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第十一話 惑星ミッシェル冒険記②

****


「なんか……様子(ようす)(へん)だ」


 イアル(やま)のふもとで、タカヤは(あし)()めました。


 この(あた)りはオンガイルゴンの住処(すみか)(おお)(あつ)まっている場所(ばしょ)であり、本来(ほんらい)であればたくさんのオンガイルゴンたちがウヨウヨしているはずです。


 しかし周囲(しゅうい)(しず)まりかえり、(つよ)(かぜ)(すな)()でる(おと)()こえるだけです。


 一番(いちばん)(ちか)くにあったオンガイルゴンの住処(すみか)……(いま)(なん)気配(けはい)()洞窟(どうくつ)(はい)ってみて、タカヤは()見張(みは)りました。


 (なか)には人工(じんこう)(てき)無数(むすう)(あな)()られていて、どうやら何者(なにもの)かに()らされた様子(ようす)です。


(どういうことだろう、(ほか)住処(すみか)確認(かくにん)しないと)


 タカヤは()(まわ)って住処(すみか)だったものをいくつも確認(かくにん)しますが、どれも(おな)じようにひどく()らされ(あな)だらけになっていました。


 調(しら)べていくうちに、タカヤはあることに()がつきます。


(……この(あな)、もしかしてアズール(せき)()(かえ)されてる? ()べるものが()くなったから、オンガイルゴンたちは()れていつもと(ちが)場所(ばしょ)(ほか)()(もの)(さが)しに()ってるのかもしれない。ええと、オンガイルゴンが(つぎ)目指(めざ)可能性(かのうせい)(たか)()(もの)は……)


 全身(ぜんしん)悪寒(おかん)(はし)ると同時(どうじ)に、タカヤはコスモピースの(ちから)をより(つよ)めて(からだ)(じゅう)(まぶ)しく(かがや)かせながら()()しました。


(ショースケたちが(あぶ)ない!)



****



「よし、これだけ()ったら十分(じゅうぶん)かな!」


 エメラルド(いろ)(ひか)るコール(せき)を、両手(りょうて)()ちきれないほどエッグロケットの(なか)にしまってショースケはご満悦(まんえつ)です。


「そうね、そろそろ(もど)りましょう……か……」


 スイは(とお)くにいる(なに)かに()がついて、ピタリと(うご)きを()めました。


「どうしたのスイさん、(なに)かあった……」


 ショースケも(おな)方向(ほうこう)()(くち)()けたまま(かた)まります。


 ……(なに)やら(おお)きな生物(せいぶつ)が、コール(せき)をまるでビスケットのように(かる)くバリバリと()べています。


 ()いピンク(いろ)でブツブツといぼのある皮膚(ひふ)、ショースケの(うで)より(なが)そうな(くろ)くて(するど)(つめ)、どんな(もの)でもすり(つぶ)してしまえそうな(おお)きな(あご)…そしてこちらに()がついてギロリと(にら)んだ(ほそ)いその(ひとみ)


 図鑑(ずかん)()姿(すがた)間違(まちが)いありません、オンガイルゴンです!


()げるわよ!」


 スイはショースケの(うで)(つか)みスカイボードの(もと)(はし)ると、恐怖(きょうふ)(かた)まっているショースケを(うし)ろに()せます。


運転(うんてん)方法(ほうほう)は……(わたし)たちのと(おな)じね!」


 (みぎ)のハンドルをギュルリとひねって、スカイボードは限界(げんかい)速度(そくど)地面(じめん)(すべ)(はじ)めました。


「どどど、どういうこと!? オンガイルゴンはここにはいないんじゃなかったの⁉」


 ショースケがちらりと(うし)ろを()(かえ)ると、(おお)きな(からだ)のオンガイルゴンがこれまた(おお)きな(くち)(ひら)いて、(おそ)ろしい(はや)さで二人(ふたり)()いかけて()ているのが()えます。


(わたし)だってわかんないわよ! このままじゃ()いつかれるわ……ショースケ、(なん)とか(あし)()めできないかしら!」


「ええっと!」


 ()()とされないように左手(ひだりて)でスイの腰元(こしもと)をぎゅっと(にぎ)ったまま、ショースケは片手(かたて)でエッグロケットの(なか)(さぐ)ります。


「よーし、これだ!」


 かなり(ちか)くまで(せま)っているオンガイルゴンの()(さお)(くち)(なか)に、ショースケは茶色(ちゃいろ)くて(まる)(たま)()()れました。


 オンガイルゴンはそれを(おお)きな(あご)でぐちゃりと()(つぶ)()()みます。


「やった! それはクシュウニだよ、これであまりの(にお)いに(うご)けなくなるはず……なのになんでぇぇぇ!」


 一切(いっさい)スピードを(ゆる)めること()く、オンガイルゴンはさらに(ちか)くに(せま)ってきました。


「あんたクシュウニ使(つか)ったの⁉ オンガイルゴンは嗅覚(きゅうかく)がかなり鈍感(どんかん)なんだから()かないわよ!」


 オンガイルゴンが(ふたた)(くち)(おお)きく(ひら)くと、強烈(きょうれつ)なクシュウニの(のこ)()がショースケとスイを(おそ)います。


「うぇ……あんたなんてことしてくれんのよ……」


 スイの運転(うんてん)するスカイボードが(すこ)しふらつきます。


「ご、ごめん……ってうわ()いつかれる! ええいなんとかなれ!」


 ショースケはエッグロケットのダイヤルを片手(かたて)()わせて、(うし)ろを()()いて(かま)えます。


「くらえ! 捕獲(ほかく)ネット!」


 人差(ひとさ)(ゆび)でスイッチを(にぎ)ると、(おお)きな(あみ)がエッグロケットの(さき)から()()してオンガイルゴンの(からだ)(おお)いました。


「やった、()たった! どうだ、そのネットの材料(ざいりょう)(いと)はオンガイルゴンでも千切(ちぎ)れないってキャッチコピーで()られてたんだから!」


「そんなのあるなら最初(さいしょ)から使(つか)いなさいよ!」


「だ、だって(おも)いつかなかったんだもん!」


 オンガイルゴンは(あみ)(あし)(から)まってモタモタと(あば)れており、二人(ふたり)()ったスカイボードからどんどん()(はな)されていきます。


「やった! これでもう大丈夫(だいじょうぶ)でしょ」


 ショースケが安心(あんしん)したのもつかの()


「ォオオオオオオォオオオオオン!!!!」


 オンガイルゴンがもがきながら、(そら)をつんざくような(こえ)()げました。


「まずい! 仲間(なかま)()んでるわ!」


「えええ⁉ もう捕獲(ほかく)ネット()いよ!」


 地面(じめん)()れて、四方(しほう)八方(はっぽう)から足音(あしおと)(ちか)づいて()ます。


(まえ)からも()る! (かく)れるわよ!」


 スイはスカイボードを岩陰(いわかげ)()めて、右手(みぎて)人差(ひとさ)(ゆび)につけたポスエッグから()(しろ)(ぬの)()()()しました。


「ショースケ、スカイボードしまって、(はや)く!」


 (あわ)ててエッグロケットの(なか)にスカイボードをしまったショースケの(からだ)をぐいっと()()せて、スイは自分(じぶん)たちの(うえ)から(しろ)(ぬの)をかけました。


「これって、透明(とうめい)シーツ……? かぶったら相手(あいて)から()えなくなる……」


 ショースケが(ちい)さな(こえ)(たず)ねると、スイはショースケの(くち)右手(みぎて)(ふさ)ぎます。


(しず)かに。オンガイルゴンは(みみ)がいいんだから」


 足音(あしおと)がドカドカと(ちか)づいてきます。


 一体(いったい)何匹(なんびき)(あつ)まっているのでしょうか……(じゅっ)、いや二十(にじゅう)……とにかくたくさんいることは(おと)だけでわかります。


 もし()つかれば()()()いでしょう。


 ポケットに()(すべ)らせる(ぬの)(おと)すら()こえてしまいそうで、ショースケはエッグロケットを(にぎ)ってタカヤにテレパシーを(おく)ることすらできません。


 スイはカタカタ(ふる)えるショースケの(からだ)をぎゅっと()きしめました。




 ……そのまま()(ふん)ほど、二人(ふたり)はシーツの(なか)()()()っていました。


 オンガイルゴンたちはなかなかにしぶとく、透明(とうめい)になっている二人(ふたり)のすぐそばをまた(おお)きな足音(あしおと)がドカドカと(とお)()ぎていきました。


一体(いったい)いつまでこうしてればいいんだろう……)


(もうちょっとだから。我慢(がまん)しなさい)


 ショースケとスイはお(たが)()だけで()いたいことはなんとなくわかります。


 すると、(すこ)(はな)れた場所(ばしょ)にいるであろうオンガイルゴンが(おお)きな()(ごえ)()しました。


 足音(あしおと)(すこ)しずつ、二人(ふたり)から(はな)れていきます。


(しめた、あいつら(あきら)めたわね)


 もう(すこ)我慢(がまん)すれば、安全(あんぜん)にここから()げられるでしょう。


 二人(ふたり)(すこ)しだけホッとした、その(とき)



 スイのポスエッグが、ポーポーと()いたことの()(おと)()てました。


 この(おと)は……


「ティナ…?」


 緊急(きんきゅう)事態(じたい)、コンビが(たす)けを(もと)めているときの(おと)です。


 その(おと)(みみ)にしたオンガイルゴンの集団(しゅうだん)は、一同(いちどう)二人(ふたり)(かく)れたシーツのある位置(いち)()(かえ)りました。


 一匹(いっぴき)空気(くうき)(ふる)わせて(おお)きく()えます。


()つかった……! ごめんショースケ、ここは責任(せきにん)()るから()げなさい!」


 スイがシーツの(なか)から()()して右手(みぎて)人差(ひとさ)(ゆび)につけたポスエッグに()れると、ポスエッグは水色(みずいろ)(ゆみ)へと(かたち)()えます。


「スイさんはどうするのさ!」


(わたし)はここで(あし)()めする、あんたはティナのところへ()って!」


無理(むり)だよやられちゃうよ!」


 スイは指先(ゆびさき)から鎮静剤(ちんせいざい)()られた(ひか)()(なん)(ぼん)()()して、オンガイルゴンに()けて(はな)ちます。


 ですが相手(あいて)(ちょう)強力(きょうりょく)なモンスター、少量(しょうりょう)鎮静剤(ちんせいざい)では大人(おとな)しくなってくれません。


(なに)ぐずぐずしてるの(はや)く‼」


「やだ‼」


 ショースケはダイヤルを()わせたエッグロケットを、オンガイルゴンの大群(たいぐん)()けて(かま)えます。


「スイさんだけ()いていくなんて絶対(ぜったい)やだ! (ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だもん、もう……(だれ)かを()いて()げたりしない!」


 エッグロケットの(さき)に、エネルギーが(ひかり)()びて(あつ)まっていきます。


 そしてその(かがや)きが最高潮(さいこうちょう)(たっ)した(とき)


「くらえっ!」


 スイッチを(にぎ)ると(おお)きなエネルギーの(かたまり)がすごいスピードで射出(しゃしゅつ)され、オンガイルゴンたちの(まえ)(はげ)しく(はじ)けました。


 あまりの衝撃(しょうげき)に、反動(はんどう)でショースケは(しり)もちをつきます。


大丈夫(だいじょうぶ)⁉ ショースケ」


「えへへへ…すごいでしょ。(まえ)(ほか)隊員(たいいん)さんが使(つか)ってるのを()(ぼく)()ってたんだよね、エネルギー(だん)……」


 スイの()()りてショースケは()()がり(まえ)()ました。


「ただ……残念(ざんねん)だけどあんまり()かなかったみたいだね……。(いま)(ぼく)出来(でき)る、精一杯(せいいっぱい)だったんだけどなぁ…」


 ショースケの攻撃(こうげき)にオンガイルゴンたちはひるみ、()(びょう)ほど()()まったあと…すぐにもう一度(いちど)その(ほそ)()(ひら)いてさっきまでより一段(いちだん)(するど)二人(ふたり)(にら)みました。


 (ふか)(いき)()いた(あと)、ショースケは(てん)(あお)いで(くち)(ひら)きます。


「……ねぇスイさん、(ぼく)かっこよかった?」


「そうね…もう『さん』()けしなくていいわよ」


 スイがショースケに(やさ)しく(わら)いかけました。


 (おお)きな(つめ)(はじ)かれた地面(じめん)小石(こいし)(おと)()こえるほど、オンガイルゴンがもうすぐそこまで(せま)ったその(とき)



 (そら)から(なに)かが()ってきて、二人(ふたり)()(まえ)にぽとりと()ちました。


 途端(とたん)にオンガイルゴンたちはその()でごろりと(よこ)になって、まるで(ねこ)のように(からだ)をくねくねと(こす)(はじ)めます。


「え、え、どうしたんだろう……これのせいかな?」


 ショースケは(おそ)(おそ)()(まえ)のものを(ひろ)()げました。


 緑色(みどりいろ)のリボンが()いた(しろ)()(ぶくろ)は、どう(かんが)えても自然(しぜん)()ってきたものでは()いでしょう。


 二人(ふたり)(そら)見上(みあ)げますが、(あや)しいものは(なに)見当(みあ)たりません。


「なんだかよくわからないけど……(わたし)たち(たす)かったみたいね……。は! そうよティナ!」


 一息(ひといき)つく()()く、スイは(あせ)りながらティナにテレパシーを(おく)りますが返事(へんじ)はありません。


「そうだったティナさん! とにかくここから(はな)れてタカヤと連絡(れんらく)()ってみなきゃ! ()ってスイ!」


 ()ちてきた()(ぶくろ)をポケットに()()んだショースケが(いそ)いでスカイボードを()()すと、二人(ふたり)はそれに()()って限界(げんかい)速度(そくど)でティナの(もと)()かうのでした。



****



「ギリギリ()()って()かった……!」


 ショースケとスイが(はし)()った(あと)地面(じめん)()()って、タカヤはかぶっていた透明(とうめい)シーツを()ぎます。


 すると周囲(しゅうい)にいたオンガイルゴンたちは()(ぶくろ)効果(こうか)()れたのか、()()めたように()()がりタカヤの(ほう)をギロリと(にら)みました。


「……こんにちは、オンガイルゴンさんたち。(すこ)大人(おとな)しくしててもらえませんか」


 (さき)ほど二人(ふたり)仕留(しと)められなかった苛立(いらだ)ちも(つの)っているのでしょう、言葉(ことば)(つう)じるわけも()くオンガイルゴンの大群(たいぐん)(おお)きな()(ごえ)()げて地面(じめん)(ふる)わせます。


「……もう一回(いっかい)()いますね」


 タカヤが()(おお)きく見開(みひら)くと、周囲(しゅうい)空気(くうき)共鳴(きょうめい)するようにギラギラと(かがや)(はじ)めます。


 (ひとみ)(なか)(あか)(あお)星々(ほしぼし)(なが)れて()えてまた(かがや)きながら、(からだ)(まわ)りに発生(はっせい)した(つよ)上昇(じょうしょう)気流(きりゅう)がタカヤの(かみ)(ふく)(おお)きく()らしました。


大人(おとな)しくしててください」


 確実(かくじつ)自分(じぶん)たちより(つよ)()(もの)(まえ)にしてオンガイルゴンたちはたじろぎ、その()から一歩(いっぽ)(うご)けません。


「……ありがとうございます」


 タカヤが(ひとみ)(ふか)(くろ)(ゆが)ませてにっこりと(わら)ったのと同時(どうじ)に、タカヤのエッグロケットがブルブルと振動(しんどう)しました。


 ポケットから()()して(ひだり)()(にぎ)ると、ショースケからのテレパシーが(とど)きます。


(タカヤ⁉ よかったタカヤは無事(ぶじ)なんだね! ねぇティナさんはどうしたの⁉)


(ティナさん……? いや、ちょっと(はな)れたところで作業(さぎょう)してたから。(なに)かあったのか?)


(どうしたもこうしたも、ティナさんが(たす)けを(もと)めてるんだよ! あ、(ぼく)らもすぐ()くから(あぶ)ないからタカヤも一緒(いっしょ)に)


 ここまで()いて、タカヤはすぐにポケットにエッグロケットをしまって()(はな)しました。


 ……(いや)予感(よかん)がします。


 コスモピースの(ちから)をより(つよ)めて、タカヤはショースケたちよりも(はや)くティナと(わか)れた場所(ばしょ)()かうのでした。



****



 タカヤはティナと(わか)れた、ヤワクの()()れる花畑(はなばたけ)到着(とうちゃく)しました。


 まだショースケたちは到着(とうちゃく)していないようです。


 ()(しろ)花畑(はなばたけ)()()って、タカヤはすぐに異変(いへん)()がつきました。


 (なに)(びゃく)とある(しろ)(はな)中心(ちゅうしん)(みの)っていたヤワクの()が、すべてもぎ()られているのです。


(ティナさんがこんなに()るはず()い……)


 その(とき)



 (うし)ろでガサリと(おと)がしました。


 ……(まった)気配(けはい)がありませんでした、タカヤが(おどろ)いて()()くと…



「キ」


 ()(くろ)()むくじゃらの(さる)のような(からだ)ET(いーてぃー)が、(ろっ)(ぽん)(うで)をぶら()げてタカヤをじっと()ていました。


 ET(いーてぃー)(むね)には虹色(にじいろ)(たま)のようなものが()()まれていて、まるで心臓(しんぞう)のようにドクドクと(みゃく)()っています。


 …カメラのレンズのような、(あか)くて()()まれそうな(ひと)つしかない(ひとみ)()()って、タカヤは全身(ぜんしん)鳥肌(とりはだ)()つのを(かん)じました。


 ()()はヤバい。


 以前(いぜん)(とき)()()(いけ)()た、あの(くび)(なが)ET(いーてぃー)(おな)じ……いやそれ以上(いじょう)(なに)かです。


 ショースケたちが(はい)って()られないように、そしてET(いーてぃー)から(そと)様子(ようす)()えないように、タカヤは(いそ)いで頑丈(がんじょう)なシールドを周囲(しゅうい)()ります。


 ET(いーてぃー)はそれに(とく)(どう)じること()く、(ちか)くに(なん)(じゅっ)()(ころ)がっている(あか)いゼリービーンズのような(おお)きな(ふくろ)をまずは(ひと)(にぎ)りました。


 そして(しん)じられないほど(くち)(おお)きく(たて)(ひら)くと、その(ふくろ)順番(じゅんばん)丸呑(まるの)みしていきます。


 ET(いーてぃー)(のど)(おく)には(ちい)さなブラックホールのような(うず)()いており、(ふくろ)はどんどん(うず)(なか)()()まれているようです。


 (ふくろ)半透明(はんとうめい)中身(なかみ)はよく()えませんが……(いま)()()んだのはどうやら(いし)がたくさん(はい)った(ふくろ)で、()()っている(ふくろ)には…(くろ)くて(ちい)さい(なに)かがぎっしり(はい)っていて。


 そして(おく)(ころ)がっている(ふくろ)(なか)には……


「ティナさん‼」


 タカヤは背中(せなか)から無数(むすう)触手(しょくしゅ)()ばしてティナの(はい)った(ふくろ)(つか)むと、自分(じぶん)(ほう)()()せました。


 ET(いーてぃー)はそれに()がついて(こえ)(はっ)します。


「キ、キ、キ」


 一切(いっさい)感情(かんじょう)のこもっていない()をタカヤに()けて、ET(いーてぃー)(おお)きな(くち)(はし)()()げてグニャリと(わら)います。


 そして(ろっ)(ぽん)(うで)をぐるぐる(まわ)して、ぐっと(からだ)()らしたかと(おも)うと……


 (つぎ)瞬間(しゅんかん)ET(いーてぃー)はものすごい(はや)さでタカヤに(せま)(こぶし)()るってきました。


 タカヤはティナの(はい)った(ふくろ)()()げて、()まない(こぶし)(あめ)次々(つぎつぎ)()けていきます。


(どうする⁉ 強制(きょうせい)転送(てんそう)使(つか)うか……だめだ余裕(よゆう)()い!)


 何度(なんど)攻撃(こうげき)()けられて(たけ)(くる)ったET(いーてぃー)は、より(はや)く、そしてより(つよ)(こぶし)()るいながら、タカヤの(からだ)()()ぶほどの衝撃波(しょうげきは)(なん)(はつ)(ほう)ってきます。



 (そと)から(こえ)()こえてきました。


「ねぇ、スイこれなんだろう?」


「なにかしらね……ガラスのドームみたいだけど(なか)()えないわ」



(……()たなきゃ、ここで)


 タカヤは触手(しょくしゅ)使(つか)って周囲(しゅうい)()ったシールドに(ちい)さな隙間(すきま)()けて、ティナの(はい)った(ふくろ)(そと)へと()がしました。



 (あた)りを()(まわ)っていた二人(ふたり)はすぐに(あか)(ふくろ)発見(はっけん)します。


「ティナ⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)⁉ すぐ()してあげるから!」


(ねむ)ってるだけみたいだよ、よかった……」



 ……どうやらティナは無事(ぶじ)なようです。


 タカヤは安堵(あんど)して、そして両腕(りょううで)(そで)をぎゅっと(うえ)までまくりました。


 このET(いーてぃー)には生半可(なまはんか)(ちから)では()てないでしょう…(いま)までで一番(いちばん)、いやそれ以上(いじょう)(ちから)必要(ひつよう)になります。


 コスモピースの(ちから)()せる限界(げんかい)まで発動(はつどう)させると、タカヤの(からだ)()(ひら)けていられないほどの(まぶ)しい(ひかり)(つつ)みます。


 全身(ぜんしん)がひどく(いた)み、呼吸(こきゅう)(みだ)れて、(みみ)がキーンとして、()がチカチカと(かす)みます。


 体中(からだじゅう)自分(じぶん)のものではないように(くろ)()まって、さらに波打(なみう)つようにじわじわと変形(へんけい)していくのがわかります。


 ……この(くろ)くドロドロしたものは自分(じぶん)(うで)でしょうか? それとも(あし)、いや背中(せなか)から()した触手(しょくしゅ)でしょうか。


 もうそれすら、(いま)のタカヤには判断(はんだん)できません。


 途切(とぎ)れそうな意識(いしき)(なか)で、タカヤは(おお)きな(くち)(ひら)いて()かってくるET(いーてぃー)(むね)(あた)りに()()ばしました。






 ……どれぐらい時間(じかん)()ったのでしょうか。


 ()(まえ)には液状(えきじょう)()けたET(いーてぃー)が、地面(じめん)(くろ)()みを(つく)っていました。


 体中(からだじゅう)心臓(しんぞう)になったように、バクンバクンと全身(ぜんしん)(ふる)えます。


 (かす)んだ視界(しかい)から()える(くろ)(なん)かは、一体(いったい)自分(じぶん)のどの部分(ぶぶん)なのか見当(けんとう)もつきません。


(くる)しい……)


 そのまま()()じてしまいそうになった(とき)


 タカヤのズボンの(ひだり)ポケットの(なか)で、エッグロケットがブルブルと(ふる)えました。


 ショースケからの通信(つうしん)です。


 その(おと)で、タカヤはハッと(ふたた)()(ひら)きます。


(だめだ……まだ……(おれ)にはやらなきゃならないことがある…!)


 (さいわ)いタカヤが周囲(しゅうい)()ったシールドはまだ機能(きのう)しているようです、(そと)からは(なか)様子(ようす)はわからないでしょう。


 (おお)きく(いき)()って()いてを()(かえ)して、タカヤは(くず)れた(からだ)再生(さいせい)(はか)ります。


 (からだ)一部(いちぶ)()けてしまい(かたち)()わっているようなので、無限(むげん)()いてくるコスモピースのエネルギーを使(つか)って(あら)たにパーツを(つく)ります。


 左腕(ひだりうで)(つく)って、右足(みぎあし)(つく)って……すでに原型(げんけい)()めていない(もと)のパーツは(からだ)()()んで。


 ()(くろ)だった(からだ)は、(すこ)しずつ人間(にんげん)(かたち)()(もど)していきます。


 ……ふと、自分(じぶん)右腕(みぎうで)(なに)かを(にぎ)っていることに()がつきました。


 虹色(にじいろ)でドクドクと脈打(みゃくう)つその球体(きゅうたい)は、ET(いーてぃー)胸元(むなもと)についていたものです。


 よく(おぼ)えていませんが……おそらく()えそうな意識(いしき)(なか)ET(いーてぃー)から(ねじ)()ったのでしょう。


 タカヤはその球体(きゅうたい)(みぎ)のポケットに()()みました。




 そしてやっと(いき)(ととの)って、()(ほん)(あし)地面(じめん)()って、ET(いーてぃー)(のこ)した地面(じめん)(くろ)()みもずるりと(からだ)()()んで、タカヤは周囲(しゅうい)()っていたシールドを解除(かいじょ)しました。


「……あれ、ショースケたちがいない。もうUFO(ゆーふぉー)(かえ)ったかな」


 おそらくティナの治療(ちりょう)をするため、一足(ひとあし)(さき)にここを(はな)れたのでしょう。


 ちょうどいいです、こんな(よわ)った姿(すがた)()せられません。


 (すこ)しふらふらとした足取(あしど)りのまま、タカヤはまだ周囲(しゅうい)にいくつも(ころ)がっている、ET(いーてぃー)()()もうとしていた(あか)いゼリービーンズのような(ふくろ)中身(なかみ)確認(かくにん)しに()きます。


「これ、アズール(せき)だ。それもこんなにいっぱい…あのET(いーてぃー)がオンガイルゴンの住処(すみか)()らしたんだな。こっちにはヤワクの()がぎっしり(はい)ってる……」


 (のこ)っていた(ふくろ)をエッグロケットの(なか)(すべ)()()んで、タカヤはまず(しろ)花畑(はなばたけ)()んで()きました。


 そこで(ふくろ)(はい)っていたヤワクの()を、(すべ)(もと)あった場所(ばしょ)(ちか)くに(かえ)します。


 さて……(つぎ)大量(たいりょう)のアズール(せき)を、イアル(やま)にあるオンガイルゴンたちの住処(すみか)(かえ)さなければなりません。


 タカヤは(すこ)朦朧(もうろう)としながらよろめいて、地面(じめん)(たお)れそうになりましたが…そのまま両足(りょうあし)にぐっと(ちから)()れて強引(ごういん)体制(たいせい)()(なお)しました。


「……()かなきゃ」


 そして(ふたた)びコスモピースの(ちから)使(つか)って()黒々(くろぐろ)(かがや)かせると、すごいスピードで()んでいくのでした。



****



「あ! タカヤやっと(かえ)ってきた! どこ()ってたの、テレパシー(おく)っても(かえ)してくれないし」


 ショースケはUFO(ゆーふぉー)(なか)で、(よこ)になっているティナのそばに(すわ)っていました。


「ごめんごめん、ちょっとバタバタしてて…テレパシー()()かなかったよ」


「……あ、タカヤくんだ。おかえりなさい」


 ティナは(くび)だけをタカヤの(ほう)()けてへにょりと(わら)います。


「ティナさん大丈夫(だいじょうぶ)ですか? ごめんなさい、大変(たいへん)なときに(そば)にいられなくて……」


 (つら)そうにうつむくタカヤの(あたま)に、ティナはそっと(あたた)かい()をのせました。


「んーん。……ありがとう、タカヤくん」


 そこまで(こえ)にのせて、その(さき)(こえ)()さずにティナは(くち)(うご)かしました。


『たすけてくれて』


 そのまま、ティナは()()じて(ねむ)ってしまいました。


 運転席(うんてんせき)(すわ)るスイが(こえ)をかけます。


(はなし)()んだ? さっさとポスリコモスに(かえ)るわよ、この(ほし)なんか様子(ようす)がおかしいし」


 スイがピピピとパネルを操作(そうさ)すると(あお)UFO(ゆーふぉー)機体(きたい)はふわりと(ちゅう)()いて、まっすぐ(そら)へと()()まれていきました。



****



「うぇえええええええん! じーちゃん(こわ)かったよぉおおおおお」


 (しょう)(ぞう)()って早々(そうそう)、ショースケは()()して(しょう)(ぞう)にべったりくっついたまま(はな)れません。


 ティナをすみやかに医務室(いむしつ)(はこ)んだあと、(しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)でスイは惑星(わくせい)ミッシェルで()こったことを事細(ことこま)かに説明(せつめい)しました。


「そうか……危険(きけん)()()わせてしまったな、ワシの調査(ちょうさ)不足(ぶそく)じゃ。みんな、ほんっとーにすまんかった!!!」


 (しょう)(ぞう)はスイとショースケとタカヤを同時(どうじ)にむぎゅーっと()きしめます。


「かわいいお(まえ)らに(なに)かあったら……ワシは()やんでも()やみきれんわい……」


 (こえ)(ふる)わせて、(しょう)(ぞう)一人(ひとり)一人(ひとり)にずりずりと(ほお)ずりしました。


(つか)れたじゃろう? 今日(きょう)はもう(やす)め、(あと)のことは本部(ほんぶ)でなんとかするからの」





 スイとショースケがベッドの(なか)(どろ)のように(ねむ)っている(ころ)


 タカヤは(しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(おく)(とびら)をくぐって、資料室(しりょうしつ)(はい)ります。


 (しょう)(ぞう)(いっ)(かい)のカフェで(ふた)()ってきた(あお)いジュースを()みながら、タカヤはスイとショースケの()らない、惑星(わくせい)ミッシェルで()こったことを(はな)しました。


「そうか……何者(なにもの)かがアズール(せき)()()くしてしまったから、オンガイルゴンたちは(あば)れておったんじゃな。(やま)のアズール(せき)生成(せいせい)促進(そくしん)する(くすり)早々(そうそう)開発(かいはつ)せんとな……」


「……(くろ)くて、()むくじゃらで…()たことが()ET(いーてぃー)でした。雰囲気(ふんいき)が……以前(いぜん)(とき)()()(いけ)から強制(きょうせい)転送(てんそう)したあと、本部(ほんぶ)()けてしまったらしいET(いーてぃー)とよく()ていました」


 タカヤはエッグロケットを(さぐ)りながら(つづ)けます。


「これ、そのET(いーてぃー)使(つか)っていた(あか)(ふくろ)()(はし)です……それと」


 今度(こんど)(みぎ)のポケットに()()()んで、虹色(にじいろ)のドクドク脈打(みゃくう)球体(きゅうたい)()()しました。


「……ET(いーてぃー)(むね)()いていたパーツです。(なん)かはわからないんですけれど…」


 (しょう)(ぞう)はそのパーツを()て、(すこ)しの(あいだ)(いき)をするのを(わす)れてしまいました。


「これが……ついておったのか」


「?……はい」


「そうか……」


 (しょう)(ぞう)虹色(にじいろ)球体(きゅうたい)()()って、頑丈(がんじょう)そうな透明(とうめい)のケースの(なか)()れました。


「タカヤも相当(そうとう)無理(むり)したじゃろう。ライトに()てもらわんといかんな」


「い、いえ! 大丈夫(だいじょうぶ)です、なんともありませんでしたよ。だから、ライトさんには()わないでください……(こま)らせたくないんです」


「そうはいかん。……(こま)るくらいさせてやってくれんか、あいつもいろいろ(なや)んでおるんじゃ。さて、タカヤ」


 (やさ)しい笑顔(えがお)()けて、(しょう)(ぞう)資料室(しりょうしつ)(とびら)(ひら)きます。


「お(まえ)ももう(やす)め。……みんなを(まも)ってくれて、本当(ほんとう)にありがとうな」


「あはは、全部(ぜんぶ)コスモピースの(ちから)のおかげですよ。この(ちから)のおかげでみんなを(たす)けられたんだから。……(しょう)(ぞう)さん」


 タカヤは(しょう)(ぞう)()をまっすぐに()つめます。


「あの()(おれ)にコスモピースの(ちから)をくれて、ありがとうございます」


 そう()って(わら)うと、タカヤは(しょう)(ぞう)(よこ)(とお)って資料室(しりょうしつ)(とびら)をくぐりました。


(しょう)(ぞう)さんは(やす)めって()ってくださいましたけど……この(ちから)があれば(やす)必要(ひつよう)なんてありません。(つぎ)仕事(しごと)(たの)まれてるんです、()ってきますね」


 タカヤは一度(いちど)だけ()(かえ)ってぺこりとお辞儀(じぎ)をします。


「ジュース、ごちそうさまでした」





 (しょう)(ぞう)一人(ひとり)きりになった資料室(しりょうしつ)で、パイプ椅子(いす)(すわ)(なお)しました。


 (ちい)さなテーブルの(うえ)には、タカヤが()()した(あお)いジュースの(はい)っていたグラスが()いてあります。


 (しょう)(ぞう)はそれをぼんやり()つめながら、自分(じぶん)のグラスに(のこ)るジュースを()()して、(なか)(はい)っていたピンク(いろ)(こおり)をガリガリと()(つぶ)しました。


 ……タカヤのグラスに(のこ)った()(かさ)なったピンク(いろ)(こおり)()けて(くず)れて、(しず)かになった部屋(へや)にカランと(おと)(ひび)きます。


「ワシは……そんな(ちから)(まえ)にやりたくなかったよ。タカヤ」


 (ちい)さな(つぶや)きは、(だれ)にも()こえることなく()えていきました。



****



「……春子(はるこ)諄弌(じゅんいち)か。(つな)がってよかった、(いま)はどこにいる? ……そうか、そんな(とお)くか」


 (しょう)(ぞう)薄暗(うすぐら)研究室(けんきゅうしつ)で、(ひか)画面(がめん)()かって(はな)しかけます。


一度(いちど)ここに(もど)ってきてくれんか。二人(ふたり)に……()かって()しい場所(ばしょ)がある。()がかりが()つかったんじゃ」




 (すこ)しだけ言葉(ことば)()わして画面(がめん)()(くら)になると、(しょう)(ぞう)はタカヤが(わた)してきた虹色(にじいろ)球体(きゅうたい)(はい)ったケースを()()り、(ひと)(ごと)(つぶや)きます。


「……エネルギーの(かたまり)じゃろうな。コスモピースには(とお)(およ)ばんが…ワシの(つく)()せるものよりも(すう)(ばい)……いや、数百(すうひゃく)(ばい)(すぐ)れている」


 球体(きゅうたい)(はな)虹色(にじいろ)(ひかり)が、暗闇(くらやみ)(なか)(しょう)(ぞう)真剣(しんけん)(かお)()らしました。


「……こんなものを(つく)れる種族(しゅぞく)は…ワシは(ひと)つしか()らんなあ……!」



****



 (とお)(とお)(ほし)の、とある一室(いっしつ)


 一人(ひとり)生物(せいぶつ)がぼんやりと(かんが)(ごと)をしています。


「おかしいですねー、惑星(わくせい)ミッシェルに(おく)った()(かえ)って()ませんー。(まえ)地球(ちきゅう)(おく)った()(かえ)ってこなかったのに、(こま)りますねー……仕方(しかた)ない、また(つく)りますかー」



「でも(みょう)ですねー、あの()(かな)うモノなんてあの(ほし)に……いいえ、この宇宙(うちゅう)にほとんどないはずですのにー。もしあるとすればそれは……」



「……やっと、(ちか)づけたかもしれませんー。コスモピース」


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