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こてつ物語3  作者: 貫雪
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 さて、倉田にはそう言ったものの、良平にあてがある訳ではなく、真柴組と倉田の付き合いは倉田が義足を作り始めてからの事なので、その前のいきさつなどはほとんどわからない。


 倉田は以前、名うての刀研ぎ師で、やくざ者の人斬り道具専門と言うことで知られていた、らしい。その頃はこてつ組や華風組などが、質の良い名刀などを倉田に任せ、かなりの信頼を得ていた、らしい。そして倉田自身も砥ぎだけでなく、かなり刃物を扱えていた、らしい。


 当時からの古い恨みが絡むのか、倉田個人へのもっと単純な恨みなのかさえ分からないまま、式直前の自分達がかかわるのは難しい。まして相手は銃まで使っている。ただ守るだけでは無理がある。明らかに原因を探る必要があるのだ。


 そこで二人はやむなく、こてつ会長に泣きついた。と、言う訳なのである。



「と、言う訳だ。お前達にとっても御子がらみの一件なら気にかかるだろう。土間は組の古い幹部達にでも聞いて、倉田さんが狙われる原因になりそうな事を調べてほしい。正直、倉田さんの事はこてつ組より、華風の方が詳しいだろう。礼似は倉田さんの事を守ってやって欲しい。彼は今のように、銃だ、ナイフだと振り回す時代になる前の我々すべての恩人だ。しっかり守ってくれ」


 こてつ会長に呼び出され、これまでの説明を、土間と礼似は聞かされていた。


「この件に、今、真柴を巻き込みたくない。この世界で身うちが集まる時は注意するに越したことがないんだ。土間、お前は良く解っているだろう」


「……ええ、そうですね」


「礼似もなるべく倉田さんについてやってくれ。こんなに短い期間に何度も襲われると言うのは、彼が今度の式に出る事に関係があるのかもしれない。もちろん周りも固めるが、一人若い奴も付けるから、面倒見がてらしっかり守ってくれ」


 そういいながら何故か会長はわずかに顔をゆがめた。しかしすぐ、真顔に戻って

「二人ともしっかり頼んだぞ」と言った。


 会長の部屋を出ると、土間はため息交じりに言った。

「会長も人が悪いわ。私が古い幹部とそりが合わないのを承知の上で言ってるんだから」


「でも、華風組は名刀ぞろいで有名だからね。その倉田って人とも、付き合いが長いんでしょう?」と、礼似が聞いてきた。


「ええ、華風組ではずっとお世話になっていたらしいわ。一流の職人だって聞いていたから。昔はあの刃を見るだけでも心が躍ったものよ。私が組に入って二、三年で砥ぎの仕事から身を引いてしまったけれど、あれほどの人はめったにいないでしょうね」


「それじゃあ、組長の土間が調べない訳にいかないでしょ。それにしても私に面倒見させる若い奴って……」


 礼似がそう言いかけた時、若い女性が目の前にやってきた。ぺこり、と言った感じに頭を下げる。


「礼似さんですね? 初めまして。私、香です。会長に礼似さんの手伝いをするように言われました」


「え? あなた? 女の子なの?」礼似は面食らった。


「いけませんか? 礼似さんも女ですよね」


「会長が若い奴って言ったから」


「若いですよ私、二十一です。前から礼似さんの噂は聞いていて、是非、礼似さんの下で働かせてもらいたくて、ずっと会長の周りにくっついてたんです」


「くっついてたって」


「それはもう、会長の部屋の前から、車に乗り込むまで、トイレの前だってくっついてました。中に入ろうとしたら、さすがに怒鳴られましたけど」


 礼似は唖然とした。なんて度胸の持ち主だろう。あの会長にくっついて、トイレの中まで追っかけた? ちょっと普通の神経ではない。横で土間が笑いをこらえて苦しげに震えている。


「で、ずーっと礼似さんの弟、じゃなくて、妹分にしてほしいとお願いしてたんです。やっと念願かなって許可が下りたって訳です。これからよろしくお願いします」香はあらためて頭を下げた。


 なるほど、何故あの時会長が、一瞬顔をゆがませたのかが解った。笑いをこらえていたのだ。これは、ていのいい厄介払いと言う訳か。確かに会長は人が悪い。


 それに、何だかこの子は自分と同じような匂いがする。 嫌な予感がするわね。これは。


「これから護衛に出かけるんですよね。移動はバイクですか?」


「大した距離でもないのに、いちいちバイクに乗らないわよ」


「なーんだ。がっかり」まるで行楽気分の香が言う。


「じゃあ、あんたも乗るの?」


「もちろんです! だから礼似さんに憧れてるんじゃないですか! 年寄りの護衛じゃ乗る機会はなさそうだなあ。ま、いいか。せっかく妹分にしてもらったんだし」


「ちょっと、妹分にするなんて一言も言ってないわよ」


「会長から許可は貰ってますもん。たった今から妹分です。じゃあ行きましょうか。倉田ってお爺さんのところに」 

 そう言って香は元気よく歩きだした。今は完全に笑い出してしまった土間をしり目に、礼似は後を追って行った。




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