第9話 自宅で雑談配信 with メイド 2
「と、とりあえず以上がお騒がせした件についてのご報告です。止めるためとはいえ、人に大怪我をさせてしまったというあまりよろしくないきっかけでここまでたくさん人が集まっていただいたことですし、改めて質問コーナーとさせていただきます」
同接四万越えをいきなり達成して若干怯えながら御影ジンの騒ぎについてのあれこれを軽く話し、次の予定に移行する。
移行すると言っても最初から質問コーナーのようなものをすると言っているので、移行というより戻ったと言った方がいいだろう。
”じゃあまず、あのゴミに飲ませた回復薬って何ですか?”
”動画を観た感じ腕も足もバキバキに折れていたのに、すぐ治るほどやべー回復性能していたんだけど”
”ギルドが魔術師や呪術師に頼んでそういった回復アイテムを製作販売しているけど、あんなドリンク状のものは見たことない”
”まずランスとか翼とか大剣とか、聞きたいことがありすぎてどれから聞けばいいか分かんね”
「ではまず、御影様に飲ませた回復薬について話しますね。と言っても単純ですよ。あれは私が作ったオリジナルの回復薬でして、飲んだ人間の自己回復能力を爆発的に高めるものです。欠損とかは治せないですけど、千切れた腕をくっつけた上で飲めば元通りになる……と思います」
あの回復薬の名前はアスクレピオスと言い、死んでいなければどんな重傷でもすぐに治すことができる。ただ飲んだ人間の回復能力を底上げしての回復なので、治療後は酷い倦怠感に襲われる副作用がある。
今はその副作用をどうにかできないか試行錯誤しており、中々解決できずに壁にぶつかっている状態だ。
”しれっととんでもない情報出てきて草”
”オリジナル!?”
”骨折が一瞬で治るレベルの回復薬って、それどこのゲームの代物ですか”
”医療革命起きるレベルのもので大草原”
”再生できなくてもくっつけて飲ませれば元通りになるってwww”
”それ普通に販売したら大儲けできる代物すぎて、探索者業界に限らず医療業界からも売ってくれってオファー来るぞこんなん”
”単純だけど単純じゃないwww”
「やはりこういう反応になりますよね」
「作った私ですら、過剰な回復効果だと自覚していますからね。副作用がちょっと大きいからどうにかしたいと思っているあたり、血筋なんだとは思いますけど」
アスクレピオスのことを軽く説明すると、コメント欄が大盛り上がりを見せる。やはり、飲むだけで骨折以上の負傷もすぐに治せる回復薬は、現実世界では異常らしい。
ちゃんとそこは作った本人でも過剰だと自覚しているが、父親と同じロスヴァイセ一族の血筋なのだろう。どうしてもこのままでは満足できない。
”そもそもどうしてそんな激ヤバ回復薬作ったの?”
”昨日の動画やフレイヤちゃんのアーカイブ見た感じ、攻撃とか全部あの盾っぽいもので防いだり余裕で回避しているけど”
”過去に大怪我したそのトラウマで作ったとか”
「作った理由ですか? それは……もの作りが趣味で、魔導兵装を作っている片手間の暇潰しで作ったから理由とかは特に」
”ひwまwつwぶwしw”
”えぇ……”
”理由が理由じゃねえwww”
”片手間で作っていいもんじゃねえだろあんなもんwww”
”魔導兵装とか気になる単語出て来たけど、それ以上にあれが暇潰しで作られたもののほうが衝撃だわwwww”
”もの作りが趣味って言うけど、もの作りの域を超えていますがお嬢さん”
”何を思って片手間であんなもの作ったwwww”
あまり信じてもらえていない。しかし本当に暇潰し程度で作ったのだから、これ以上話すことがない。
ほかに何か言うというのであれば、強いて言えばそういうものがあったほうが便利だからだろうか。
これも言ったところで信じてはもらえないのだろうなと思いながら、カップに残っている紅茶を飲む。
”じゃああの翼とか大剣はなんなの? あれも暇潰しで作ったとか?”
”暇潰しでモンスターパレードワンパンする武器とか、浮遊カメラ置き去りにする速度で移動する翼作られたら、世の職人からしたらたまったもんじゃねえなwww”
”でもあんな回復薬を片手間で作ったくらいだし、マジで同じ理由で作られているかも”
”暇潰しで兵器革命すら起こされたら武器商人とか困るわ”
「あぁ、いえ。私が使う武器は片手間じゃなくて、きちんと時間と労力をかけて作ったものです。流石に精密兵器ですから、何かの片手間に作ることはできないです」
”冗談で言ったつもりがマジで手作りだったwww”
”女子高生が作っていい威力の武器じゃねーよ!”
”俺らからしたらどっちもあまり変わらないバケモノ性能なのに、それでもあの回復薬ですら片手間扱いされるとか、どんだけ複雑なの”
”もうあれら以外にももっとたくさん兵器持ってるって言われても信じるぞ”
”個人で軍隊作れんじゃんwww”
”掲示板でワンウーマンアーミーとか言ってる奴いたけど、マジでワンウーマンアーミーやってそう”
フレイヤの回答にコメント欄が加速する。
コメントの中に、まだ他にも大量の兵器を持っているのではないかと疑っているものを見つけるが、それはあえて拾わずにスルーする。
「まず、私の使う装備は全て私のオリジナルです。普段使っているランスも、大規模火力が欲しい時に使う大剣も、移動に時々使うあの翼も全部私の手作りです」
流石に部屋の中で武器を出すわけにはいかないので、椅子から立ち上がって翼だけを広げる。
部屋の中で飛ぼうにも、もちろん狭いのでできるはずがないので、ただ見せるだけになる。
”マジで翼生えてきた!?”
”美琴ちゃんと同じ魔神とか、そんなんじゃないよね?”
”軍服金髪碧眼美少女に純白の翼とか、神々しすぐる……”
”よく見るとマジで機械っぽさ感じる”
”どんな原理で飛ぶんだろうそれ”
”しっかりと羽が一枚一枚付いているから、もしかして羽を飛ばして攻撃とかもできたり?”
「飛ぶ原理ですか? それは、腰の翼が重力制御装置で私にかかる重力を無効にすることができて、背中の翼がスラスター装置で推進力を得ることで移動することができるんです。これで高速移動や旋回を可能にするのに、すごく時間がかかりました」
翼を一枚で作ると上手くバランスが取れないし、強烈な推進力があるだけでは飛ぶことも難しかった。
そこで重力制御を行う腰に取り付けるデバイスも作って、これで浮遊することができるようにはなったものの、今度は姿勢制御に問題があった。
改良すれば別の問題が浮き彫りになるを幾度となく繰り返し、何度も試行錯誤を繰り返した結果、本物の鳥のように羽を一枚一枚作ってそれら全てにスラスター機能を搭載することで、姿勢の制御や急旋回を可能にした。
曲がる時は片翼の推進力を減らすことで曲がれるし、姿勢制御も羽が一枚一枚がそれぞれ微調整することで安定させている。
数か月とかなり時間はかかってしまったが、おかげで高機動力を手に入れることができた。そしてその機動力に武器を合わせると、より強力なものとなる。
「一応、過去の配信でもちらっと話したことがあるのですが、ランスと大剣以外にも武器があります。今まで使ったことがないので倉庫で埃を被っている状態なので、いい加減使わないといけないのですが……」
”やっぱ他にも持ってるんだ……”
”信じられるか? これで女子高生なんだぜ?”
”一人で色んな革命起こせるやん”
”きっとその軍服もすごい効果が盛り盛りなんだろうなあ”
”もう聞かないでおこう、常識が壊れていきそうだ”
”それよりもさっきから、後ろで控えているメイドさんが気になって仕方がない”
「リタのことですか? ……そうですね、彼女のことも紹介しておきましょう。これからもたびたび配信に入り込むと思いますから」
視聴者達は、フレイヤがどんな武器を持っているのかを知るのが怖くなったのか、もう武装についての質問が出てこなくなった。
代わりにリタのことが気になるという質問が増え始めたので、彼女のことも紹介する。
「でしたらわたしが自ら。皆様初めまして。わたしの名前はリタ・レイフォードと申します。お察しの通り、フレイヤ様のメイドとしてお仕えしております」
「リタは私の幼馴染でもあるんです。別にメイドでなくてもいいと言ったのですが、頑なにこれでいいと言って聞かなかったので、私の専属メイドとして一緒にいます」
”幼馴染?”
”え、じゃあ年近いってこと?”
「年が近いというか、同い年ですね。私と同じ学校に通っていますよ。クラスも一緒です」
「フレイヤ様、あまりそういった情報は出さないほうがよろしいかと」
「これくらいで個人情報特定できないでしょう」
「世の中には特定厨と呼ばれる方がいるのですよ。下手に情報を与えてしまえば、予想外な方法で住んでいる場所まで特定されかねませんので、今後はお気をつけてください」
”同い年!?”
”てっきり二十代な大人の女性かと思ってた”
”十七にしちゃ大人すぎる”
”言われればそう見えるけど、言われないとマジで大人にしか見えない”
”ミステリアス美女かと思ったらミステリアス美少女だった件”
”うちと同い年なのに背も高ければスタイルも抜群……。世の中はなんて不平等なのだろう”
リタに下手に情報を与えるなと言われている間、コメント欄がリタがフレイヤと同い年だと知って困惑したようなコメントで溢れている。
それを見て、やっぱりそう感じるのは自分だけではないのだなと少し安心した。
ここ二年で一気に身長が伸びて出るところも出っ張ってきたリタは、女子高生とは思えない抜群なプロポーションと色香を持っている。
同性なのに思わずどきりと意識してしまうことだって少なくないし、少し意地の悪い質問をいきなり投げかけてきて困惑させられて、それを楽しむ小悪魔的な一面なんかは本当に大人な女性だ。
学校の友人とかは、同じ高校に入学しているから同い年だと分かっているが、視聴者は今一緒に配信に映っているリタしか知らない。なら彼女が大人だと勘違いしてしまうのも無理はないだろう。
「私が配信を始めたのも、リタが後押ししてくれたからなんです。正直な話、配信者って驚くほどレッドオーシャンなので、何の経験もない私がいきなり飛び込んでも大丈夫なのだろうかと思ったものですが、結果的にこうして人がたくさん集まってくださっているので、リタには本当に感謝しています」
「お褒めに預かり、光栄です」
「今度何かお礼とかしないといけませんね」
「え? いえ、そこまでしていただくわけには……」
「あなたのおかげで色々助かっているのですから、たまには何か私にもさせてください。されっぱなしなのは、こう、少し落ち着かないです。それと、あなたは少し働きすぎです。たまには休んだっていいんですよ?」
くるりとリタの方を向いて立ち上がり、そっと両手で頬に触れながら言う。
無理をしているわけではないようで、目の下に隈はない。
昔は寝る間も惜しんで働き続けて、隈を化粧で隠したりしていたことがあったので、時々こうしてチェックしないといけない。
今でこそリタのほうがお姉さん味が強いが、昔はフレイヤの方がお姉さんだった。
配信を始める前に姉さんと呼んだ方がいいだろうかと言われて少し動揺したが、たまには素直に甘えたりしてほしい。
”おや?”
”これはこれは”
”あら^~”
”いいですね^~”
”これは上質な百合の気配”
”とう……とい……”
”てぇてぇ”
「……フレイヤ様。この体勢は些か、視聴者様にあらぬ誤解を招くのでは……?」
「へ? ……ぁ」
珍しく頬をうっすらと赤く染めながら目を逸らしたリタが小さな声で言い、遅れて今自分がどんな体勢になっているのかを理解する。
他意があったわけではない。そんなつもりもないし、ただ目の下に隈がないか確認しただけ。
しかし、しかしだ。はたから見ればまるで、女の子どうしてキスをしようとしているように見られる体勢ではないか。
そう理解した瞬間、瞬間湯沸かし器のように顔が一気に熱くなるのを感じ、ぷるぷると少し震えながら手を放す。
「す、すみません……。べ、別にそういうつもりでやったわけではないのですよ……?」
「分かっております。ただ、しばらくは誤解が解けないでしょうね」
「流石に前後の会話があるので、変な誤解はされないと……」
”すごくドキドキした”
”キマシタワー”
”あら^~”
”あら^~”
”あら^~”
”いいですわゾ^~”
書かれている文字自体はよく理解できないが、しっかりと誤解されていることだけは分かった。
「違いますからね!? 私とリタはそういう関係じゃ……! 家族! リタとは家族なんです!」
「英語ですと上手く伝わりませんよ」
「そんなこと言っていないで、リタも誤解を解くのを手伝ってください!」
「……ふふっ。どういたしましょうか?」
「リタ!?」
こんな時にまで小悪魔的な一面を出さなくてもいいのに、わざわざフレイヤを困らせる行動をして楽しんでくる。
それが余計に視聴者の勘違いを加速させて、どれだけ否定しても中々解けそうにないのでこの雑談配信内では諦めることになった。