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こてつ物語3  作者: 貫雪
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「二人とも大丈夫?」土間が聞いた。


「大丈夫です。ありがとうございました」香が息を整えながら言った。


「居合抜きが決められずに組長さんに助けていただくなんて。俺ももう年だな」倉田も肩を落とす。


「あなたは研ぎの専門ですもの。今は腕のいい、義足作りの職人ですしね」土間はほほ笑んだ。


「こちらに伺ったのは他の用があっての事なの。こちらにハルさんの刀があると聞いたので、見せていただけないかと思って」


「ハルさん? 春治から預かった刀の事ですか?」


「ええ、そうです。やっぱりこちらにあるんですね」


「それですよ」倉田は土間の方を向いて言った。


「え?」


「今、組長さんが握っている刀。それが春治から預かった刀ですよ」


「これが、ハルさんの刀」土間は刀をまじまじと見つめた。


「この刀はかなり特殊でね。組長は今、この刀の一番いい使い方をしたんです。こいつは人に深手を与える斬れ方をしないんです。斬って斬れない訳じゃないが、傷は浅くなる。固めだから相手の刃を跳ね返したり、身ね打ちにするには使いやすい。刺すには向かない、こいつは人を守るための刀なんです」


「人を守る刀……」


「だから、こいつは春治にしか使えないと言ったんですが、春治の奴、こいつを弟分にくれてやると言い出したんです。こんな刺せない刀、へたすりゃ命にかかわるって言ったんですが、大丈夫だ。そいつは刺すようなまねは絶対にしないからって言って、俺に砥ぎを頼んで行ったんです。その後春治が死んじまって、そのままになっていたんですがね」



 ハルさん、ああ、ハルさん。あんたは私にこれを残してくれてたんですね。繰り返し呪文を唱えてくれた私のために。カズヒロさんではなく。

 土間の視界が、一瞬、涙でかすむ。



「これはハルさんが私のために残してくれた刀です。今まで預かっていただいてありがとうございました。私は決して、人を斬ることはございません。この刀は私が使わせてもらいます。ハルさんの遺志を、私が継ごうと思います」そう言って土間は、倉田に深く頭を下げた。



 一方礼似は車の中で、苛々と携帯を何度もダイヤルしていた。ハルオも自分の携帯が鳴るのを待っている。もうすぐ約束の一時間だ。


 そしてついに通話が御子につながった。礼似はホッとした。


「ちょっと、あんた達何やってんのよ。ひょっとしたら良平が狙われてるかもしれないのに」いきなり礼似はまくしたてた。


「良平が? どういう事?」御子が聞き返す。


「倉田さんが言ってたの。こてつ組に反会長派がいるんじゃないかっって。私も倉田さんを襲っているように見せて、本当は良平に義足を使わせたくないんじゃないかと思うのよ。今、あんたが残した住所の写真館に向かってるから、義足を受け取って頂戴。連絡が付いて良かったわ。香ったらあんた達が取り込み中なだけだなんて言って」


「ごめん、礼似」御子が礼似をさえぎった。


「これからしばらく、ホントに取り込むことになりそうだわ……」


 写真館の駐車場で、御子と良平は突然、男達に囲まれてしまっていた。御子はそのまま、携帯の通話を切った。


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