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二つの視線の正体

 衣織と紗奈の会話を少しの間見ていると、指先に少しの怒りを込めたような強さで二回ツンツンと背中を押される。


 その感触と共に自分の体ごと振り向くと目線の合った真白結衣が、元々色白の頬を健康的な色に染めて少し気恥ずかしそうに小さい声を出す。


「お、おはよ。真田くん。その…妹さんとっても可愛いね。また本貸すから感想聞かせてね。妹さんは本とか読むかな?」


 この子は真白結衣。銀髪の美少女で、髪や顔も母親譲りらしく整っており、遠くから見ても結衣なのが一目でわかる。ただ結衣は男子からは声を掛けられることは少ない、皆結衣を見て照れてしまうからだ。

 確かに。俺も初めて結衣に声をかける時は、少し挙動不審気味になった気がする。

 ちなみに華奢な割にはなかなかのボディを誇っている


 あの時はこうだったかな。


「や、やぁ、真白さん。そそそ、その本を読むんですね、ぼぼくも好きでし、その本」

「え?え?そうなの?真田くん。私まだ色々読むんだけど、良かったら色んなの貸すよ?」


 うわぁ…思い出したら恥ずかしい。結衣と話すキッカケをくれたルル大先生の著書「家族」に感謝を。


「おはよう結衣。だろ、自慢の(むすめ)だ。なんせ会うのが久々だからよく分からんが、本とか読むかな。話しかけてみたらどうだ?」


 こくりとうなづく結衣。


「う、うん。わかった。勇気を出して話しかけてみる。」


 まだ俺を挟み会話中のところに、閉じた本を片手に少し大きめの声で衣織に声をかける。


「あ、あの!おはようございます。真田さん。私の名前は真白結衣って言います。これからもよろしくお願いします。私は本が好きで、お兄さんと一緒に本を読んだりしてますが、真田さんは本を読みますか?」


 お宝を発見したような驚いた顔で、声を掛けられた方に顔を向ける衣織


「え!なにこの子…めっちゃ可愛い!結衣ちゃんっていうのね。よろしくね!私の事は衣織でいいよ。本はね〜。最初は全然興味無かったんだけど、家族の人の影響で今は好きだよ。」


 最後の一言と共にちらりとこちらを一瞥する衣織。

 そうか。俺の影響で衣織は本を好きになったのか。

 確かに自室には置いてあるしな、漫画の割合の方が高いが


「か、可愛いなんて…そんな事…。そうなのですか、本読むんですね。お揃いです。わかりました衣織さんと呼ばせてもらいます。」

「うん!結衣ちゃん私とおそろだよ。やったね。これからよろしくね結衣ちゃん。敬語もいらないよ!」

「うん、よろしくね衣織ちゃん。」


 ニコッと笑う結衣とグッと親指を立てサインをする衣織。そんな美少女二人に心が安らぐ。


「あ、ねえねえ結衣ちゃん。お兄ちゃんとどうやって仲良くなったか聞かせてくれる?」


 とニヤニヤした顔で結衣に聞いている。絶対変な事を言うなよ結衣。娘の衣織は結衣と仲良くなった経緯を聞いたら馬鹿にしてくるに決まっている。


「うーんとね、衣織ちゃん。最初はちょっと挙動不審気味だったかな?多分緊張してたんだと思うんだけど、『家族』って本を私が読んでいたら、勇気を出して話しかけて来てくれたんだ。あと…ちょっとカッコよかったよ…」


 頬を赤らめ放った最後の一言は消え入るような声だった為、クラスの喧騒にかき消された。


「ふぅーん…お兄ちゃん(パパ)結衣ちゃんに声をかける時そんな風だったんだ。ふぅーん。緊張して、挙動不審で。それで、『家族』って本で仲良くなったんだ。ふぅーん。その時から意識してたんだ家族ってやつ」


 ニヤり顔をしてチラチラとこちらを見てくる衣織。最後の意味ありげな一言は俺の耳にだけ届いた。


 ただ結衣め、やってくれたな。恥ずかしい過去を掘り返しやがって。


「そうなの。でもね私も友達が全然いなくて寂しそうな私に話しかけてくれた真田くんには感謝してるんだ。」

「じゃあ私とも友達になろうよ結衣ちゃん!」

「え、いいの衣織ちゃん。ありがとう。凄く嬉しい。」

「もちろんだよ!可愛い友達ゲットだぜ。」


 某アニメに出て来そうな口調でドヤ顔をする衣織だった。


 そんな二人のやり取りを見て風紀委員長の夏目織一が結衣の横から声をかける。


「やあ真田。おはよう。はぁ…可愛い子と朝から手を繋いで登校なんて不埒な奴め。可愛い子ばっか近くに侍らせているともっと厳しくするぞ。」


 こちらにやや蔑んだ目線を飛ばしながらそんな軽口を叩く織一。


「おはよう〜って。ち、ちげえよ!これは俺の(むすめ)だ。変な勘違いするなよ織一。」


 この子は風紀委員長の夏目織一。黒髪のポニーテイルでいつも綺麗に纏めている。ただそのうなじが犯罪的ではあるが。

 やや固い口調だが紗奈や結衣と似て、とても美形であり、雰囲気は風紀委員長らしく凛然としている。


 普段の身だしなみ等が悪いとよく声を掛けてきて、俺を風紀委員に推薦をしてきやがった。俺の着こなしは悪くねえぞ。いつも朝の準備をテキトーにやってるからって怒りやがって。でもネクタイとか直してくれるの普通にありがたいから悪いやつではない。


「フン…そんな事を言いながら真田の近くには凄く可愛い幼馴染の岡田や真白、真田妹がいるじゃないか。信用ならん。女の敵だ。」


 いやいや十分織一も紗奈や真白、衣織に似て美少女ではあるんだが、自覚はあるんだろうか?


「おいおい、勘弁してくれよ。これ以上増やすつもりは一切ないんだから。美少女達は織一達で十分だよ。」

「フ、フン…まぁいいそれを信じてやる。絶対これ以上増やすんじゃないぞ…大変なんだからなこっちは」


 プイッと顔を逸らす織一。その頬は真白に似て少し赤く染めていた。


 それからそのやり取りを見ていた衣織が織一に声をかける。


「おはよー!織一ちゃんお兄ちゃん(パパ)がいつもお世話になっとります。これからもお兄ちゃん(パパ)をよろしくね。変な女がつかないように見張ってくれると助かる!あ、あと衣織って呼んでくれると嬉しい!」


 ははーと織一に向かって昔の人のような身振り手振りをする衣織、綺麗な黒髪も相まって、とても様になっている。


「ああおはよう。わかった。兄妹共によろしくする。じゃあお言葉に甘えて衣織と呼ばせてもらう。真田の近くには変な女がつかないように、常に見張らせてもらう」


 こ、こいつら…なんて事を。俺の強靭な精神に攻撃をしかけてきやがる。そしていつものジワァ…

 決して漏らしたわけではない。


 そして二人の固い握手が意味するのはきっと、多分、おそらく。俺のプライベートが無くなる条約。それを娘の衣織と織一が結んでいるに違いない。

 こんな学校生活を送るのは、きっと全世界見渡しても俺だけだろうと心の決壊の音を聞きながら空を仰いだ。

 なんだよ、ただの綺麗な天井じゃねえか。青空見せろよ。と一人愚痴る。


 授業が始まる前に衣織の近くに集って来たクラスの皆んなとの挨拶を衣織は軽く済ませたのち、授業が始まる。


 しばらくして、終始退屈そうな顔をしながら授業を受けている衣織に周りには聞こえない小声で話しかける。


「なぁ、衣織朝言った事なんだが、どうだったんだ?」

「いたよ。私のママ。学生時代あんな風だったんだ。滅茶苦茶可愛いし、私が結婚したいくらいだって!私は朝からママと仲良く出来ちゃって超幸せだったよ〜…ただお兄ちゃん(パパ)生粋の女たらしだね。」


 幸せそうにしている顔が一変してジトっとした目でこちらを見て来た。


「う、うるせ。ただいたのか…未来の嫁が…この三人の中に。。」


 衣織は確信があって言っている。それは間違いない。それを聞いた直後、いつもより心臓の鼓動が激しくなり、音が漏れ出ていないか心配になる。

 心なしか顔が凄く熱くなったような気がする。

 顔赤くなってないよな、大丈夫かなと頬をしきりに触る。駄目だ。気のせいじゃなく熱くなっている。

 それは決して皆が嫌がるような恥ずかしい物ではなく、俺にとって今はとても心地が良い物だった。


 いたんだ未来の大事な俺の家族がここに


「なぁ…衣織、ヒントを教えてくれよ。未来(さき)からのでも現在(いま)からのでもいいから。」

「ママがここにいるってだけでもヒントなのに。まあいいや、んじゃ、現在のやつね。ずーっとお兄ちゃん(パパ)の事を考えてる。恋する可愛い子って感じかな。しかも未来でもおんなじ。どう?天才的なヒントじゃない?」

「ナイスヒントだ。衣織、ちょっと三人見てみるわ。」


 ニシシとそんな笑い顔をして衣織は言ってきた。


 その言葉を聞き、紗奈と結衣と織一の方を見に行く。


 最初に見たのはもちろん幼馴染の紗奈からだ。

 頬杖を左肘で突きながら、少し退屈そうに授業を受けている。

 ただその姿は物憂げに何かを考える令嬢の様に見える。その横顔はとても綺麗で思わず見惚れてしまう。


「な、何よ。じっと見て。この授業で真司が分からないとこなんて無いでしょ。万年十位以内にいるんだから。それとも私の顔でも見て見惚れてたの?そ、そんなに見られちゃうと恥ずかしいんだけど…私も真司の事見てたから余計に…」


 図星だ。ただ思わず見惚れて紗奈の顔をずっと見ていたなんて言えるはずも無い。こんな可愛い顔して時折すごい推察力を発揮してくる。探偵か?


 紗奈が前を向いて呟いた一言は俺の耳には入らなかった


「あ、あぁ…そうだな分からないとこは今は無いかも。い、いつも紗奈の顔見てるからさそんな事は無いぞ多分。」


 確かに、俺は定期テスト毎に大体十位以内に入っている。紗奈も同じく十位以内だ。


「ふぅーん…真司だけなんだからね。私の顔を一番最初に見れるの。毎朝、一緒に登校してるし。私以外そんな風にジッと見つめたりしたらダメなんだから。」

「あぁ…確かに。そうだな紗奈と会うの俺が一番最初だからな。そんな幼馴染に感謝だな。それについては善処するよ。」


 そんな言葉を聞いた紗奈は、フンっと顔を赤くして前に向き直し、授業の方に戻る。


 ここからはやや、怒られるリスクが高いが、先生が前を見て板書している隙を見て結衣の方に顔を向ける。


「な、なぁ結衣ちょっと、この前貸してくれた本についてなんだが、他のやつでオススメないか?」


 とかなんとか言って結衣の顔を少しの間だけ見つめる


「え、えっとね真田くん、ルル先生が書いている本なんだけど…ってどうしたの?もしかして何か顔についてる?」


 綺麗な銀髪が窓の隙間から入る日差しに照らされて思わずドキっとした。

 そのほんのりと赤い顔を結衣の白い手が覆う


「い、いやそんな事は無いぞ。ただなんか綺麗だったからつい…」

「き、綺麗だなんて…変な事言わないでよ。もぉ…」

「ご、ごめん。また後で」


 ちょっと気まずい雰囲気になる前に前を向いて良かった。先生もまだ全然気づいてなさそうだし、また板書を始めたら今度は織一の方を見てみるか。


「なぁ…織一、委員会の事なんだが、生徒会の奴らから何か任された仕事とかあるか?」


 委員会の事について聞く感じだから不自然ではない。そのまま少し顔を見つめてみる。


「な、何だ。藪から棒に。今はまだ聞いてはいないが、放課後に用事があるから聞いてみるぞ。それとその邪な視線は何のつもりだ。まさかとは思うがわ、私のことを襲う気か」


 ポニーテイルで纏められている綺麗な黒髪が織一の挙動に合わせて揺れ動く。そして最後の一言と共に、頬を赤らめてその大きな胸を覆い隠すように腕を動かす。


「そ、そうかわかった。じゃあ頼んだぞ織一。ちげえよ、そんな視線で見てねえよ。ただすげえ授業姿が似合ってたからさ。つい、な。」

「そ、それなら良いが、風紀を乱すような事はするなよ真田。」


 ふと机を見やると、織一は意外とその辺の女の子が好きそうな私物が多い気がする。本当は女の子みたいな雰囲気になりたいんじゃないのかな。なんて


「しねえよ。今なんてとてもじゃないが出来ないだろ。」

「あ、おい。真田、先生が…」やべ、バレた。


「はぁ。真田くん、しっかり真面目に授業を受けてくださいね。そんなに授業より大切な事がありましたか?」


 バッと席を立ち綺麗な礼の姿勢で、一言謝罪。

 奇しくも先ほどの衣織と同じ姿勢だった


「い、いえそんな事はありません。すみませんでした。」


 クスッと結衣と織一と衣織が笑うのと同時に、ヒンヤリと冷たい視線を何故か紗奈の方から感じていた。


「バカ…さっき見つめちゃダメって言ったのに。何で私の方だけ見てくれないの…バカ」


 ノートを俯きながら書きつつ何かを呟く紗奈

 そんな紗奈を見て着席する。すると横から衣織から


お兄ちゃん(パパ)のバーカ。皆んなの事困らせて。どう?わかった?」

「いや、全然駄目だ。わからん」


 先生に怒られて娘からも怒られるし、しかも三人の方を見たら大体同じ感じだし。全然わかんねえよ。


 本当にずっと俺の事を考えてくれている子なんているのかよ。そんな事を考えながら授業を受けているともう終わりの時間だ。

 さて、次の授業は何だったかな。ふと時間割の方に視線を向けて見ると体育の授業か。



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