#30 春暁の怪事件(後)
「この足跡は何だ? 俺も足の大きさには自信あるけどよ、こいつは規格外だぞ。まさかこれが姫様の愛犬の足跡だなんてオチはないよな」
ヘルムホルツが冗談を交えてジュールとガウスに語り掛ける。しかしジュールはそんな冗談を無視して花壇に刻まれた足跡に見入っていた。
ジュールは一目で確信していた。ガウスが見つけたこの足跡が、間違いなく【ヤツの足跡】であるのだと。戦慄を覚えたジュールの肌が酷く粟立つ。そしてそんな彼の不安を読み取ったガウスが小さな声で問い掛けた。
「ジュールさん、あんたこれどう思う? 俺にはただの獣の足跡には見えないんだが」
「あぁ。お前の考えはたぶん正しいと思うよ。いや、間違いない。これはヤツの足跡だ」
絶対に見間違うはずがない。ヤツと三度戦闘を繰り広げたジュールにとって、その足跡には強烈な印象がある。ヤツはその頭部こそ腐った獣の姿をしているが、体型自体は人のそれと変わらない。足跡にしても、人の素足の形と同一なのだ。ただ大きさのみが人の倍以上あった。恐らくヤツの巨体とパワーを支える為に、その足は大きくて極めて強靭なものに成らざるを得なかったのだろう。そしてヤツと激戦を繰り広げた戦場には、そんな足跡がまるで地雷を爆発させたかの様に複数刻まれていたのである。
ジュールとガウスの顔色は優れない。ヤツとの戦闘を経験した当事者だからこそ、二人は胸騒ぎを感じてならなかったのだ。ただそんな神妙な表情を浮かべる二人にヘルムホルツは呆れながら言った。
「おいおい、お前らの方こそ冗談はやめろよ。それともお前ら、ヤツが城の中を駆け回ってたって言いたいのか? それが本当なら切断された女の腕どころの騒ぎじゃないぞ」
ヘルムホルツが溜息まじりに吐き捨てる。しかしジュールはそんな彼の胸ぐらを掴むと、激しい剣幕でつっかかった。
「見間違うもんかよ。これは絶対にヤツの足跡だ! そりゃ俺だって嘘であってほしいさ。でもこれは否定しようがない事実なんだ」
息を巻いたジュールの態度にヘルムホルツは押し黙る。ジュールの剣幕に圧倒されたのだろう。ただジュールはすぐに掴んだヘルムホルツの服をそっと離すと、視線を足跡に戻し独り思った。
(でも普通に考えればヘルムホルツの率直な感想こそ正しいはずだ。それにそもそもおかしい。ヤツはあの【三人】だけだったはず。ハイゼンベルクが嘘を言ったとは思えないし、随分と前にヤツの研究が凍結されたってのも本当だろう。ならどうして――。まさか、それらとは別にも存在してるって事なのか?)
ジュールは急に寒気がして息苦しくなる。ただそんな彼に追い打ちを掛けるよう、しゃがみ込んだままの状態でガウスが言った。
「えぐれた土の感じからして、この足跡はまだ新しい。たぶん早朝に発見された女性の腕にも何か関係があるんじゃないかな。それに――」
ガウスは付いて来てくれと目だけで合図してから歩き出す。そこはわずか数メートル離れたところにある花壇であり、その中には大きめに窪んだ溝の様な形跡があった。
「土が被ってるから分かり辛いけど、恐らくここにもヤツの足跡があったんだろう。さっきの足跡と大きさがほとんど同じだからね。実はさ、こんな場所が庭園の至るところにあるんだよ」
「はぁ? なら庭園中にヤツの足跡があるって言うのかよ」
「そうなんですよ。事件の捜査で庭園を調べていた俺は、不自然に土が盛られている場所があちこちあるのに気付いたんです。はじめそれが何を意味しているのか分からなかったんだけど、さっきの足跡を見つけて確信したんだ。昨夜から早朝にかけて、ヤツがこの庭園を駆け回ったんだって。それでこれらはヤツの足跡を消す事を目的とした、一時凌ぎの応急処置なんだってね」
「ん? なら誰かが意図的にヤツの足跡を消してるって言うのか? 何の為に?」
ジュールは困り顔でガウスに尋ねる。彼には状況がまったく理解出来ないのだ。ただガウスにしたってそれは同じである。彼は状況証拠から推測したに過ぎないのだから。ジュールとガウスはお互いに眉を潜めて悩み出す。だがそんな二人に客観的に頭を働かせたヘルムホルツが、いつもの落ち着いた態度で持論を述べた。
「そりゃよ、城のド真ん中にヤツの足跡なんかあったら大事件だ。パニックは避けられない。だからヘタに騒ぎにならないよう、土で足跡を隠したんじゃないのかな。どうしてヤツが城の中に出現したのかは謎だけど、確かなのはヤツの存在を知る者が少なからず城の中にいて、そいつがヤツの痕跡を消す為に土を足跡に被せてカモフラージュした。そう考えるのが一番自然だろう。恐らくさっきの足跡は、生垣に隠れて気付かなかったんじゃないかな。ところでガウス、お前以外の警備隊士はこれに気付いてないのか?」
「俺はジュールさんと一緒にヤツと戦ってるから分かったんです。他の奴らは実戦経験の無い奴ばかりなんで、ヤツの足跡なんて気付きやしませんよ。仮に気付いた隊士がいたとしても、腰を抜かすか無駄に騒ぐだけでしょうね。だから誰にも言わずに、まずジュールさんに確認してもらおうと思ったんです」
「うん、それは正しい判断だな。素人が騒ぎ立てるとろくな事にならない。それと他にも土が被されてる場所があるって言ったな。一通り案内してくれないか」
ヘルムホルツの意識にヤツの存在が刷り込まれる。ジュールとガウスの真面目なやり取りに、これが冗談でないと感じ取ったのだろう。そしてそんな彼の指示が正しいものであると判断したガウスは、庭園のあちこちにある不自然に土が盛られた場所を案内した。
確かに庭園の至る所にその痕跡が見受けられる。ヤツが縦横無尽に庭園を飛び回っていたのだろう。しかし常識的に考えれば、そんな事が有り得るとは到底思えない。いくら真夜中から早朝にかけてとはいえ、城の中にヤツがいれば見つかって当然なのだから。ヘルムホルツは悩んでいる。ただそんな彼にしびれを切らせたジュールが我慢出来ずに問い掛けた。
「何か分からないのか、ヘルムホルツ。俺にはさっぱり分からないけど、博識のお前なら何か思いつくだろ?」
「うるせぇな。そんな簡単に答えなんか見つけられるわけねぇだろ。俺だって必死に考えてんだ。邪魔すんなよ」
「チッ。科学部隊っつうのも案外大した事ないんだな。それにしても何なんだ、この足跡の数は。何体のヤツがいたっていうんだよ?」
ジュールはふて腐れながら思っていた感想を呟く。だがその感想にヘルムホルツはハッとなった。
「ジュール、お前もたまには良い事言うじゃないか。そうか、ヤツは一体じゃないんだ」
「どういうことです?」
ジュールを差し置きガウスが尋ねる。するとそんな彼にヘルムホルツは頷きながら返答した。
「俺は勝手にヤツが一体なんだと想像していた。でも違ったんだ。ヤツは二体いたんだよ。その土が盛られた場所を見てみろよ。分かり辛いかも知れないけど、四つ足跡が隠れている。それもここだけじゃない。ほとんどの場所で同じ様に四つの足跡が密集しているんだ。これは二体のヤツがいた証拠であって、この感じからすると二体のヤツは争っていたんじゃないのかな」
「二体のヤツが戦っていたって!?」
ジュールが思わず声を荒げる。だがすぐに彼は口を手で覆った。他人に聞かれていい話ではない。緊迫感が一気に膨れ上がる。ただ幸運にも少し離れた所にいた警備隊士数人がこっちを軽く見たくらいで、彼らは無関心に自分の仕事に戻って行った。
ジュールはホッと胸を撫で下ろすと共に、面目ないと目だけで詫びを入れる。ただそんな彼にヘルムホルツは拳を摩りながら言った。
「まったくお前はバカだな。しゃべれないように一発殴っとくか」
「ホントに済まない。次は気を付けるから許してくれ。それで、二体のヤツはどうして戦ってたんだ?」
ジュールは平謝りしながらヘルムホルツの見解を尋ねた。ガウスも固唾を飲んで見守っている。
「二体のヤツは戦っていたんじゃない。あくまで俺の推測だけど、足跡の形跡からして、一体がもう一体を追い駆けていたんじゃないのかな?」
ジュールとガウスは首を傾げる。二体のヤツが追い駆けっこでもしていたって言うのか。そんなバカな話しあるわけがない。しかしヘルムホルツは更に悩ましい疑問を付け加えた。
「分からないのは、ヤツがどこから現れどこに行ったのかだ。足跡の感じからして、何となくヤツの移動したコースは特定出来る。でも不思議なのはヤツの足跡は突然現れてて、忽然と消えている事なんだよね。出現したのは初めにガウスが案内した生垣の方みたいだけど、消えているのは……」
そう告げたヘルムホルツは無言で指差す。それにジュールとガウスは釣られる様にして視線を向けた。そこは庭園最大の噴水がある場所であり、地面に付き刺さる切断された女性の腕が発見された現場でもあった。
「や、やっぱり今朝の事件に関係があるんでしょうか?」
ガウスが身震いしながら尋ねる。またそれに連動するよう、ジュールの背筋に冷や汗が流れた。そしてヘルムホルツにも身の毛の弥立つ不安が過ぎる。ただ彼はそんな不安を無理やり払拭させるよう、威勢を張りながら言ったのだった。
「お前ら、そんな顔するなよ。俺にだって全然分からないんだからさ。だけど一つだけ判った事がある。それはヤツの足跡を隠した人物についてだ」
「ホントか! 誰だよ、それは!」
またしてもジュールは大声を出す。条件反射は抑えられないのだろう。ただ予告通りにヘルムホルツはジュールの頭に拳骨を浴びせる。そして痛がるジュールをきつく睨みながら、ヘルムホルツは小声で言った。
「状況から判断するに、ヤツの足跡を消したのは【庭師】だ。切断された女性の腕の発見者であり、日夜この庭園の管理をする彼以外に、こんな事できる者はいない。おいガウス、腕を発見した庭師は何処にいる?」
「まだ警備隊の本部で事情聴取を受けているはずですよ。たぶん夕方になるまで帰って来ないと思いますが」
「そうか……」
ヘルムホルツは溜息を吐き出し落胆する。でも庭師は事件の重要な関係者だ。警備隊が事情を聞くのは当然な対応なはず。今は我慢して待つしかないか。ヘルムホルツは気落ちしながらもそう納得していた。ただそんな彼を横目にジュールは歓喜する。ひょんな事件から舞い込んだヤツという存在の謎。だが願ってもない話しだ。これこそ自分がこの先追い求める、真実に繋がる決定因子なのだから。そう直感するジュールの目には一条の光が見えた気がした。
ジュールは雲一つ無い青い空を見上げ、心の中で意気込んだ。見ていてくれ博士、俺はもう立ち止まらない――と。ただその時、ジュールは偶然目にした何かに気を留めた。
「ん? おいガウス、あそこは何だ?」
ジュールが指差した方向には高い城壁があり、その壁には倉庫の様な建造物が、めり込むように建てられた。美しい庭園に接する場所にもかかわらず、明らかに不釣り合いな無機質な建物。ジュールはそれが気になって仕方なかった。
「あぁ、あの倉庫みたいな建物ですか。あれは城の上下水の制御や管理をしているポンプ室ですよ。でもあそこはもう警備隊の調査が入ってるはずです。最初に怪しく思う場所ですからね」
そう言ったガウスの言葉を聞きながらも、ジュールはポンプ室へ足を向ける。
「どこか不審なところでもあるんですか? 今のところ警備隊からは特に報告ないんで、何も見つかってないはずですけど」
「いや、何となく気になってね」
「なら少し中を覗いてみますか? 出入り口付近に警備隊士が何人かいるけど、俺が一緒ならたぶん入れると思いますよ」
ガウスが先導しジュールが続く。だがそんな二人をヘルムホルツが呼び止めた。
「もういいんじゃないのか? あそこは警備隊が調査したんだろ? 今更行ったところで、何も出て来やしないと思うぞ」
「なんだよお前、まさか怖くなったのか? せっかくガウスも協力してくれるって言ってるんだ。ここまで来て行かなかったら嘘だろ。デカい図体のくせに肝っ玉小せぇなぁ」
「チッ。相変わらず行動力だけは見事なモンだな。でもな、無茶なマネはするんじゃねえぞ」
ジュールに小馬鹿にされて腹が立ったのか。ヘルムホルツはムッとしながらも同行を受け入れる。彼は科学者でありながらも、やはりジュール同様に負けん気が強いのだ。しかし三人がポンプ室の前に到着した時だった。ガウスの同僚の警備隊士が興奮した様子で駆け寄って来る。そしてその警備隊士は激しく動揺した口調で言ったのだった。
「おいガウス、事件だ! 本部で事情聴取中だった庭師が、突然姿を消したらしいぞ!」
「何だと!?」
アメリアの務める花屋は週に数回、応接室などに飾り付けるアレンジした花束をアダムズ城に納品している。そして彼女はその配達係としてアダムズ城に来ていた。
配達に来たのはたまたま当番が回って来た為である。でもアメリアには一つ考えがあった。そう、彼女は城に品物を搬入する傍ら、店の裏で遭遇した謎の少女からのお願いが果たせないかと淡い期待を抱いていたのだ。
城に併設した広大な駐車場に車を止めたアメリアは、花束を台車に乗せて城の通用口に向う。そこは城の裏口に当たる場所であったが、様々な業者が出入りする為それなりに広い場所だ。だがそこで彼女は通用口付近の雰囲気がいつもと違う事に気付く。
普段なら人波で溢れ返る通用口に、なぜか今日は人影がまばらにしかいない。そのくせに何処かしらから人の視線を感じる。誰かに見られているのか――。
その視線に悪意みたいなものは感じられなかったが、アメリアは不穏な様子に少し当惑していた。それでも彼女は台車を押しながら進み、通用口にある守衛所に着いた。
「花屋です。いつもの配達に来ました」
アメリアは守衛所の中にいる顔見知りの警備隊士に声を掛ける。すると年配の警備隊士が彼女に近づき、恐縮しながら垂れた目じりにシワを深めて言った。
「いつもご苦労だね。でもおかしいな、お店に連絡いかなかったかい? せっかく来てもらったのに済まないんだけど、今日の分の納品は全部明日以降に見合わされたんだよ。今朝城の中でちょっとした事件があってね。関係者以外城への出入りは禁止なんだ」
「え~、そうなんですか。でもそれなら仕方ないですよね」
せっかく来たのにそりゃないよ。アメリアはそう思いながら肩を落とす。でも今日城に来たのは納品だけが目的じゃない。そう思い直した彼女は、人の良さそうなその年配の警備隊士に聞き尋ねた。
「あの、いつもこの時間に警備隊のガウスさんが守衛所にいたと思うんですが、今日はいませんか?」
「ん、あんたガウスの知り合いかい? でも悪いね、あいつも事件の捜査に駆り出されてて今いないんだよ。何か用事でもあったのかい?」
アメリアは顔見知りのガウスに助力を仰ごうと考えていたのだが、彼女の思惑はまんまと失敗に終わった。そう都合よく事が進むはずはない。やっぱり後でジュールにお願いするのが一番だ。アメリアは心の中で思い直した。――とその時、
「ウォン!」
突然響いた犬の鳴き声にアメリアと年配の警備隊士はビクッと驚く。どこから現れたのだろうか。そこには白い大型犬がおり、長い尾を左右に振りながらアメリアを見つめていた。
「大きいワンちゃんね。君、どこから来たの?」
驚きながらもアメリアは屈み込む。すると白い犬は彼女の前に近づきお座りをした。良い子だね――と、アメリアは大きな瞳が印象的なその白い犬の頭をヨシヨシと撫でてみる。動物が大好きなアメリアにとって、犬の扱いは慣れたものなのだろう。
犬の方も気持ちが良いのか、舌を出しながらハフハフと嬉しそうにしている。それはまるで、アメリアを本当の飼い主だと慕っているかの様だ。ただそんな和やかな光景を前にして、年配の警備隊士は目を丸くしながら告げた。
「これは驚いた。お嬢さん、その犬は城に滞在しているリーゼ姫の愛犬だよ。よく姫様の所から逃げ出して、城中を好き勝手に走り回ってる困りものの犬なんだ。でもこいつは驚いた。その犬はとても賢い子なんだけど、姫様以外には全然なつかないし、それこそ体を触れさるなんて滅多にないんだよね。いやぁ~、不思議だ」
年配の警備隊士はそう言って悩ましそうに首を傾げる。またそれを聞いたアメリアも不思議に思った。動物好きではあるが、突然目の前に現れた大きな犬が、まるで長年付き添った自分のペットの様に懐いてくる。こんな事は生まれて初めてだ。
アメリアは少し戸惑いながらも犬をあやし続ける。ただそこで彼女の耳に聞こえたのは、少し切迫した女性の声だった。
「いたぞ、あそこだ!」
アメリアの前に黒い制服を着た二人の隊士が現れる。一人は銀髪の美しい女性隊士。そしてもう一人は身長2メートルはあろう大柄な男性隊士だった。恐らく先程の声はこの女性隊士のものだろう。
年配の警備隊士は素早く敬礼をする。あれほど人の良さそうだった笑顔はもうどこにもない。現れた二人の隊士は三十歳前後に見えるが、恐らく年配の警備隊士よりも遥かに高い地位の隊士なんだろう。
アメリアは年配の警備隊士の態度にそう思った。ただそんな彼女を二人の隊士が挟み込む様にして取り囲む。悪意の様なものは感じないが、無駄な動きがまったくない。相当高いスキルをもっている隊士なのだろう。一般人であるアメリアにでも分かる程だ。だがそんな隊士らに向かい、姫の愛犬は警戒するよう身構えていた。
アメリアは白い犬に大丈夫だよと言いながら優しく頭を撫でる。すると怯えていた白い犬は少しずつ落ち着きを取り戻して行った。アメリアはホッと安堵しながら犬の顔に触れている。そしてそんな彼女と犬の様子を見ていた二人の隊士も安心したのだろう。銀髪の女性隊士が軽く微笑みながらアメリアに言った。
「良くこの犬を留めてくれましたね。感謝します。この犬はリーゼ姫の愛犬なんですが、なかなか我々に懐かなくて。苦労しているんですよ」
女性隊士はそう言って苦笑いを浮かべて見せた。その様子からして、本当に骨を折っているのだろう。アメリアもつられて微笑を浮かべる。ただそんな彼女に向かい、よく知った声が掛けられた。
「アメリアじゃないか! もしかして君がリーゼ姫の愛犬を捕まえてくれたのかい?」
そこに現れたのは【テスラ】だった。銀髪の女性隊士と同じ制服を着ている事から、テスラも犬の捜索をしていたのだろう。そう察したアメリアは、ニッコリと笑いながら頷いた。
「運が良かっただけだよ。私はただ、配達に来ただけだしね」
「ううん、本当に助かったよ。姫の愛犬は足が速いうえに勘が良くてね。一度逃げ出すとなかなか捕まえられないんだ。君が足止めしてくれなかったら、今日だってどうなっていた事か。凄くありがたいよ」
テスラはアメリアにそう言いながらも、手にしていたリードを素早く犬の首輪に取り付ける。そしてそのリードを女性隊士にそっと手渡した。やっと片付いた。女性隊士ともう一人の大柄な隊士はそう思ったのだろう。渋々とする犬を引き連れながら、城の中に戻って行った。
「ふぅ~、終わった終わった。それにしてもアメリアが犬に好かれる性質だったなんて知らなかったなぁ」
「私だって不思議だよ。こんなにも動物に懐かれた事ないもん」
「君は誰にでも優しいからね。動物にも分かるんじゃないかな、アメリアの無垢な人柄がさ」
「テスラ君は褒め上手だね。でもそれを言うならテスラ君の方がよっぽど純真だと思うけどな」
アメリアはそう言ってテスラに微笑み掛ける。彼女は本心でそう思っているのだ。ただそんな彼女の視線を外してテスラは俯く。そして彼は独り言の様に小さく呟いた。
「本当の僕は歪んでいるから――」
「え、なに?」
アメリアは反射的に聞き返すも、どことなく表情を曇らせるテスラにそれ以上は尋ねられなかった。なんだろう、空気が重く感じる。アメリアは妙に心がざわめく違和感を感じ戸惑った。だがその時である。そんな彼女の気持ちを打ち消すかの様な透き通る声が周囲を駆け抜けた。
「テスラさん。私の愛犬は見つかりましたか?」
予想外に現れた存在にアメリアは声を失う。そう、そこに現れたのは【リーゼ姫】だったのだ。当然ながら共にいた年配の警備隊士も腰を抜かすほどに驚愕している。それもそのはず。リーゼ姫は城の中でこそ自由な行動を許されているが、それでも直接姫に会えるのは限られた存在のみであり、守衛所勤務の警備隊士や、まして一般人がお目に掛かるなど滅多に許される事ではないのだ。それ故にアメリア達は息を飲むほどに驚いていた。
「ご安心下さい、リーゼ姫。この方の協力により、先程姫様のご愛犬はコルベットが保護しました。すでに城へお連れしているところです。なのでどうぞ、姫様も城へお戻りください。国王との昼食のお時間も迫っていますので」
「良かった、見つかったのですね。コルベットの方々にはいつもご迷惑をお掛けして申し訳ございません。それからそちらの方も、ご協力していただき誠にありがとうございま――」
リーゼ姫はテスラに続きアメリアに礼を述べようとした。しかし姫はその途中で言葉を止める。でも次に姫が発した言葉は思いも寄らぬものだった。
「あ、あなた、アメリアよね! 【北の里】で出会ったアメリアですよね!」
「……はい、姫様。覚えていて下さって、光栄です」
「やっぱりそうよね! まぁ、今日はなんて素晴らしい日なのでしょう。急に胸がドキドキし始めました。アメリア、一段と綺麗になられて。再会出来て、私本当に嬉しいわ!」
リーゼ姫は満面の笑みを浮かべる。その表情はまるで女神そのものの様だ。テスラと年配の警備隊士はその姿に圧倒されるよう息を飲むしかない。いや、今の姫の美しく輝く姿を前にしたら、誰であっても言葉は出ないだろう。ただそんな美しく微笑むリーゼ姫とは対照的に、アメリアだけは少し悄然と畏まりながら控えめに身を慎んでいた。
「どうしたのアメリア? あなたらしくないじゃない、そんなに畏まって。あなた、遠慮するタイプじゃないでしょ。良いのよ、私に気なんか遣わなくって」
「申し訳ございません姫様。以前お会いした時は、あなたの事を姫様だなんて知らなかったものですから。とんだご無礼をしてしまい、本当にごめんなさい」
アメリアは深々と頭を下げる。この二人にどんな関係があったのだろうか。ただ恐縮しっぱなしなアメリアにリーゼ姫は笑顔を崩さず告げた。
「そんなの気にする必要ありません。私とあなたは【友達】じゃないですか。そんなに畏まらず、あの日と同じようにリーゼって呼んでくれて良いんですよ」
「そ、そんなの、いくら姫様がよろしくても、私には無理です」
アメリアは大きく首を横に振りながら遠慮する。相手は一国の姫君なのだ。彼女が恐れ入るのも仕方ない。ただそんなアメリアにリーゼ姫は優しく微笑みながら続けた。
「フフッ。あなたが私をどう呼ぼうと構わないわ、気にしないで。ねぇ、アメリア。私はあなたと出会い、そしてあの日【北の里】で経験した事を今でも大切な思い出としているの。だからあなたとこうして再会出来たのが本当に嬉しいのよ。あなたとはいつの日か、きっと再会出来ると信じていましたから。それにしてもあなたがルヴェリエに居たなんて驚きね。いつ首都にお越しになったの?」
「もう五年ほど前になります」
「そうですか。お父様やお母様はお元気かしら? あなたのお父様の旅のお話、とても面白かったので、またいつかお聞きしたいわ」
「母は今も北の里で元気に暮らしています。ですが父はもう、随分前に……」
そう言ってアメリアは俯いた。考古学者であり探検家でもあった彼女の父親は十年ほど前、最後の旅だと言い残し北方の氷に閉ざされた国に向かった。だが最悪の天候の中、周囲の反対を押し切って荒れ狂う海に船を出し氷の国を目指したアメリアの父は、その後すぐに消息を絶つ。そして後日捜索に当たった救助隊により、海に浮かぶ父の乗っていた船の残骸だけが発見された。
父の亡骸はついに発見されず、今も正式には行方不名者となったままだが、大シケによって船が転覆し、流氷漂う極寒の海に投げ出されたのである。生きている可能性は皆無に等しい。アメリアと彼女の母は悔しくも父の死を受け入れるしかなかった。
「ごめんなさい。知らなかったとはいえ、気を悪くする様なことを聞いてしまいました。本当にごめんなさい」
「そ、そんな、姫様が謝る必要なんてありません。それより私もこうして姫様とまたお話し出来て嬉しいです。それに姫様がお元気そうで安心しました」
アメリアとリーゼ姫はお互いを見つめ合い微笑む。かつて二人には心を通わせる出来事があったのだろう。ただそんな二人に対し、少し呆気に取られていたテスラが思い出した様に姫に告げた。
「申し訳ありません姫。国王との昼食の時間がそろそろ」
それを聞いたリーゼ姫は残念な表情を浮かべる。もっとアメリアとの再会を楽しみたいのだろう。しかしアルベルト国王との昼食も大切な約束であるらしく、姫は渋々とテスラの指示を承諾した。ただ去り際に姫はアメリアに向き直り意を伝える。
「アメリア。あなたルヴェリエに住んでいるのなら、都合さえ付けばいつでもお会い出来ますわね。今度は正式に私があなたを【友人】として城にご招待します。その時は沢山お話しをしましょう」
「そんな、私なんかが宜しいのですか? 一般市民が姫様にお会いするなんて、気が引けます」
アメリアは遠慮がちに姫に告げる。ただそんな怖気づく彼女に姫は怒る様に強く言った。
「誠に勝手ですが、私はあなたを【親友】だと思っています。例えそれが過去に一度きりしか会ってない相手だとしても。あなたは私にとって掛け替えのない存在です。そんな友人を城に呼び、共に一時を共有することの何が問題でしょうか」
そう言った姫はまたしても女神の様に微笑んだ。そしてそんな微笑む姫の眼差しに、同じ女性であるアメリアの顔が赤くほのめく。照れているのだろう。ただ彼女は気恥ずかしそうにしながらも、姫に向かい小さく答えた。
「――私も、姫様とお話がしたいです」
その言葉を聞いたリーゼ姫がニッコリと微笑む。そして姫は満足そうに頷きながら言った。
「楽しみにしているわ、アメリア。ではテスラさん、参りましょう」
姫はテスラと共に歩き出す。まるで夢でも見ているかの様だ。アメリアはそんな感覚に浸り呆然としていた。ただその時、彼女は城に向かうテスラの後姿を見て思い出す。アメリアは咄嗟に彼の名を呼びながら、こっちに来るよう手招きした。
「まだ何かあるのかい、アメリア?」
足早に駆け戻って来たテスラが尋ねる。もう時間が無いから早くしてくれないか。テスラはそんな気持ちだろう。そしてアメリアの方もそれは良く分かっており、手間を取らせないようにと簡素に用件だけを伝えた。
「あなたのお父さんに渡してほしい物があるの」
そう言ってアメリアは、謎の少女に頼まれたメモリーカードを差し出す。
「これを、父さんに?」
テスラは怪訝な表情で首を傾げる。一般市民であるアメリアと軍の総司令である自分の父に接点は無い。だからテスラが彼女の行為に疑問を感じるのは当然だろう。もちろんそれはアメリアだって承知している。だから彼女は自信なさ気に頼み入ったのだった。
「ごめんね。私も理由は分からないの。初めて会った女の子に頼まれただけがから。でもその子は渡せば分かるって。お願い出来るかな?」
釈然としないテスラは渡されたメモリーカードを少し眺める。でも見たところは何の変哲もないメモリーカードにしか見えない。テスラはそれを受け取ると、物憂げな表情でアメリアに言った。
「得体の知れない物を総司令に渡すのはどうかとも思うけど、アメリアの頼みだから承諾するよ。じゃぁ僕は姫を国王の所にお連れしなくちゃいけないから、これで」
「うん、無理言ってごめんね。頼んだよ」
テスラは急ぎ姫のもとに戻ると、城に向かい二人で歩き出した。それを見送ったアメリアは、無事に任務を達成したような満足感を感じホッとする。でもなんだろう。どこかすっきりしない妙な心境に歯切れの悪さを感じてならない。
「何も間違った事してないよね――」
アメリアは自分自身にそう問い掛けると、年配の警備隊士に軽く会釈してから守衛所のある通用口を後にした。
駐車場に戻ったアメリアは、納品する予定だった花や台車を車に積み戻しながら思う。あちらこちらに人や車が確認出来るが、それらも自分と同様に今日の納品を断られた者達なんだろうと。でも何でかな。人気の少ない駐車場は、広大なせいもあってかこれ以上ないほど虚無に感じられる。
来場した時に感じた誰かに見つめられている様な感覚はまったく無い。それでも彼女は何とも言えない不安感を懐き、早く店に戻ろうと車に乗り込んだ。しかしその時である。聞き覚えのある声でアメリアは呼び止められた。
「おい女。また会うとは奇遇だな」
嫌悪感を抱きつつもアメリアは声の方に振り返る。するとそこには花屋の脇道ですれ違った【顔に傷のある男】が立っていた。そしてさらにもう一人。目の下に浮かんだ濃い隈が印象的な、姿勢の悪い男までいる。
「こんな所で何をしているんだ、お前?」
「お店の配達に来ただけよ。あなた達には関係ないでしょ」
アメリアはそう言いながら、勢いよく運転席のドアを閉める。しかし男が投げ出した足先がそこに挟まりドアは閉まらない。脅威を感じたアメリアは何とかしてドアを閉めよう腕に力を入れる。だが無情にも傷顔の男によって逆にドアは開かれてしまった。
「ちょっと待てよ、お前に聞きたい事があるんだ。本当にあの裏路地で少女を見なかったのか? 何者かがいた形跡はしっかりと残っていたぞ」
「何の話しよ。見てないって言ったでしょ! しつこい人ね、離してよ!」
アメリアは必死にドアを閉めようとするが、傷顔の男がそれをさせない。それどころか今度は濃い隈の男が横やりを入れた。
「体に聞いちまった方が早いんじゃねぇのか? 旦那、俺に任せてくださいよ」
その顔と同様に、男が発した気味の悪い声にアメリアはゾッとする。すると傷顔の男もつられる様にして、隠微に白い歯を覗かせた。アメリアの体が急速に震え出す。それでも彼女は懸命に腕に力を込め、必死にドアを閉めようとした。ただその時、アメリアの視界に信じられない人物がその姿を現わした。
「えっ! 博士!?」
アメリアと男達の前に、突然一人の老人が姿を現す。だがその老人を見たアメリアは信じられない気持ちで一杯になった。なぜならその老人の姿は【グラム博士】にそっくりだったのだ。
よく見れば肌の色や年齢の割に引き締まった体型が、博士と別人であるのを物語っている。けれど顔は瓜二つとしか言いようが無い。これほどそっくりな人が世の中には存在するのだろうか。アメリアは息を飲んで老人を見つめるばかりだった。
そんな老人を前にして、なぜか二人の男達は後退りしながら間合いを広げる。警戒心を高めているのか。ただ老人はそんな男達に対し、穏やかな表情で語りかけた。
「こんな真っ昼間からナンパなどしおって、破廉恥甚だしいのう、お前ら」
「ジジィ、やはりヴェリエに戻っていたか。つい先日、うちの新入りが何者かの世話になったらしいが、どうせテメェの仕業なんだろ? 俺には分かってんだよ」
傷顔の男が怒りを内に秘めながら言う。それに対し老人はニッコリと微笑みながら言い返した。
「向かって来たのはそっちじゃぞ。お前の教育が成っておらんからいけないんじゃ」
その言葉に傷顔の男は苦々しく奥歯を噛みしめる。耐え難い憤りを感じているのだ。しかし男は不満を残しながらも呆気なく引き下がった。
「チッ、行くぞ。このジジィとここで殺り合っても何の価値もない。だが覚えておけ【ガルヴァーニ】。いつまでも師匠面してられると思うな。近いうちに俺がこの手で必ずテメェを始末してやる」
傷の男はそう吐き捨てながら禍々しい視線を老人に向ける。普通じゃない怒り様だ。だが男達はくるりと身を翻すと、何処えなりと立ち去って行った。
アメリアは意味が分からず唖然としている。いや、傷の男が一瞬だけ見せた猛烈な殺気に体が強張ってしまったのだ。日常では体験する事のない強烈な殺気に心までもが萎縮してしまったのだろう。ただそんな彼女にガルヴァーニと名を呼ばれた老人は、優しく声を掛け労わった。
「怖い思いをさせてしもうたな。でももう大丈夫じゃ。あやつらは戻って来んじゃろ」
「あ、ありがとうございました。お蔭で助かりました」
「いいや、無関係な御嬢さんに迷惑掛けたあやつらが悪いんじゃ。礼には及ばんよ。ところで御嬢さん、あんたルヴェリエに住んでいる人かい? ちょっと場所を尋ねたいんじゃが――」
そう言って老人は人懐っこく笑ってみせた。でもその表情はどう見てもグラム博士にしか見えない。アメリアは頭に付けた赤いカチューシャを正しながら、そんな老人の顔を見つめ続けていた。
日も傾きかけた夕刻、ジュールは庭園に併設するポンプ室の前に来ていた。周囲に人影はまったく無い。今日の捜査は終了したのだろう。
どういうわけかこのポンプ室が気になったジュールは、人気が無くなる時間を見計らい再びこの場所を訪れていた。当然そこを調査するつもりなのである。不気味な静けさに鼓動が早まり、否応なく緊張感が高まって行く。ただそんな彼のもとに、一つの人影が近づき小さく声を掛けた。
「ジュールさん、お待たせしました」
「おう、ガウス。俺も今来たところさ」
ポンプ室に入るにはガウスの協力が不可欠だった。しかしそれは処罰覚悟の違反行為を意味するものである。だからガウスは渋っていた。でもジュールに押し切られる形で彼はその要求に応じたのである。ガウスにとって、ジュールは他ならぬ存在だったのだろう。
「ポンプ室のカード・キーを持って来ました。これで中に入れるはずです」
「悪いな、面倒を掛けさせちまって。ところで姿を消した庭師は見つかったのか?」
ジュールは昼間に耳にした庭師の失踪について尋ねる。しかしガウスはその問いに首を横に振った。
「事情聴取の合間の、ほんの僅かな隙に姿を消しちまったらしい。俺も含めてなんだけど、その後血眼に庭師を探したんですが、結局まだ見つかってません。でも不思議なんですよね。だって警備隊の本部がいくら弛んでいるって言っても、事情聴取の最中にその対象が失踪するなんて普通に考えたら有りえないですよ。それに庭師は七十近いジイさんだ。身のこなしに自信なんてあるはずないし、警備隊の目を掻い潜ってどこかに行くなんて考えられない」
「そうか、まだ見つかってないか」
ジュールは少し失望する。ヘルムホルツの推理が正しければ、庭師は極めて重要なカギを握る人物なのだ。そんな庭師がまるで神隠しにでもあったかの様に忽然と姿を消してしまった。それもジュール達が城の中でヤツの足跡に気付き、庭師の行為に疑いを感じたそのタイミングでだ。
ジュールは妙な胸騒ぎに襲われ物怖じする。目に見えない不安が彼の決心を鈍らせたのだろう。目の前に霞んで見える真実へ繋がる一本の道。何があってもその道を行くと決めたはず。いや、もうすでに半歩踏み出しているはずなんだ。それなのにどうして俺はここに来て怖気づいているんだろう――と。
ジュールは自分の弱気に苛立ちを感じてならない。ガウスに迷惑掛けてまでここに来たのに、肝心なところで尻込みしている。そんな自分に悄然としているのだろう。ただそんな彼の背中をガウスが軽く叩いて言った。
「どうしたんですか? ここまで来たんだ、早く行きましょう。正直に言うと、俺もここが気になってたんですよね」
力強いガウスの言葉に、ジュールは心を揺さぶられた。俺は何をしているんだ。肝心な時に限って俺は誰かに助けられっぱなしだ。今からこんな事ではダメだ。今はブレずに一歩一歩前へ踏み出す。不器用な俺にはそれしかない。そう決心した自分の気持ちに迷いは無いはずだから――。
ジュールは自らの頬を叩きそう気持ちを切り替える。そして躊躇する足を無理やり一歩前に踏み出した。鋭い眼光でポンプ室の扉を睨むジュール。ただその時、ふと彼は後方に人の気配を感じ素早く振り返った。
「お前は!」
ジュールは即座に身構える。日没によりはっきりとした顔立ちまでは分からない。でもその風貌、その身のこなしに見間違えはないはずだ。すると黒い影もジュールに気付いたのだろう。黒い影は長い髪を揺らして声を漏らした。
「――お前、あの時の」
ジュールの前に現れた影の正体。それはアメリアと訪れたプルターク・モールで一戦交えた、あの【黒髪の女】だった。