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古本白昼夢

作者: 雪猫
掲載日:2026/11/03

古本屋で迷子になった。


少年は、面白そうな本を手に取り、

少し読んでると、

別の面白そうな本が向こうに見つかった。

持っている本を元に戻して、

別の本へ。


そうやって、奥へ奥へと進んで行った。

少し不思議に感じていた。


外観も内観も、昔からある小さな古本屋に見えた。

それなのに、幾つも角を曲がり、

本棚と本棚の間の狭い道を、どんなに進んでも、

さらに奥があり、本棚が続いていく。


気付いたら、来た道が分からなくなっていた。

本を元に戻して、引き返す。

光が多い方へ向かって行った。



突然、

広い草原に出た。

少年は唖然とした。

しかも、よく見ると普通の草原ではなかった。


地面に、無数の文字が細かく蠢いていた。

漢字、ひらがな、カタカナ、

象形文字、英語、他、様々な文字が、

その大地の細胞であるかのように

脈動していた。


植物は本の頁で出来ていた。

タンポポやペンペン草、クローバーの形で、

風に揺れていた。


微細な文字の集合で出来た複眼で

トンボが空中を飛んでいた。

透き通った薄紙の羽が輝いていた。



あまりに大きくて逆に、

最初は気付かなかった。


大きな岩のような、小さな山のような、

巨大な存在が草原の真ん中に、いた。


体が無数の本で出来ていた。

数え切れない程の本。

古本や古書が多い。

動く度に、数冊落ちてきた。


少し動く度に地面が揺れた。

まるで開いた本の大地に立っているようだった。


頭上を、大きな影が覆った。

見上げると、

巨大な存在が少年を見下ろしていた。

無数の本で出来た顔と、目が合った。


大きな苦悩と深い慈愛に満ちた眼差しを見た。


本の顔が、哀しそうに、優しそうに、微笑みを浮かべ、

大きな手が少年へ伸びてくる。

少年の体の3倍は大きい人差し指の先が、

目の前で止まる。


少年は、

見たこともない難しそうな本の数々で出来た指に、

そっと触れた。


指の先から

小さな種が

少年の手の中に落ちた。


種は、光を放ちながら動き出し、

小さな、紙と文字の芽を出した。

さらに大きくなり、

一枚の文字の書かれた紙が生えた。

見ていると、次々と枚数を増やしていき、

最後に外殻のような表紙と裏表紙で覆われた。

一冊の本になった。


めくる全ての頁が光っていた。

少年の目が輝いた。


少年には、それが、

自分が本当に求めていた本だと分かった。



次の瞬間、

風の轟音と共に、

巨大な存在が崩れた。


無数の一冊一冊の本となって、

舞い散った。


無数の本は、

少年の体の周りを風と共に舞った後、

大地や植物を連れて、

遠くの空へ、消えて行った。



目が覚めると、少年は本棚と本棚の間の道で、

横になっていた。


光の多い方へ向かった。


人々のざわめきが聞こえ、

古本屋の入口近くへ辿り着いた。


後ろを振り返ると、

古くからそうであったかのように、

壁になっていた。


手にした本を、

会計に持って行くと、

老人は難しい顔で本を眺め、

自分の店の本ではない、

と言った。

本の最後の頁を開いて、少年に尋ねた。


「お前の名前か?」


驚いたことに、そこには、

少年の名前が書かれていた。


老人は

少年に本を渡した。


「じゃあ、お前の本だ」


老人は笑みを見せた。

まるで、祝福しているかのような

不思議な、優しい笑みだった。


少年は輝く瞳で本を見つめ、

自分の本として、手に取った。

胸が高鳴った。


本を手に、

少年は古本屋を後にした。



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