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34. 不思議なパーティー

「なんじゃ、ちょこまかと……」


 赫焔王(かくえんおう)は不愉快そうに蒼を見上げた。


 蒼は腰に手を当て、その愛らしい手でビシッと赫焔王(かくえんおう)を指さす。その碧い瞳には揺るぎない自信が宿っていた。


「これからお前を殺す。嫌なら僕の奴隷になれ」


 あまりに予想外の言葉に思わず笑ってしまう赫焔王(かくえんおう)


「ハッハッハ! 頭でもおかしくなったか? お前のどこに我を殺せる力があるんじゃ? ん?」


 蒼はスクロールのひもを外すと、無言で赫焔王(かくえんおう)に突き出し、見せつけた。


「なんじゃ? 最下級のスクロールじゃないか。そんなのでこの我と勝負する気か? ハッハッハ」


「このスクロールは一秒間スキルを無効化するんだよ? それでも笑っていられるかな?」


 蒼はドヤ顔で言い放った。


「たった一秒のスキル無効化? それが何だと……。……。ま、まさか……」


 赫焔王(かくえんおう)は蒼の狙いに気がつき、落ち着きなく目を泳がせる。


「これを破いて【即死】をかけるだけで僕の勝ち……。おい、動くなよ? 少しでも動いたら……」


 蒼は碧眼をキラリと光らせ、スクロールを少し破いてみせる。


「ちょ、ちょっと。ちょっと待ってくれ!」


 赫焔王(かくえんおう)はさっきまでの威勢はどこへやら、慌てて手を蒼の方に伸ばす。


「動くなって言ってんだろ!」


 蒼はさらに少し破いた。


「くぅぅぅぅ……」


 赫焔王(かくえんおう)は頭を抱え必死に対策を考える。


「今すぐ返事をしろ! すぐに返事しないなら破るからね?」


 蒼は無慈悲に言い放つ。今まで散々ひどい目に遭わされてきたのだ。こんなところで譲歩する意味もない。


 赫焔王(かくえんおう)は必死に活路を見出そうとするが、どんな攻撃もスクロールを破る速度には追い付かない。


「くぅぅぅ……。まさかこんな小童に……」


 予想外の窮地に忌々しそうに蒼をにらみつけた。


「本当はこんなことせずにさっさと殺すのが正解なんだろうけど、無駄な殺生は避けたいんだよね。君にも何か都合があるだろうし?」


 赫焔王(かくえんおう)はガチガチと牙を鳴らし、鼻息荒く叫ぶ。


「我を奴隷にしてどうするつもりじゃ? お主のペットになるくらいならいっそ殺せ!」


「ペットなんて要らないよ。この悪魔みたいに一緒に楽しく暮らせたらいいなってだけ」


 おっかなびっくりヨロヨロと飛んできたムーシュを指さす蒼。


「楽しく暮らすじゃと? 馬鹿言うな! 我は不本意ながら呪いに侵されて、殺し続けなければ死んでしまうんじゃ」


 蒼は赫焔王(かくえんおう)の蛮行の目的が謎だったが、暴れ龍にもそんな理不尽な理由があったと知り、少し同情する。


「その呪いってやつは女神の解呪の拳銃で解けるのか?」


「へっ!? お主【神霊の月桂銃(セント・ローレルガン)】を持っとるのか!?」


「王国の宝物庫にあった月桂樹模様の銀の銃だけど効くの?」


「効くも何もずっと探しとったんじゃ! なんと王国にあったのか、騙されとった……」


 赫焔王(かくえんおう)はうんざりした様子でうなだれた。


「効くならお前に使ってやろう。どうだ、奴隷になるか?」


 赫焔王(かくえんおう)は少し考え、大きく息をつくとうなずいた。


「その小さな身体で良くやっとるよお主は。降参じゃ」


 赫焔王(かくえんおう)はそう言うとボン! と爆発を起こした。


 うわっ! な、何!?


 爆煙が緩やかに風に舞い上がっていくと、そこには金髪おかっぱの少女が立っていた。彼女は近未来を思わせるシルバーのジャケットをまといながら、悪戯っぽくほほ笑んでいる。


「え……?」「はぁ……?」


 二人は唖然とする。変身した人型の赫焔王(かくえんおう)は、千歳を超えているというが、見た目はただの女子中学生なのだ。確かに真紅の瞳の色は赫焔王(かくえんおう)のそれと同じではあったが、きゃしゃな体にはあの超絶な威圧感はみじんもなかったのだ。


「ま、まさかお前が赫焔王(かくえんおう)?」


「いかにも(われ)が千二百五十五歳のドラゴン赫焔王(かくえんおう)レヴィアじゃ。レヴィアと呼ぶがよいぞ」


 レヴィアは腕を組み、ドヤ顔で蒼を見るが、そのあどけない仕草はどこかコミカルで、蒼は思わず口元が緩んでしまう。


 ムーシュはけげんそうな顔をしながらレヴィアのところまで飛んだ。


「じゃあ、奴隷の契約をしましょう。私はムーシュ、主様の一番奴隷ですからね?」


 レヴィアの手を取り、その甲に六芒星の傷を刻むムーシュ。


「なんじゃ? 我を二番奴隷と呼ぶのか?」


 レヴィアは不満そうに口をとがらせる。


「一番も二番もないよ、仲良くやる仲間なんだからさ」


 蒼はそう言いながらピョンとレヴィアのところまで降りると、指先の血をレヴィアの六芒星に擦り付けた。


 直後、二人はほのかな黄金色の輝きに包まれ、無事、レヴィアは蒼の奴隷となる。


主殿(ぬしどの)よろしく頼むぞ」


 レヴィアはニカッと笑って右手を差し出し、蒼もモミジのような手でそれに応えた。


 こうして、幼女を(あるじ)とするドラゴン女子中学生と小悪魔の不思議なパーティーが誕生したのだった。


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