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御子と良平はこてつ会長と向き合っていた。表向きは来週に迫った結婚式の招待と報告。と言う事になっていたが、今、二人は会長にごく個人的な頼みをしているところだった。これが受け入れられなければ、二人は式をあきらめるつもりでいた。
「最初に狙われたのが十日前か」
「そのようです。これでもう五度目です。うちの組員だけで守りきれるかどうか。この方が出席して下さらなければ、私達は式を挙げる意味がありません。何とかして今の状況を解決したいんです。お願いです。ご協力いただけませんでしょうか?」
良平の訴えに続いて、御子も頭を下げる。こてつ会長はうなずいた。
「たしかに今となっては我々も、彼に頼る機会は少なくなった。しかし彼はこの世界での功労者とも言ってよい人物だ。解った、協力しよう。何故、今更彼が狙われるのかは解らないが、さっそく調べた方がよさそうだ。この件は華風組の方が詳しいだろうから土間に調べてもらうが、護衛は……難しいのであろうな」
「ええ、土間は刀に近付きたがりませんから」御子が答えた。
「ではそっちは礼似にやってもらうか。周辺にも組員達を置いておこう」
「お気遣い、ありがとうございます」良平がまた、頭を下げる。
「いや、この件はこてつ組からの彼へのお礼だよ。今のような時代になる前は本当にお世話になったもんだ。ここで義理を欠く訳にはいかない。真柴は今、式の準備で忙しいだろう? お前達の身の安全の事もある。こういう時、この世界では油断できないものだ。二人とも落ち着いて準備を進めた方がいい。土間と礼似には私から伝えよう。この件は安心して任せなさい」
会長の言葉に二人はホッとして礼を述べた。幾度も頭を下げながら部屋を出る。さらに建物から出ると、御子が口を開いた。
「私達が自分で調べられればいいのに」
「それはやめた方がいい。下手をすればかえって迷惑がかかるかもしれない。会長も言っていただろう?この世界では冠婚葬祭の時が一番危ないんだ。華風組はそれで何度も痛い目に会っているし、会長さえも奥様をそういう席に連れてこない。もちろん隠しているからだろうが、可能な限りこっちの世界との接触を絶っているじゃないか」
「でも、うちみたいな小さな組なら……」
「小さくてもうちもこてつ組の傘下だ。こういう組織では小さくて弱そうな所から切り崩すのが兵法の初歩だよ。俺達の事で会長に迷惑がかかったら、申し開きの仕様がない。ここは会長に甘えた方が得策なんだ」
「小さいけれど弱くはないわよ」御子が不平をもらす。
「解ってるさ。だけどそれはよそからどう見えるかの問題だ。もう、お前だって正式に真柴組の養女になったんだ。自分の身の安全には責任を持たないと」
「私は大丈夫よ。五体満足の上、千里眼まで付いてるんだから。良平の方こそ心配だわ。義足を預けてしまってるんだから」
確かに今、良平は義足を付けていない。御子の肩を借りて歩いていた。
「だから会長にお願いしたのさ。俺は自分の花嫁を守るのに手いっぱいになりそうなんでね」良平が少しおどけて笑う。
御子の方も照れ笑いをしながら
「そう? じゃ、しっかり守っていただきましょうか」
そう言って良平を助けながら、待たせていた車に乗り込んだ。