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「もう! 繋がらない! こんな時になんで電源切ってるのよ!」礼似は物言わぬ携帯に文句を言う。
「でも今までの話って、全部憶測ですよね。何か証拠があるって訳じゃないし」と、香は言ったが
「憶測でも何でもいいのよ。別に犯人探しが目的じゃないんだから。二人に危険が迫っているかもしれないなら、早くそれを知らせないと。言ったでしょう? 命は軽くないって。誰にどんな迷惑がかかるよりも、二人の無事が最優先なの」
喋りながらも礼似はリダイヤルしていたが、電源が切られているのか、繋がらなかった。
「まさか何かあったんじゃないでしょうね」礼似が携帯を睨みつける。
「落ち着きなさい、式の前の忙しい時だ。たまたま電波の届かない所にいるのかもしれないし、電源を入れるのをはばかられる状態かもしれない」倉田が礼似を落ち着かせようとする。
「婚約者同士だしねえ。お取り込み中なんじゃないの?」香がのんきな事を言う。
「いいわ、私、真柴組に義足を届けて来る。倉田さん、採寸はもうすんでいるんですか?」
「もちろんだ。あんたらがいるおかげで落ち着いて仕事が出来る」
「光栄です。じゃ、香、しっかり倉田さんを守ってよ。倉田さんの腕も狙われているかもしれないんだから」
礼似は香がうなずくのを確認すると、義足を持って飛び出していった。
まったく! 心配かけてホントに取り込み中だったら、二人ともただじゃおかないからね!
さて、礼似が飛び出す三十分ほど前にさかのぼると、御子と良平は真柴組長と共に、式場での打ち合わせが済んだばかりだった。
式場を出た所で、良平が御子に目くばせをする。
「お義父さん」御子が組長に声をかけた。
「どうした?」
答えた組長はくすぐったそうな顔をしている。いまだに御子に「お義父さん」と呼ばれる事に慣れずにいるのだ。御子の方でもそれを面白がって、やたらと使っているのだが。
「私達、これら寄りたい所があるので、タクシーで先に帰っていてくれませんか?」
「そりゃかまわんが。良平は今、義足がなくて不便だろう。義足が戻ってからじゃダメなのか?」
「ううん。どうせ車だし、大した用事じゃないから。夕方までには帰ります」
そう言って御子は良平を支えながら、駐車場の方へと歩いて行った。
組長は珍しいなと思いながらも、まあ、組に戻れば人も多い事だし、二人でゆっくり話したい事でもあるんだろうと考えると、タクシーを捕まえて、一人、組へと戻っていった。
二人はその姿をこっそり確認すると、自分達の車に乗り込んだ。
「おい、携帯の電源、切っておけよ。急にかかって来て会話がばれるかもしれない」
「あ、そうか。はいはい」
良平に言われて御子が携帯の電源を切ると、良平は車を街はずれの方に向かって走らせる。
「うまく仕上がってるといいけど」
「大丈夫だろ? かなり細かく注文したし、腕は会長の奥様のお墨付きだ。散々探し回った甲斐があったってもんさ。組長もきっと喜ぶぞ」
「こういう時でないとなかなかできないものね」
「機会って大事だよな。いつでもできると思うと、人間何にもしないもんだ。時には形に残すことも必要だな」
「そうね。楽しみだわ」
「仕上がりがか?」
「お義父さんよ。どんな顔するかしらね」
そう言って御子はくすくすと笑った。




