し持っていた短めの木刀を引き抜いた。そして間髪入れずに男の頭部目掛けてそれを激しく叩き込む。

「ガガッ!」

「チッ」

 またしてもジュールの攻撃は止められる。デカルトは左手一本でジュールの放った短刀の一撃を受け止めたのだ。舌打ちをするジュールからは明らかに口惜しさが伝わってくる。だが彼の本能とも言うべき戦闘センスは攻撃の手を緩めはしない。ジュールは腹の前でデカルトが右手一本で掴んでいる木刀を力任せに蹴り上げた。

「ぐぉっ」

 男の張り出した腹に木刀が食い込む。いくら怪力の持ち主とは言え、腕一本で蹴りの衝撃を支えられるものではない。さすがの男も衝撃を堪えられず一歩後退した。

「ここだ!」

 勝負所と感じたジュールは一気に攻める。彼は男の腹に食い込んだ木刀を引き戻すと、その勢いを利用して体を回転させた。そしてそのまま横一文字にデカルトの顔面を殴り付ける。

「バギンッ!」

 遠心力を利用したジュールの強烈な一撃によって木刀は真っ二つに折れる。直径およそ5センチはあろう太く硬い木刀がへし折れたのだ。その衝撃は間違いなく壮絶なものであっただろう。もちろんその攻撃をまともに喰らった男はただでは済むまい。いや、もしかして勢いのあまり殺してしまったか。手応えの大きさにジュールは身震いする。しかし次の瞬間に彼は、それとはまったく逆の感覚に襲われた。


 背中に戦慄が駆け抜ける。彼の中にある野生の勘がそう判断したのだろう。ジュールは素早く後退して間合いを広げる。そして短い木刀を握り直して構えを整えた。

 ただそこで彼が目にしたのは、側頭部より(おびただ)しい血を流す男の姿だった。あれだけの衝撃が直撃したのだ。それは当然であろう。しかし男の表情は冷静さを保っている。それどころかジュールの動きを落ち着いて分析し始めたのだ。

「あれでダメージ無しなんて冗談だろ」

 ジュールは無意識に嘆く。するとそんな彼に向かいデカルトは口元を軽く緩ませながら言った。

「大したものだな、少年。その歳で私にこれ程の傷を負わせるなんて、(にわ)かに信じられんぞ。何処で誰に鍛錬を受けたというのだ?」

「特別誰かに戦い方を教わった覚えはないね。でも何処でだって言うんなら、それは俺の育った環境そのものなんだろう。今でこそこんなクソ田舎で暮らしてるけど、俺が生まれ育ったのはルヴェリエのスラム街だからね」

「なるほど。確かにあの街は子供が生きて行くには厳し過ぎる場所だ。だがそこで生き抜いてこれたって事は、逆にそれだけ叩き上げられた証拠なんだろう。ならばその強さも(うなず)けるというもの。それに機転の利いた戦術も見事だしな。先にそっちの男へ仕掛けた目つぶし。あれはそこに横たわる少女に話し掛けようと(かが)んだ時に掴んだものだろう。勝つ為に使える物は容赦なく何でも使う。まさにあの(けが)れた街で育った資質そのものだな」

「何だよ、あんた。俺を褒めてくれるのかい?」

「それは当然さ。君の様な(たくま)しい少年に遭遇するなんて、滅多にあるモンじゃないからね」

「へぇ。そいつは嬉しいね。ならご褒美に一つ、俺の質問に答えてくれないかな」

「質問だと? なんだ、言ってみろ」

「じゃぁ聞くけど、あんたはどうして獲物を使わないんだい? 俺を認めてくれるってんだ、舐めてるわけじゃぁないんだろ」

 ジュールは男に感じていた違和感を聞き尋ねる。(くま)の男は即座にナイフを抜いたというのに、この男は武器を手にするどころかジュールの攻撃を避けるだけなのだ。しかしこの男の強さであれば、ジュールの攻撃を(かわ)し、さらにはカウンターさえも叩き込む事が可能だったはず。だが男はそれをしなかった。ジュールにはそれが釈然としない(わだかま)りに感じてならなかったのだ。ただそれに対してデカルトは鼻で笑う。男にしてみれば、ジュールの疑問など取るに足らないものだったのだろう。

「フン。何を聞くかと思えばそんな事か。だが先にハッキリと言っておいた方が、要らぬ誤解を生まなくて済むというもの。だがら言うぞ少年。確かに私は君を認めてはいるが、舐めきってもいるんだよ」

「なにっ!」

 デカルトの答えにジュールは苛立ちを露わにする。だがそんな彼を制止させながら男は続けた。

「まぁそう怒るなよ。こればかりは仕方ないんだからさ。だってそうだろ。いくら君の腕が立つからといって、それはあくまで同じ年頃の少年と比較した場合を言っているんだ。もし私と同じ土俵で強さを量ったとしたならば、それは比べようも無いほどレベルが違うのは明白なんだよ。だから私は君に対して武器を使うつもりは無いし、それ以前に君を舐めきっているのさ」

「ンだとテメェ。それだけ血ぃ流しておきながら余裕こいてんじゃねぇよ!」

「フゥ~。仕方ないね。やはり君の様なやんちゃ坊主には、痛い思いをさせないと分かってもらえないらしい。だったら少しだけ見せようか。圧倒的な力の差ってやつを!」

 そう告げた男は歩幅を広げて腰を落とす。素手ではあるものの、その構えから感じられる怖さは異常だ。だからジュールは大きく後方に退く。彼の直感が男の放つ威圧感を嫌がり、咄嗟に後退したのだ。

 だがそれよりも早く男はジュールに向かい襲い掛かる。そのスピードはまるでロケット砲の発射の様であった。

「早い!」

 ジュールがそう思った時、腕を振りかぶったデカルトの巨体は彼の目前にあった。男の踏み込んだ足が地鳴りを響かせる。

 避けられないっ! と瞬時に判断したジュールは木刀でガードする。しかし男が放った強烈な拳はその木刀をへし折り、そのままジュールの腹へと捻じ込まれた。

「グハッ」

 ジュールの体が木の葉の様に舞う。いや、爆風で吹き飛んだと言った方が的確かも知れない。それほどまでに彼の体は軽々と宙を舞ったのだ。だが勢いづいたその体は桜の太い幹に激突して動きを止める。

「ク、クソ……。ゲフ」

 ジュールは大量の血を吐いた。深刻なダメージを負ったのは間違いないだろう。彼の全身にそれまで味わった事の無い激痛が伝わる。それでもジュールは意識を保ちつつ、懸命に立ち上がろうとした。――がその時、

「ズドガァァーン!」

 まるで爆撃が直撃したかの様な凄まじい衝撃と大音響がジュールの頭上に響く。そして彼の周囲一面は、舞い上がった(ほこり)で真っ白に染まった。


 顔面を蒼白に変えたジュールは、桜の木にもたれ掛かりながら座り込んでいる。そしてそんな彼が見上げた頭上には、桜の木に肩まで腕を捻じ込んだデカルトの姿があった。

 目を疑うしかない。いや、常識として考えられない。何の道具も使わず、ただの打撃のみで太い桜の木に深々と腕を突き刺すなんて。でも実際に男はそれをやってのけた。男の攻撃力が途轍もない破壊力を有しているのは確かなのだ。

 ジュールはビビっていた。圧倒的なデカルトの強さを目の当たりにして。スピード、パワー、それに相手の力量を冷静に見極める洞察力。その全てが高次元のレベルであり、どう足掻いても太刀打ち出来る強さではない。忸怩たるもジュールは本心でそう感じていた。でもそれで簡単に諦めるほどジュールは素直ではない。彼は絶望的な状況においても尚、それを打開するための突破口を模索した。

 だがしかし、デカルトはそんなジュールの諦めの悪さすら見越しているのだろう。男はジュールの胸ぐらを右手一本で強引に掴み上げと、その少年の体を自らの顔の高さまで持ち上げた。

 まるで時間が戻ったかの様だ。隈の男がアメリアの首を絞めつけていたのとまったく同じ状況がそこにある。ただし今そこで首を絞めているのはデカルトであり、息苦しさに悶えているのはジュールであった。

 宙に浮かんだ足をバタつかせ、更には男の頭部を殴りつける。しかし悲しくも力の無いジュールのそれらの攻撃は、デカルトに対して何の意味も成さなかった。そして男は冷ややかに口元を緩めて笑う。きっと男にしてみれば、ジュールの抵抗など駄々を()ねる幼子の様なものなのだろう。ただそこでデカルトは意外な提案をジュールに向け口走る。男は彼の諦めの悪さ、負けん気の強さを身を持って感じたからこそ、こう告げたのだった。

「なぁ少年よ。君には見どころがある。だからどうだ、私達の仲間にならないか? 決して悪い提案ではないぞ」

 男はそう言うと少しだけ首に掛ける手から力を抜いた。ジュールが返答し易い様に配慮したつもりなのだろう。ただそんな男に対してジュールは決まって答えた。

「ざ、ざけんじゃねぇよ。誰があんたらの仲間になるかって。そんなモンになるくらいなら、家畜小屋にいる豚と兄弟になるさ。その方が楽しいに決まってるからね、ガハッ」

 悪態つくジュールの腹部にデカルトは重たい拳を打ち込む。そして男は笑顔を浮かべたまま、もう一度ジュールに問うた。

「君がそう言うだろうって事は分かっている。それでも私はあえて聞いているのだ。だから君もよく先を見越して考えた方がいい。いつまでも君が意地を張り通せるほど、私は待っていられないぞ。ドンッ!」

 そう言うなりデカルトはもう一撃ジュールの腹を殴り付けた。(たま)らずに彼は悶絶する。内臓がメチャクチャになるほどの強烈な打撃が、これで3発も腹に浴びせられたのだ。その激痛たるや尋常ではあるまい。だがそれでもジュールは反発した。

「な、何度言われても答えは同じさ。あんたらの仲間になんて、この星が逆に回ったってなりゃしねぇよ。だからいい加減早くこの手を離せよ、ペッ」

 ジュールは男の顔面目掛けて唾を吐き出す。そしてその唾はデカルトの顔面に見事命中した。すると男は微笑を消す。左の手の平で吐き掛けられた唾を拭った男は、その拳を目一杯に握りしめた。ジュールの背中が一気に泡立つ。デカルトが放つ強烈な殺気を彼は感じ取ったのだ。

「来る!」

 ジュールがそう思ったと同時にデカルトは容赦なく襲い掛かる。今度は間違いなく殺すつもりだ。右手でジュールの首を掴んだまま、男はグッと握りしめた左拳を彼の腹に向け全力で叩きつけた。

 だがジュールはその瞬間を狙っていた。男が強烈な打撃を繰り出すよりも一瞬だけ早く、彼はありったけの力を(しぼ)り出して足を高く振り上げたのだ。そして男の殺気立つ攻撃をギリギリのところで(かわ)した彼は、ポケットに忍ばせていた拳大の石ころを素早く取り出すと、それを全身全霊の力で男の顔面に投げつけた。

「ゴンッ」

 男の顔面に石が直撃する鈍い音が鳴る。それと同時にジュールの首からデカルトの手が離れた。バランスを崩しながらもジュールは地面に着地する。すると彼はくるりと身を反転させ、坂道から森の中へと飛び込んだ。

「まさか逃げるわけじゃないだろうな、少年!」

 石の直撃した顔を抑えながらデカルトは叫ぶ。そして男もまた、ジュールを追い森の中に姿を消した。


 坂道の両脇に連なる桜並木から一歩足を踏み入れたそこは、杉の木の密集する深い森になっていた。そしてもちろんその森は山の斜面にあるため勾配がきつい。また足元には背の低い雑草が余す所なく生い茂っており、かつ土が非常に柔らかかった。

「考えたな少年。星の光が届かない森の中は極めて見通しが悪い。それにも増して足元が不安定なこの場所は動きにくくて厄介だ。不利な身体能力の差を地の利でカバーしようって事なのだろう。やはり君は面白いな!」

 そう叫んだデカルトは素早く体を(ひね)る。するとその後方で突風が吹き抜けた。

「そう何度も同じ手は喰わんぞ!」

 突風の正体はジュールが投げた石であった。彼は男の背後より石を投げつけ、そこに生じた隙を狙うつもりだったのだ。しかしその策略はデカルトには通じず、逆に反撃を余儀なくされた。

 ジュールは男が石を(かわ)すなんて思わなかったのだろう。だから彼は不用意に飛び込み過ぎてしまった。どこかで拾った折れた木の枝を木刀代わりにしたジュールは、男に突進する形で突きを放っていたのだ。だが石を避けた男はそんなジュールの攻撃を容易に(かわ)す。そしてデカルトはお返しとばかりにジュールの顔面を狙って渾身のパンチを放ったのだった。

「ズバッ!」

 ジュールの(ほお)をデカルトの強烈なパンチがかすめる。その影響でジュールの頬の皮がべロリと剥けた。文字通り紙一重の距離だ。でもジュールは持ち前の瞬発力で男の攻撃を避ける。ほんの(わず)かではあるが、彼は男の動きに慣れてきているのかも知れない。それに死と隣り合わせという過酷な状況が、逆に彼の集中力を研ぎ澄ませているのだろう。

 ここなら少しは戦える。男の攻撃を(かわ)したジュールは感覚としてそう思う。ただ彼は体勢を整える為に、一度間合いを取ろうと山の斜面を駆け上がった。するとそんな彼の背中を見つめながらデカルトは呟く。

「戦いの最中に成長するとは、末恐ろしい少年だな。でもそれだけに惜しいな」

 デカルトの目に容赦は感じられない。恐らく男はもう手加減するつもりが無いのだろう。斜面を駆け上がって行くジュールの背中目掛けて全力の攻撃を仕掛ける。男が次に実行する手段はそれだけだった。

 そしてそんなデカルトの(おぞ)ましい殺気にジュールは振り返る。次の瞬間にはやられるかも知れない。本能でそう感じた彼は、あえて男に向かい正面から木刀を構えた。するとそんなジュールにデカルトは唸りを上げる。

「さすがだな少年よ! 勝てる見込みがまったくないのに、最後は正面からの打ち合いを望むか!」

 デカルトがそう叫び終わるよりも早く、ジュールは男に向かって突進を始める。急斜面を一気に駆け下りるジュールのスピードは極めて速い。そんな予想外のジュールの動きに男は一瞬出鼻を(くじ)かれる。それでも男は楽しそうに口元を緩めながら強い一歩を前に踏み出した。

「そう来るか、少年。素晴らしいぞ君は。ならばこちらも全力でそれに応えよう!――なにっ?」

 猛スピードで迫り来るジュールに対して、デカルトもそれを全力で打ち返そうと足を踏み出したはずだった。だがその時、男は大きく体勢を崩す。なんと強く踏み出した男の左足が、(ひざ)のあたりまで土に埋まってしまったのだ。生い茂った雑草で地面の(くぼ)みが見えなかった為なのか。いや、まさか少年がこれを仕掛けたというのか。

 男の脳裏にジュールの策略が()ぎる。だがそれと同時にデカルトの体は勢いよく吹き飛んだ。斜面を全速力で駆け下りたジュールが男に飛び蹴りを喰らわせたのだ。

 強烈な衝撃が叩き込まれた男の体は為す術無く山の斜面を転がり落ちて行く。森の暗がりで判別できないが、転げ落ちて行く男が発する地響きが遠ざかっていくことより、相当の距離が開いたのは確かなはずだ。それに勾配がきつく、地面の柔らかいこの森を登って来るには、いくら驚異的な身体能力を持つ男でも簡単ではないだろう。

 そう考えたジュールは向きを変えて元いた桜並木の坂道を目指す。アメリアを襲った(くま)の男や、もう一人いたやせ形の男からはそんなにも怖さを感じなかった。ならば当然その二人は、あの男ほどの化け物ではないだろう。満身創痍の体には違わない。それでもジュールは懸命に坂道に戻った。

「ガサッ」

 森を抜けたジュールは勢いよく坂道に舞い戻る。そこには相も変わらず綺麗な桜並木が立ち並んでいた。だがそんな美しい景色とは真逆の苦痛がジュールを(むしば)む。腹の奥から耐え難い痛みが込み上げるし、息苦しい肺は両肩の上下運動を止めようとはしない。それでもジュールはあと少しだと自分自身を奮い立たせ、木刀を握りしめた。――がしかし、

「!」

 ジュールは目の前の光景に絶句する。そこではなんと、隈の男がアメリアに馬乗りになって乱暴しようとしていたのだ。ただアメリアの懸命な抵抗に隈の男は手を焼いている様子である。いかに少女とは言え、力一杯に暴れる体を抑え込むには、大の男であってもそう容易ではないのだろう。それでも彼女が窮地に追い込まれているのは事実である。

「ふざけんなよテメェら。絶対にゆるさねぇ!」

 ジュールは憤激に駆られた。それは苦しめられるアメリアの姿を見たからに他ない。右目の奥が(ひど)(うず)く。それでも彼は一直線にアメリアの救出を目指し駆け出した。

 だがそこでもう一人のやせ形の男がジュールに気付く。男は呆然と立ち尽くすリーゼを後ろ手に掴みながら薄笑いを浮かべていたが、挑み来るジュールの存在に対して即座に反応した。

 やせ形の男は(ふところ)よりナイフを取り出す。そしてリーゼを後方に突き放すと、向かい来るジュールにその刃物をかざした。

「まさかこのガキ、デカルトを出し抜いたってのか? 信じらんねぇな。でも見るからにボロボロじゃねぇか。そんな体で俺に挑もうなんて、冗談が過ぎるぜ!」

 男の方もジュールに向かい突進する。そして桜吹雪の坂道で急速に接近した二つの体はぶつかった。

「ガッ、ガツン!」

 (まばた)きする間もない一瞬の出来事だった。男の突き出したナイフの一撃をジュールは木刀で叩き落とす。そしてその勢いを保ったままジュールは男の(あご)に膝蹴りを打ち込んだのだ。

 男は力なく地面に転がる。強烈な膝蹴りの衝撃が顎から頭蓋に突き抜けたのだ。男が失神したのは間違いない。そしてジュールはそんな男を置き去りにして走るスピードを加速させる。残る暴漢はあと一人。ジュールの目にはその隈の男の姿しか映っていなかった。

「クソガキがぁ。邪魔ばっかしやがって、ムカつくんだよっ!」

 隈の男が素早く立ち上がる。そして低く構えた体勢からジュールの突進に牙を剥いた。

 男は手にナイフを握っている。それも両手だ。男は微かにもジュールを許すつもりはないのだろう。それどころか血走った眼球からは殺意しか感じられない。バラバラに引き裂いてやる。そんなドス黒い感情を剥き出しにした隈の男は、ジュールの足目掛けて両手のナイフを鋭く放った。

「ザクザクッ!」

 2本のナイフが地面に突き刺さる。男が投じたナイフは確実にジュールの足を(つらぬ)いたかの様に見えたが、それよりも刹那にジュールは上空へ飛び上がっていた。そして彼は木刀を上段に振りかぶる。そのまま男に木刀を叩き込むつもりなのだ。

 だがそこで隈の男はまたしてもナイフを両手に握る。その手際の良さは見事だと褒めるしかあるまい。やはりこの男もその筋では達人(たつじん)と呼ばれるほどの実力者なのだ。そして男は空中より迫るジュールにそのナイフを向ける。高くジャンプしたはいいが、空中では逃げる事は出来ない。男は確実にジュールを殺そうと画策していたのだ。

「死ねぇー!」

 隈の男はナイフを握った両腕を一気に突き出す。だがしかし、その二本の腕は同時に強く弾かれた。

「なっ」

 男は愕然とした。ガキに向かって確実に両方のナイフを突き出したはず。だがその両方の腕はジュールの繰り出した両足の蹴りによって強く弾かれていたのだ。そして次の瞬間には脳天に木刀を撃ち込まれる。それも木刀が真っ二つに折れるほどの衝撃で。

 隈の男はガックリと膝をつく。まさかこんなガキに二度も苦渋を舐めさせられるなんて、到底受け入れられるわけが無い。だが現実として意識を保つのが困難なほどに打ちのめされた。

「アホくさ。やってらんねぇぜ」

 そう吐き捨てるのが精一杯だった。男はそのまま力なく地面に倒れる。そしてその横では、荒々しい呼吸で苦しむジュールの姿があった。

「ゼェゼェゼェ」

 四つん這いになったジュールは息をするので精一杯だ。森の中でデカルトを突き放し、その後戻った坂道で二人の男を一蹴した。それもキツイ坂道を全力で駆け上がりながらそれを成し遂げたのだ。立ち上がれないほどにスタミナを切らしていても何ら不思議ではない。いや、むしろ少年であるジュールがここまで出来た事を褒めるべきなのだろう。そしてそんな彼の元にアメリアが駆け寄る。彼女はボロボロに傷ついたジュールの姿に痛ましさを覚えずにはいられなかったのだ。

「しっかりしてジュール! 私の声が聞こえたら返事して!」

「ハァハァ、バ、バカ。は、早く逃げろ。お、俺の事はいいから、お前は逃げるんだ!」

「で、でも」

「ハァハァ、なんだよ。ど、どこか怪我でもしてんのか?」

「ううん、私は大丈夫。ただ顔を叩かれただけだから」

「だったら早く行け!」

 そう叫ぶなりジュールはアメリアの体を突き飛ばす。そしてガタつく足を無理やり踏みしめ、満身創痍の体を起き上がらせた。彼は分かっているのだ。あの男がこのまま自分達を見逃すはずは無いのだと。だから彼はアメリアに逃げるよう強く命令したのだ。だがそんなジュールの懸念は最悪な形で現実となる。

「ドスン! ドスン! ドスンッ!」

 少し離れた森の中より轟音と震動がどんどんと近づいて来る。それは間違いなく何かが森の斜面を登って来る衝撃だ。

「クソッ垂れが、化け物め」

 ジュールがそう吐き捨てた瞬間、デカルトの巨体が森より飛び出して来た。そしてその身のこなし方とスピードにジュールは思う。この男は地面を駆け上ったのではなく、森の木々を蹴り上げ、その反動を利用して森の斜面を登って来たのだろうと。(にわ)かに信じ難いがそれ以外に考えられない。いや、この化け物じみた男ならばむしろ造作もない事なのだろう。そんな考えを巡らすジュールの体が地面に強く押し付けられる。彼は森から飛び出して来たデカルトによって、体を取り押さえられたのだった。


 ジュールの頭は地面に強く押しつけられ、その背中には体重を乗せたデカルトの膝が乗っている。こうなってしまってはもう為す術が無い。万事休すか。そう感じたジュールはグッと奥歯を噛みしめた。

 坂道のほぼ中央でジュールはうつ伏せに身動きを封じられている。握っていた折れた木刀の切れ端もデカルトによって投げ捨てられ、森の中に消えていた。そしてそんなジュールの(あわ)れな姿をアメリアは悲痛な表情で見つめている。更にその後方では、一人立ち尽くすリーゼも同様に彼を見つめていた。

 リーゼは恐怖に(おのの)き、その緑色の瞳からは冷たい涙が流れている。どうして自分の目の前で、こんなにも残酷な出来事が起きているのか。どうしてあの見知らぬ少年は、ボロボロになってまで男達と戦っているのだろうか。ううん、アメリアだって危険を顧みずに私を助けようとしてくれた。それなのに私はただこうして泣く事しか出来ないでいる。これが(みじ)めでなくてなんであろう。彼女は無力な自分に絶望するしかなかった。でもそんな失望感が逆に彼女の気持ちを吹っ切れたものに変えていく。男達の狙いは間違いなく私のはず。だったらまだ、アメリアとあの少年を助ける事が出来るのではないのか――。

 ジュールによって突き飛ばされたアメリアは、上半身だけ起こした体勢で(おのの)いている。人の動きとは思えない跳躍で森から飛び出して来たデカルトを前に、彼女は酷く狼狽したのだ。それでもアメリアは必死に考える。完全に身動きを封じられたジュールを救い出して逃げ出す事は不可能だろう。彼を制止させている男の力を取り除くなんて、とても現実的ではないのだから。でもそれを逆手に捉えたならば、男は簡単にジュールの体を離さないという事になる。他の男二人はジュールによって地面に伸びたままだ。ならばリーゼだけでも先に逃がす事は可能なんじゃないのだろうか。そしてその後にジュールを助ける手段を考えればいい。危機迫る状況の中で彼女は懸命に考え続ける。まずは何とか男の隙をつき、リーゼの安全を確保しよう。そうすれば機転の利くジュールの事だ。うまく男から逃げられるかも知れない――!?。

 二人の少女はそれぞれに考えを巡らせ、次の行動に出る為のタイミングを見計らっている。ただそんな二人になどまったく興味を示さないデカルトは、ジュールの顔を無理やり掴んで彼に聞き尋ねた。

「君には本当に驚かされるよ。まさか追い詰められたあの状況で私を落とし穴に()めるなんてね。まったく大したものだ。それにしても君は何時(いつ)あの落とし穴を仕掛けたというんだい?」

 デカルトはジュールの(ほお)を掴み顔を強く捻り上げる。あと少しだけ力を入れて首を回せば、その骨は造作も無く折れてしまうだろう。手の打ちようがない状態にジュールは不甲斐なさを感じ憤る。そして彼は無念さを露わにしながら男の問い掛けに答えたのだった。

「はじめ森に隠れながらあんたらに近づいた時、たまたま手ごろな穴を見つけたから、折れた木の枝と枯葉をそっと(かぶ)せて置いただけさ。もし森の中で戦うことになったら、使えるかも知れないって思ったからね。でもあんたが穴に落ちるかどうかは賭けだった。だから正直、あんなにも上手くいくとは思わなかったよ」

「ほう。やはり面白い少年だな、君は。増々気に入ったよ。機転が利くだけではなく、僅かな可能性に懸ける度胸も据わっている。恐れ入ったね。だからもう一度だけ聞くがどうだ、私達の仲間にならないか?」

 ジュールの戦いぶりに感心したデカルトは、再度彼を仲間に入れようと試みる。だがそれに間髪入れず反発したのは、鈍痛に表情を歪めた隈の男であった。木刀で叩かれた頭を押さえた隈の男は、苦々しい口ぶりでデカルトに言う。

「おいおい、冗談は止せよ。俺は認めねぇぜ、そんなガキを組織に入れるなんてよ。何より俺はそいつをブッ殺さずにはいられねぇんだからな」

「黙れ。敗者のお前に口出しする権利はない」

「何だとテメェ、俺に口答えする気か! なんならテメェから先に血祭りにしてもいいんだぜ!」

 ふらつきながらも立ち上がった隈の男はデカルトに詰め寄る。ジュールに苦汁を強いられた隈の男にしてみれば、当然の事ながらデカルトの提案は容認出来るものではない。だがそんな苛立ちを露わにする隈の男に対し、デカルトは殺意の込められた視線を向け言い放った。

「忘れたわけじゃあるまい。これは組織で決められたルールなんだ。もしこれ以上私の意見に楯突こうというのなら、お前の命こそ先に(もら)うぞ」

 凄味のあるデカルトの冷徹な言葉に隈の男は押し黙る。やはり実力ではデカルトの方が遥かに上なのだろう。

「どうだ少年。私達の仲間になれ! こう見えても私の気は短いぞ」

 デカルトは再度ジュールに問うた。そしてその口ぶりは僅かに強い。恐らく隈の男の態度にデカルトは内心でイラついているのだろう。だからこそ、ジュールはその対応に肝を冷やした。

 彼は考える。ここで男の要求を断れば、瞬時に首をへし折られ殺されるだろう。それにアメリア達にも危害が及ぶのは確実だ。ならばあえてここは男の要求を飲み、時間を稼ぐのが得策じゃないのだろうか。だがその後はどうすればいい。俺が仲間になると言ったとしても、アメリア達の無事が保証されるわけじゃない。やはりどうにかしてもう一度、男を出し抜かなければならないのか。でもそれが最も困難で非現実的な対応と言える。クソっ、もう時間が無い。

 ジュールの顔色がみるみると青冷めていく。こんな状況で全てが上手く行く策など、思い浮かべられるはずないのだ。だがそんな遣り切れない焦燥感に駆られるジュールを更に追い詰めるべく、デカルトは最後の要求を口にした。

「これで最後にするぞ、少年。どうだ、仲間になるか?」

 ジュールはグッと唇を噛む。しかしそんな彼が男に返せる答えは一つしかなかった。

「分かったよ。なれば良いんだろ、あんたらの仲間にさ!」

「ダメよジュール! そんな奴らの口車になんか乗らないで!」

 アメリアがジュールの返答を(さえぎ)る様に叫ぶ。アメリアにはジュールの返答の意図が分かっていたが、それでも彼女にはそれが耐えられなかったのだ。自分の身勝手さが招いた窮地だというのに、助けに来てくれたジュールが今、最も辛い立場にいる。責任感の強い彼女だからこそ、いや、誰よりもジュールの事を想う彼女だからこそ、男の要求に対して簡単に返答するわけにはいかなかったのだ。しかしそれで状況が改善されるわけではない。いや、むしろ悪化すると言えよう。もう意地や強がりだけではどうにもならない。ジュールにしても、そんなアメリアの苦悶する気持ちは察したはず。でもやはり彼にはこう告げる事しか出来なかった。

「もういいよ。こうなっちまたら仕方ないんだ。俺はこいつらの仲」

「待って下さい!」

 リーゼが叫ぶ。

「私が言う事を聞きます。だからその二人は助けて下さい。あなた達の目的は私の身柄なのでしょう」

 リーゼは覚悟を決めた顔つきで進み出る。自分のワガママで関係の無い二人を巻き込んでしまった。全ての原因は私にあるのだ。私がボーデの街に行きたいとせがんだばかりに、二人を耐え難い苦痛で虐げてしまった。もうその苦痛を取り除くことは出来ない。でもその償いとして、自分を犠牲にする事は出来る。ううん、自分に残された出来る事はそれしかないのだ。ジュールの上に(またが)るデカルトの前まで進み出たリーゼはそこに(ひざ)をつく。そして頭を下げながら男に向かって許しを乞うたのだった。

「お願いです。私と引き換えに、この二人を許して下さい」

 ジュールとアメリアは言葉を失った。まさかリーゼがこの様な自己犠牲の行動に出るとは思わなかったのだ。だがそれよりも彼らが驚いたのは、デカルトがリーゼに返した言葉についてだった。

「申し訳ないがお嬢さん。あなたの要望には応えれられない。なぜなら私にはあなたに興味がないからね」

「な、何を申されるのです。だってあなた達は私を」

「あなたを連れ去ろうと画策したのはそっちの二人でね。私はただ傍観していたに過ぎないんですよ。(ひま)でしたからね。そして今、私が興味を惹かれているのはこの少年なのです。だからね、お嬢さん。あなたが自分を差し出そうとも、それに見合う価値が私には無いんですよ」

「そ、そんな」

「だったら俺に条件を付けさせろ! 俺があんたらの仲間になったら、こっちの二人を自由にするってさ!」

 ジュールが必死に叫ぶ。彼はリーゼの勇気ある行動にハッとしたのだ。自己犠牲の代価として守りたい者の安全を保障させる。今を切り抜ける最後の手法はこれしかないのだと。そしてジュールは訴え掛ける視線をデカルトに向ける。だがそんな彼に対して男は無情にも首を横に振った。

「それも却下だ。と言うよりも、君達は何か思い違いをしていないか? 私にしてみれば、君らの命はその辺に居る小虫となんら変わらないのだよ。初めから時間の無駄と判断すれば、即座に殺すつもりだったからね。ただ君が予想に反してあまりにも楽しく遊んでくれるから、今はこうしてチャンスを与えているだけなんだよ。だから今は私の要求に君がイエスかノーかを答える義務があるだけで、君らの方から私に提案するなんて、まったくの無意味なのさ」

「ふ、ふざけんなよ!」

「それは失敬だね。私は至って真面目なつもりだよ。でもそうだな、君が本当に私の仲間になると言うのなら、一つだけ君に譲歩しよう。こう見えても私は仲間内の中では甘い方だと言われているからね」

 そう告げたデカルトは不敵に微笑む。そして男はジュールに向かい、こう続けたのだった。

「ここにいる少女二人の内、救いたい方一人を選べ。君が選んだ方の少女の身の安全は保障しよう」

「な、そんなの選べるわけねぇだろ!」

「そうだ。簡単に選べないからこそ、そこには価値が存在するんだ。だからむしろ私に感謝してほしいね。ゴミ屑同然な少女の命に価値を見出し、見逃してやろうと言うんだから。さぁ選べ。5秒だけ待ってやる」

 デカルトはジュールの首に掛ける手に力を込めた。男は本気だ。ジュールはデカルトから直接伝わる冷酷な意識に肝が震える。当然の事ながら、彼にアメリアとリーゼのどちらかを選ぶなんて出来るはずがない。だが無情にも時間は過ぎる。唇を噛みしめ固まるジュールの背に乗ったデカルトは、容赦なく彼に告げた。

「さぁ時間だ。助けたい方を選択しろ」

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