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一方、御子と良平はあいさつ回りに忙しい。今日は由美の元を訪れていた。
「先日はこてつ君を連れ回したうえに、ろくろく挨拶も出来ずに、大変失礼いたしました」御子が頭を下げる。
「そんなこと気にしなくていいのに。こちらが婚約者の方?」由美が良平に視線を向けた。
「初めまして。良平と言います。以後、お見知り置きを」良平も挨拶する。
「今は式の準備で忙しい時でしょう? ごめんなさいね。うちの主人、私が主人の仕事がらみで冠婚葬祭に出席するのをとても嫌がるの。本当は私も行きたいのだけど……」
御子と良平は、こっそり視線を合わせる。それはそうだ。こんな席に出られたら、会長の職業が一発でバレてしまう。
その上、由美の顔も知れ渡り、由美の危険も一層増してしまうだろう。間違っても会長が由美を出席させるはずがなかった。
「御子さんは主人のお友達の真柴さんの娘さんになったんだから、個人的なお付き合いも深いのに、本当に頑固な人で」
まずい、あまりこの話を引っ張りたくない。そんな気持ちで御子は、急いで話題を変えた。
「あの、こてつ君は今、どうしてます? 庭で遊んでいるのかしら?」
「あら、こてつならすぐそこで寝ているわよ」
「え?」
確かにこてつは御子のすぐわきの足元に寝ていた。……かなり変わった寝姿で。
「あ、あのう。こてつ君って、いつもこの姿で寝ているんですか?」
御子が思わず聞いたのも当然で、こてつは普通の犬の寝姿ではなかった。
まず、犬があまりやるとは思えない……それだけリラックスしているのだろうが、お腹を上に向け、仰向けに寝ていた。その下にはこてつにぴったりサイズに作られたと思われる、クッションが敷かれ、さながらベビー布団に寝かされた赤ん坊のようだ。さらにそのお腹の上にはタオルまで掛けてあった。
しかも、犬なら多少なりとも身体をよじるなどしそうなものだが、こてつは顎を上に向け、前足を揃え、後ろ足は完全に開ききった状態のまま、真っ直ぐにそろえられている。いや、この寝姿全体が、まさに真っ直ぐに行儀のよい(?)状態である。
苦しくはないのだろうか?と二人は一瞬心配したが、よく見るとこてつはすやすやと寝息を立てている。さらにはにっこりと……この犬にはこの表現がとてもしっくりくる……にっこりと笑って眠っていた。
これは本当に柴犬なのだろうか? 御子と良平がまじまじと見つめていると、由美が
「かわいいでしょう? この子の寝顔を見ていると、時々私、この子を産んだんじゃないかって、思えるときがあるのよ」と、顔中を崩して笑っていた。
こてつのあまりに人間臭い寝姿に、二人は返事をする気もうせて、「ははは……」と笑って見せるしかなかった。
それでも御子は何とか気力を引き出して、由美に切り出した。
「あの、ごあいさつのついでと言っては何なんですが、ちょっと、お願いがあるんです……」




