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「あんた、なんでこてつ組に入ったの?」
とりあえず礼似は聞いて見た。こんな世界に入る者はあまり過去を話したがらない者も多い。返事は期待していなかったが、香はあっけらかんと答えた。
「一言でいえば勢いかな? 父親もこの世界だったし、母親もスリだったし。中学の時暴走族に入って礼似さんの伝説を聞いたんですよ。高校も行く気はなかったのに親に無理やり入れられてね。家出は繰り返したけど一応卒業したんですよ。結構我慢強いでしょう?」
どこが? と思いつつも礼似は黙る。さっさとやめた自分が言える義理ではない。
「それで就職はしたけれど、やっぱり居心地悪くてね。とっととやめて流れてるうちに、こてつ組の門をたたいたって訳」香の話を聞き終えて、礼似は確認した。
「……大体はホントだと思うけどね。二、三割は嘘が混じってるでしょ。親がこの世界っていうのは嘘ね。高校も自分で行ったから、かろうじて卒業までこぎつけたんでしょう?」
香は真顔になった。
「へえ……。嘘つくだけじゃなく、人の嘘も見抜けるんだ。さすがですね。確かに父親はこの世界じゃないわ。……その方がましだったけど」香の表情が一瞬揺らぐ。
「別に経歴調査しようってんじゃないからかまわないわよ。何だか見当がついたし。まったく会長も人が悪いわ。あんたも私の過去なんかに共感したら、この先苦労が絶えないわよ」
そう、香の過去は礼似の過去に、瓜二つと言っていいほど似ているのだ。だから香は礼似に憧れて、会長は礼似にこの娘を任せたのだ。
しかも環境がそうさせたのだろうか? この娘も天性のうそつきだ。多分ここに来る前は、詐欺師まがいの事をやっていたに違いない。自分と同じように。
嫌な予感は的中する物なのよね。礼似はため息をつく。
「今更過去はどうでもいいわ。私と仕事をするなら、私に嘘はつかない事。私を信用しろとは言わないけど、私の仕事は信用してもらうわよ。じゃなけりゃ妹分にはできない」
「じゃ、妹分として認めてもらえるんですね」
「とりあえずはね。私はあんたを信用するわ。これからは詐欺はダメよ。もちろん美人局も」
「私、そこまではやってません。ちょっと大げさにセールストークしただけです。自慢じゃないけど、援交だってしなかったんだから」
確かに自慢することではない。しかし、自分も人に説教できる立場じゃない。何とも面倒な娘を押しつけられたものだ。
それでも彼女の自分に対する憧れは本物のようだし、それほど人間がひねくれているとも思えない。嘘は必死さの表れでもある。本当にひねてしまえば、嘘なんてつく必要はないのだろう。嘘は自分を守るための盾である事を礼似は良く知っていた。この娘も嘘と強がりを差し引けば、いたって普通の娘に違いないのだ。
仕方がない。しばらく面倒を見るしかないか。会長がほくそ笑む顔が見えるようだと思いながらも、礼似は香と行動を共にする事にした。




