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32. 絶望と希望が交錯する隙間

「ま、まさか……」


 蒼の顔色は一瞬にして青白くなり、その目には底知れない恐怖が宿った。


「うわぁ! 近づいてきますよぉ!」


「全速旋回! 全力で逃げろ!」


 蒼は震える声で必死に叫んだ。


 急いで鑑定をかけてみる。


ーーーーーーーーーーーーーー

Lv.999 赫焔王 千二百五十五歳

種族 :ドラゴン

スキル:?????

称号 :?????

特記事項:?????

ーーーーーーーーーーーーーー


 絶望が蒼を打ちのめす。


 敵のレベルは極限に達し、そのスキルの中身も鑑定できなかった。勝利の糸口さえ感じることのできない、絶望的な敵の出現に目の前が真っ暗になる。


 くぅぅぅ……。


 とても逃げ切れるとは思えないが、諦めたら瞬殺されてしまう。


「ムーシュ! 急降下だ! 森の中に逃げ込め!」


「うひぃぃぃぃ!」


 ムーシュは翼を畳み、一気に鬱蒼(うっそう)とした巨木の原始林へと突っ込んでいく。


 直前で翼を大きく打つと地面すれすれをかすめ、巧みに枝を避けながら森の中をすっ飛んで行くムーシュ。


「行っけーー!」


「くーーっ! ムーシュ、全力でっす!」


 ムーシュはかつてないほど翼を紫に燦然(さんぜん)と輝かせ、迫りくる樹木を見事にかわしながら宙を駆け抜けていった。


 その時だった、後ろから腹に響くような重低音が森全体を震わせながら響きわたる。


 な、なんだ……?


 蒼が恐る恐る後ろを見ると、荒れ狂う黒い影が木々を吹き飛ばしながら圧倒的な力でねじ伏せるように急接近してくる。


 マ、マジかよ……。


 直後、ギュオォォォォ! という地を揺るがす咆哮が咆哮(ほうこう)が二人を貫く。


 うひぃぃぃ! うはぁ!


 二人は恐怖で死んだように青ざめる。迫る赫焔王(かくえんおう)の重圧に、二人の胸は押しつぶされそうだった。


「ムーシュ! もっと速くぅ!!」


「くぅぅぅ、限界なんですぅぅぅ!!」


「追いつかれちゃうよぉ!」


「くひぃぃぃ!」


 ムーシュは顔を真っ赤にして、その小さな翼で力一杯飛んで行く。


 するといきなりパァッと森が開けた。


 へっ?


 見ると緑色の小さな魔物たちが騒ぎながらムーシュたちを指さしている。


 どうやらゴブリンの村に入ってしまったようだ。


「ごめんなさーい! 通りまーす!」


 ゴブリンたちは怒り、騒ぎ、中には弓を構えて狙ってくる者もいる。


 ギャッギャッギャ! ギャー!


 直後、ズン! という衝撃音とともに赫焔王(かくえんおう)が飛び込んできた。


 ゴブリンたちはその圧倒的な巨体の出現に言葉を失い、凍りつく。


 赫焔王(かくえんおう)は地を揺るがす重低音の咆哮で恐怖を振りまきながら、わき目も振らずムーシュたちを追った。


 ゴブリンたちの建てた小屋やツリーハウスは、まるで紙で作ったジオラマみたいに赫焔王(かくえんおう)の羽ばたきが生み出す凄まじい突風に吹き飛ばされ、高く宙を舞っていく。


 グギャァァァァ! グギャッ!


 ゴブリンたちも吹き飛ばされ、逃げ惑った。


 こうして一瞬でゴブリンの村は壊滅。一体何が起こったのか分からぬままゴブリンたちは、森を吹き飛ばしながらすっ飛んでいく赫焔王(かくえんおう)を呆然と眺めていた。


「右だ! 右に行け! 岩山がある!」


 このままでは追いつかれてしまうと焦る蒼は、木々の間からチラッと見えた岩山の断崖に進路を変えさせる。


「ぬ、主様……、もうムーシュはダメかもしれません……」


 ムーシュの体に宿る魔力が揺らぎ、徐々に速度がおちてくる。


「頼むよ、もうムーシュだけが頼りなんだよぉ」


「ム、ムーシュは頑張り……ます……」


 ムーシュは内なる力に再度火をつけると、軽やかに木々の間を舞い抜け、進路を岩山に取った。


 直後、ゴオォォォという地響きを伴う激しい噴射音とともに、後ろ側の森が閃光となって爆ぜ、轟炎に包まれる。


 あわわわわ! うっひゃぁ……。


 木々は一瞬で黒焦げとなり、激しい熱線がムーシュたちにも襲い掛かる。


 あちちちち! うひぃ!


 一瞬でも曲がるのが遅かったら今頃黒焦げである。ムーシュはおしりに火がついたように必死に羽ばたいた。


 やがて森を抜け、目の前には険しい岩山が立ちはだかる。山頂には花崗岩(かこうがん)でできたようなグレーの巨大な岩の塔が何本か屹立(きつりつ)しその間には隙間が空いていた。


「よし、ムーシュあの間をすり抜けろ!」


「えっ!? あんな隙間通れるんですか?」


「行ける! できる! ムーシュはスマート!」


「ム、ムーシュはスマート!! うおぉぉぉ!」


 ムーシュの顔には疲労が深く刻まれていたが、魂からの叫びと共に残り僅かな力を引き絞り、絶望と希望が交錯する隙間へと飛び込んでいった。



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