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こてつ物語3  作者: 貫雪
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「組長、それでもあなたはいつか刀を握ると思います。人を斬らない心を、ハルの呪文を誰かに伝えるために」


「予言ですか?」土間は笑った。


「違います。あなたはハルの心を伝えずにはいられないはずだ。今は無理でも、いつかはそういう気になるはずです。それだけですよ」



 前の日から散々調べつくした揚句、礼似と香は倉田の工房にもどっていた。


「おかしいわね」礼似がつぶやく。


「どうしたんですか?」香が聞いた。


「この辺で倉田さんを狙撃しようとするとビルの陰になって、しっかり狙えるところってほとんどないのよ。両隣のビルだって、全部テナントやオフィスが入っていて、怪しい人間が潜り込める隙がないわ」


「じゃあ、もっと近距離から狙うのかしら?」


「それも考えられるけど、銃って使えば目立つ。音は大きいし、弾痕は残るし。じゃあ、そんなこと気にしてないのかって言えば、今までは姿を見られずに逃げおおせてる。ナイフで襲った時ですら、顔を見られていないのよ。矛盾してるわ。なのにガラスを派手に拳銃で撃ち抜くなんて、まるで脅しをかけてるみたい。本当に倉田さんを狙う気があるのかしら?」


「狙ってるふりをしてるんでしょうか?」


「何だかそんな気がするわね。倉田さん、何か脅される心当たりはないんですか?」


「俺を脅しても一文の得にもならんがね。親兄弟もこの世にいないし、金目の物もない。刀が何本か残っているが、特別価値のあるものじゃない。義足は本人には大事な足だが、他人には何の値打もないものだ。全く見当がつかんよ」


「本人の大事な足?」香がふとつぶやく。


「良平さんって、真柴の電光石火って呼ばれてる人ですよね?」


「そうだけど」


「良平さんの義足って、特別なんですか?」香が倉田に聞いた。


「ああ、確かにあれは特別だ。俺の作る義足は俺が昔といだ刀で足を失った奴らがまた歩けるようにと作ってるんだが、そんなやつらはたいてい足を洗って普通に暮らしているから、あくまでも普段歩く事を考えて作っているんだ。しかし良平の場合は銃で撃たれて弾が貫通せず、危険な状態だったんでやむなく足をあきらめた。それでも元の通りに組を守りたいとあいつに頼みこまれて安定性は悪いが、普通の足以上に可動性が高い義足を俺が考えて作ったんだ。だからあの義足はあいつにしか使えない代物だし、あいつはいまだに電光石火でいられるんだ。それで俺は、万が一のためにあいつに予備を作ろうと思ったんだ」


 ここまで聞いて、さすがに礼似も気が付いた。


「本当に狙われてるのは良平の方じゃないの?」


「良平が? なんでだ?」倉田の顔色が変わる。


「だって良平が御子と一緒になれば真柴の次の組長だもの。数少ない心を開ける相手の良平に何かあれば、千里眼の御子にとっては大打撃だし、真柴組長にとっても二人は我が子も同然よ。下手をすれば真柴組の屋台骨を揺るがしかねないわ」


「でも、真柴組って決して大きなところじゃないし」と、香が言いかけたが


「大きくはないけれど、安定したいいシマを持ってるからね。最近やっかみ半分で、目の上のたんこぶみたいに言う連中が、うちの中にいるみたいなの。ひょっとしたらこの間の合併で、幹部に成りそこなって不満を持った輩が、本気で真柴を乗っ取って、こてつ組に反旗を翻すつもりかもしれないわ」


「おい、それが本当なら、そういう輩は利用されやすいぞ。こてつ組に反会長派はいないか? もし、そんな奴等がいれば簡単に煽られて、多少の無茶はやりかねん」倉田が礼似に聞いた。


「解らないわ。こてつ組は組織が大きすぎて、いろんな噂が流れては消えていくから、本当のところはなかなかわからないのよ。でもこれで倉田さん自身よりも、倉田さんの作る義足と、良平が狙いなのは解った。早く二人に連絡した方がいいわ」礼似は携帯で御子にダイヤルした。


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