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「組長、あらためて倉田さんの事ですが」
土間が事務所で倉田に関する資料に目を通していると、今度はアツシの方から声をかけて来た。
「倉田さんに狙いがなくても、刀の方はどうなんでしょうか?」
「刀? 倉田さんの手元にそれほど貴重な刀があるの? 聞いて無いけど」
「刀の価値なんて使う者次第ですよ。金の価値は関係ありません。思い出したんです。昨日の話で。倉田さんの手元に、ハルの刀があるかもしれません」
「ハルさんの刀?」
土間は驚いた。ハルの使っていた刀は、誰もそれで人を斬る事がないようにと、土間自らがハルの墓の中に納めたのだ。
「あの頃のハルが使っていた刀じゃありませんが、若い頃ハルが使っていて、組長に渡すつもりの刀があったんです。ハルの葬儀の後に探したんですが見つからなくて、きっと、砥ぎに出したんだろうと思ってました。いずれ落ち着いたら取りに行くつもりが、倉田さんが砥ぎをやめたり、富士子さんが亡くなったりしたごたごたで、すっかり忘れていたんです。決して名刀と言う代物ではありませんが、使い勝手のいい刀だと聞いていました。刺す事のない組長にはうってつけだと」
「その刀が倉田さんの手元にあるの?」
「おそらく。他にもそういった、誰かが持てば相性のいい刀があるのかもしれません」
「それを狙って? でもそれで倉田さんが襲われるのかしら?」
「刀を狙ってるんじゃなく、刀を相性のいい誰かに持たせたくないんじゃないでしょうか? ましてや、倉田さんに砥がせたくないとか」
そうか、他の武器とは違って、刀は持つ者の技量が問われる。誰にでもそれなりの力になる銃などとは違って普通の者が持っても大した役には立たないが、それなりの腕の者に持たせれば、驚異のある武器になるのが刀というものなのだろう。
ましてや、刀によってそれほどの相性というものがあるのならば、わざわざ刀使いに持たせたくない刀もありそうだ。それに倉田の手元にあるであろう、ハルの刀の事も気になる。
「行きましょう。倉田さんの所へ」
土間はそう言って立ちあがった。