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こてつ物語3  作者: 貫雪
19/19

19

 結婚式当日。普段から家庭的でこじんまりとした真柴家の結婚式は、こじんまりとは行かなかった。何せ、こてつ会長と旧知の仲である真柴組長の後継者たちの式である。


 それでも式だけは、本人達の意向を通した。御子は自分が育った神社で式を挙げた。自分を拾ってくれた、亡くなった先代の神主への感謝の気持ちからだ。

 今の神主とその家族達はいい顔をしなかったが、ここだけは押し通した。


 しかし披露宴となると別物で、まさしく二人の披露の場となってしまう。


 こてつ組と華風組の幹部はもちろん、周辺の街の組織や、関係先の幹部達も、こてつ組の周辺の力関係を確認しようと、結構な人数が様々な思惑を持って出席している。


 そう言う列席者の集る式なので、いつの間にか会場周辺には私服の警官達がうろついていて、一層ピリピリした空気を醸し出している。


 そんな式を引き受けてしまった会場側も、元を取らなきゃ割に合わないとばかりに、様々なプランを押しつけて来たし、自分が式を挙げられなかった上に、写真の贈り物まで受け取った真柴組長が、二人可愛さに会場側のいいなりになってしまった。


 その結果、御子と良平は、幾度もお色直しという名の着替えをさせられ、顔もろくに知らない人間達の長々としたスピーチを聞かされ、あっちを向け、こっちを向け、これを持って笑えと指図され、いい加減肩もこり、笑顔もひきつり、疲れ果てた夜も遅くに、ようやく二人は解放(!)された。



「つかれたあ! 二度とこんな事やらないわ」


 会場に使ったホテルのレストランの椅子に、御子は崩れるように座った。


「まったくだ。もう、こりごりだ」良平もうんざり顔だ。


「なあに? 二人ともだらしないわねえ。着替えを繰り返して、後は殆んどじっとしていたようなもんじゃないの」

 礼似があきれ顔で言う。


「だったらあんたも一度やってみなさいよ。裏に引っ込むたびに走って、秒刻みで着替えさせられて、あんなところで仮装して、ライト浴びててごらんなさい。じっとしてたって肩がこるから。ああ、お腹もすいた。目の前に食べ物があるのにろくに食べられないなんて、まるで拷問だったわ」そう言いながら、運ばれた食事に御子と良平がさっそく手を付ける。


「主役が話しも聞かずに物を食べてる訳にもいかないでしょ。なんか土間も疲れた顔してるわね」


「まあね、直系の親族にこだわる華風組で、つなぎ以外で傍流の私が組を継いだのよ。何か隙があるんじゃないかって、カマかけて来るのよ。話しをするだけでも疲れたわ」


「組を継ぐって楽じゃないのね。それよりも、はい、良平。倉田さんからの預かりもの」

 礼似は大きな紙袋に入った、新しい義足を手渡した。このために二人は残っていたのだ。


「倉田さん、無事に式にこれてよかったわね」土間が二人に向かって言った。


「そうね。今度の事はあんた達に感謝してるわ。でも、倉田さんとろくに話も出来なかったけど」御子は残念そうだ。


「後でゆっくり会いに行くさ。新しい義足の礼も兼ねて」良平が義足に目をやりながら言う。


「でも、倉田さん、楽しそうだったわよ。あんなカチカチの良平を見る機会なんてめったにないって」

 そう言う礼似も思い出し笑いを隠そうともしないでいる。


「倉田さんってホントにいい人なのね。あの人のおかげで何だか香が変わったみたいなの。私からもお礼を言いたいって伝えておいてね」


「解ったわ。それで香は今どうしてるの? 護衛はもういいんでしょ?」


「それが私にいまだにくっついてるのよ。妹分だからって。とうとう私の部屋に押し掛けてきちゃったの。参ったわ」


「あら、あんた達結構気が合いそうよ。良かったじゃない。可愛い妹が出来て」御子がからかう。


「冗談! 小生意気な妹になりそうよ。でも、あの娘を守り切れなかった手前もあるし、会長につっ返すわけにもいかないし」


「そうそう、あきらめて面倒見る事ね。まあ、妹って言うより、親子みたいだけど」御子がくすくすと礼似を笑う。


「あら、言ってくれるじゃないの。随分と年のいった花嫁が」礼似もやり返す。


「失礼ね、そんなに年じゃないわよ。だいたい今時結婚に年は……」言い返しかけた御子に土間が突っついた。


「何?」


「礼似、いい加減にしてあげなさいよ。やっかんでると思われるわよ。御子もいつまで良平を待たせるつもり?」


「え?」


「礼似ったら、わざと突っかかってるのよ。あんた達今日が初夜だから」


「あ……」御子と良平が同時に赤くなる。


「はいはい、解りましたよ。渡す物も渡したし、邪魔者はさっさと消えますよ」礼似が席を立つと、土間も続いた。


「じゃ、御二人さん。ごゆっくり」


 ニヤニヤと意地の悪い笑いを浮かべながら、そう言い残して二人は店を出ていく。


「これは、当分、冷やかされそうだな……」あっけに取られながら良平が言う。


「うん。かなりね……」御子も同意する。


 しばらく呆然としていた二人だが、やがて良平が御子に手を差し出した。


「とりあえず花嫁さん。部屋までエスコートしましょうか?」良平が笑いかける。


「そうね。お願いします。花婿さん」御子も笑いながら、その手を取った。


 そして二人は手を取り合って、自分達の部屋へと向かって行った。



                                                                                           完


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