表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

第8話 自宅で雑談配信 with メイド 1

「つ、疲れた……」


 学校での授業を終えて帰宅したフレイヤは、自室のベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。

 予想していた通り、学校に着くなり速攻で大量の生徒に囲まれた。

 もちろん一番多く聞かれたことは、あの翼はなんなのかということだ。


 父親が補助デバイスや戦闘デバイスといった、探索者専用の道具を開発販売している会社の経営者なので、探索者を始めた頃に頼み込んで作ってもらったものだと言って誤魔化し続けたが、そのことを聞かれるたびにメンタルがゴリゴリ削れていくのを実感した。


 質問攻めは登校してすぐの一回で終わってほしいと願っていたが、その後の授業の合間の休み時間に繰り返し他のクラスからもやってくるので休む暇がなく、お手洗いに行くのだって一苦労だった。

 リタもリタでフレイヤの家に一緒に住んでいることは知られているので、彼女も同じように質問攻めの刑に遭っていて、困った表情を浮かべているのを見て申し訳なく感じた。


 休み時間が休み時間じゃなくなり、昼休みも弁当を食べたいのに中々食べさせてもらえず、リタに助け舟を出してもらってどうにかあり付けたくらいだった。

 授業が終わった後は囲まれるよりも先に逃げるように教室を出て、リタはフレイヤが彼女用に作った魔導兵装を使って抜け出してきたようで、学校を出て少し先にある公園で待っていたらいつの間に隣にいた。


 帰宅後はすぐに母に電話をかけて、色々と大丈夫なのかを確認した。母もあの切り抜き動画を観ていたようで、御影ジンをぶちのめしたのは少しやりすぎだと言われたがお叱りはここだけで、特段怯える必要はないとお墨付きをもらった。

 仮に向こうが訴えてきても、御影ジンが先に法に抵触している証拠の動画がネットにばら撒かれているので、確実に相手を退けることが可能と言われて心底安心した。


 その確認を終えた後、あと一時間もすれば配信の時間なので先にいつもの軍服のような衣装に着替えておき、異常に疲れているのでベッドに倒れて横になっている状態だ。


「はしたないですよ、フレイヤ様。淑女たるもの、常に優雅で上品でありませんと」


 普段のメイド服に着替えたリタが紅茶を持って部屋にやってくる。


「そうは言いますけど、流石に疲れました。ここまで囲まれたり質問攻めにされることなんて普段ありませんから」


 のそりと起き上がってベッドの縁に座ると、リタが台に紅茶の乗ったトレーを置いて隣に座り、少し乱れた金髪を優しい手つきで直してくれる。


「それはわたしも同じです。まさかわたしまで囲まれるとは思いませんでした」

「というか、どうしてリタはそんな平然としているのですか」

「これよりも酷い経験を過去にしているからでしょうか」

「……ごめんなさい」

「お気になさらず。フレイヤ様だって、そのつもりで聞いたわけではないのでしょう?」


 リタはフレイヤと出会う前は、かなり荒んでいた。それこそ、自分以外の人間は誰も信用できないと言って、手を差し伸べたフレイヤを拒絶するほどに。

 昔と比べてかなり丸くなって、今となっては同い年なはずなのに大人顔負けのスタイルと色香を出して大人しくなっているが、できるだけ過去のことを思い出させるような発言は控えるようにしている。


「わたしは今、フレイヤ様や奥様、旦那様と一緒に暮らせて心から幸せを感じています。今日の質問攻めなど、しばらく耐えればすぐに収まること。わたしは多少過去の経験が活きているとはいえ、気にする必要などどこにもございません」


 不必要なことを言ってしまったと気分が少し沈んだフレイヤを、リタが優しく胸に抱き寄せる。すっとする清涼感のある、ローズマリーの香りがした。

 昔はフレイヤの方が背が高くて、リタがまだ不安定だった時期もあってよくこうしてあげていたのに、いつの間にかしてもらう側になってしまったなと、ほんのちょっとの恥ずかしさを感じながら少しだけ甘える。


「もう大丈夫ですか?」

「はい、ありがとございます、リタ。……もう、すっかり私よりお姉さんですね」

「ふふっ。お望みなら昔のように、姉さんとお呼びしましょうか」

「そっ……! それは、また別の機会に……」


 小悪魔のような笑みを浮かべて言ったリタの言葉に、思わず了承しようとした自分に驚きつつ、頬を赤くして口元を手で隠しながらそっぽを向く。

 そのまま時計を見るとそろそろ時間なので、配信を始める準備を進める。

 告知はいつの間にかリタがやってくれていたのか、告知投稿をしようとツウィーターを開いた時に大量のリプライ通知が来ていたのには驚いたものだ。

 デスクトップのパソコンであれこれ準備をして、合間にリタが淹れてくれた紅茶を飲み、あとは配信開始のボタンを押すだけでいいところまで進める。


「こ、これは……」

「あらあら。予想以上ですね」


 雑談配信の枠に限らず全ての予定されている配信枠では、どれだけの人が集まっているのかを見ることができる。

 いつもは二人か三人、運がいいと登録者の半分近くの十人が待ってくれている時があったが、今はそれの比じゃない。

 待機人数一万八千人。一番多い時の約千八百倍の人数が既に集まっており、まだ配信を始めてすらいないのにコメント欄には大量のコメントが書き込まれている。


「だ、大丈夫でしょうか!? 私、変なところとかないですよね!?」

「大丈夫ですよ。御髪も服も乱れておりません。いつものように堂々と、そして優雅に、お上品になさっていれば問題ありません」


 そう言うリタの言葉を信じ、少し震えている右手をマウスに伸ばす。


 そう言えば、もう配信も始まるというのにリタはこのまま部屋に残るのだろうか?

 なんてことを考えると同時にそのまま左クリックして配信開始ボタンを押してしまい、遂に配信が開始される。


”キタアアアアアアアアア!!!!”

”待ってました!”

”告知から来ました!”

”例の動画から来ました。あのゴミを処分してくださり感謝します”

”うおおおおおおおおお!!”

”動画そのままの軍服碧眼美少女だ!”

”なんかメイドさんおる!?”

”勧善懲悪美少女最高!”

”初めまして!”


「What⁉」


 元から大量のコメントが書かれていたが、配信が始まると同時にコメントが急加速していき、思わず声が漏れる。


”わっつ!?”

”やっぱそれだけでもむっちゃ発音ええwww”

”これはもっとコメント連投しまくって慌てさせるべき”

”テンパったら全部英語になったりするのかな”


「な、なんですかこのコメントの量!?」


 あまりのコメントの多さに連投ツールでも使っているのではと疑ってしまう。


「落ち着いてください。いきなりのことでパニックになるのは分かりますが、狼狽えてばかりではリスナーを飽きさせてしまいますよ」

「そ、そう、です、ね。で、では……は、初めましてミナサン! は、初めましての方が多いと思いますノデ、自己紹介カラデス」

「片言になっておりますよ」

「一万人以上を前に話すのが初体験なのですから仕方がないでしょう!」


”英語と日本語の交互に使ってるのシンプルにすげえ”

”カタコト日本語かっわ”

”外国人美少女が日本語使ってるだけで可愛いのはなあぜなあぜ?”

”これもしかして、この配信観ているだけでリスニングの勉強になる?”

”金髪碧眼美少女と片目隠れミステリアス美少女メイドを同時に見れて眼福なだけじゃなくて、英語まで鍛えてくれるのか”

”マジでメイドさんは誰?”


 可愛いといったコメントや、勉強になりそうといったコメントが流れていく。

 特に多く流れていくのは可愛いというもので、言われることは少なくはないし、直接言われるのではなく文字として書かれているだけなのだが、それが一気に何十個何百個と送られてくると、恥ずかしさが出てくる。


「こほん……。あ、改めて、初めまして皆さん。ダンジョンの探索をメインで行っている、フレイヤと申します。まだ配信そのものを始めたばかりなのにいきなりこんなことになって、正直かなり驚いていますしどう話せばいいか分からないのですが、今日は少しでも私のことを知ってもらえたらなと思っています」


”日本語ガチぺらっぺらじゃん”

”どこで日本語そんなに上達したの?”

”英語と日本語で若干声のトーン違うの可愛い”

”どこの国の人? アメリカ?”

”青い瞳がめっちゃ綺麗で羨ましい”

”ちょっと声震えてるのいいね。慣れてない感じがしてそそる”

”あのバカでかい大剣はなんですか!”

”ランスも気になるし翼も気になる!”


 続々とコメントが送られてくる。

 どうしようとおろおろと視線をさまよわせていると、そっと右肩に手が置かれる。


「落ち着いてください。コメントに全て反応しなければいけないわけではありません。目に付いたもの、興味を引いたもの、複数人がしている同じ内容の質問を拾うだけでいいのですよ」

「そ、そんなのでいいんですか?」

「そんなのでいいのです。むしろ全てに反応していたら時間が圧倒的に足りません。そうですね……どうせ昨日の動画について聞かれるでしょうし、その質問をメインで拾えばよろしいかと」


 確かに、ちらほらと機能の動画でも使っていた大剣や翼が一体何なのか気になっているという旨のコメントが多い。

 最初はあまりのコメントの多さに驚いて混乱していたが、リタが道筋を立ててくれたおかげでどうにかやっていけそうな気がした。


”動画から来ました! ゴミこと御影ジンをワンパンってすごいですね!”

”個人勢って本当ですか?”

”何をどうやったら御影をワンパンできる武器が手に入るん!?”

”最上級迷惑行為というかおもっきし犯罪行為に手を染めようとしたゴミをぶちのめしてくれてありがとう! 心の底、いや、魂の底からすっきりしました!”

”ゲロ以下の臭いをプンプンさせるゴミを処分してくれてありがとう!”

”ゴミをぶち殺したあの翼と盾っぽいものは何ですか!?”


「いえ、殺していませんよ!? 確かにやりすぎて瀕死にさせてしまいましたけど……」


 ここでようやく、一つのコメントに反応する。

 ここで言うぶち殺したというのはネットの過剰表現であることくらいは分かっているが、あの動画を自分で見返した時に真面目に人が死にかねない速度と威力だったがちゃんと生きているので、そこはきっちりと否定しておく。


「撒き餌を使おうとしていたから突撃(チャージ)して止めたつもりだったんですけど、自分が思っている以上に勢いがあったようでまさか一撃で気絶するとは思いませんでした。あの後ちゃんと回復薬飲ませましたし、外まで運んで救急車を呼んでもらって病院に運んでもらいましたから、多分大丈夫だと思います。私の分まで呼ばれそうになったのは焦りましたけど」


”wwww”

”そりゃー、成人男性抱えた翼生やした金髪の軍服少女が出てきたら、ダンジョンで変なコスプレしてるやべー奴って思われるしな”

”あのくだりマジで面白かったwww”

”まあ、見た目的にしゃーないなwww”

”何気にゴミのことを雑魚って言ってたしな”

”あいつ仮にも、一等探索者の中ではかなり上位に食い込むはずなんだけどなあ”

”それよりもあの回復薬、飲ませた瞬間に折れ曲がった腕と足が速攻で治ってたんですが”


「えーっと……今日の配信は昨日のことに触れるつもりでいます。なので、昨日上がったあの動画に関連する質問をメインで拾っていきます」


 頼れるメイドが立ててくれた道筋に従って、今日の配信のメインを決める。


「というわけで早速質問コーナーみたいな感じになりますが、聞きたいこと……しかないでしょうね」


”あの後ゴミの方から何か連絡はあった?”

”あのプライドの塊で、ちょっとでも思い通りにいかなければすーぐ癇癪起こすあいつが、自分ぶちのめした相手に連絡してくるとは思えないけど”

”今のところなんの報告も上がってないな”

”公式ツウィーターも反応なし。このまま黙り込むつもりなのかな”


「御影ジン様からは連絡はありません。リタ……後ろに立っている私のメイドが調べたところですと、意識は昨日の夜に回復して今朝退院したそうです。あの回復薬がきちんと作用していたようで何よりです」


”結構酷い怪我だったのにもう回復して退院したんだ。ケッ”

”もっと入院していればよかったのに”

”むしろそのまま探索者としても配信者としても終わればよかったのに”

”女子高生に介抱してもらったのに、それについてのお礼もなしですか”

”向こうからしたら自分の企画をぶち壊した&自分の息子をぶちのめしてメンツもぶっ潰した相手だからな。意地でも連絡寄こさねーだろ”

”今さりげなくメイドさんが調べ上げたって言ってたけど、どこ情報? 今調べても退院したって話見つからないんだけど……”


「あ、あら……?」


 御影ジンが退院したという情報を開示すると、視聴者があからさまに不機嫌そうなコメントを打ってくる。余程嫌われていたらしい。

 まあ、そもそもがゴミと呼ばれていたほどだし、彼がどれだけ嫌われているのかを自分の配信に来ている視聴者を通して確認したようなものだ。


「一応こちらから連絡を試みておきましたが、通話は断固拒否と言われました。私の番号と家の番号を拒否しているのか、あの方のマネージャーとすら通話できません」


 ここでリタが、視聴者にも自分の得た情報を伝えるために日本語で話してくれる。


「あ、もうやってくれていたのですね。相変わらず仕事が早い」

「フレイヤ様のメイドたる者、この程度のお仕事を早急に始末できなくてどうします?」

「あなたの場合は早すぎるんです。……拒否されたのですね。やりすぎたことを謝罪して、あの回復薬を十個ほどお詫びとして送ろうと思っていたのですが」


”メイドさんがめっちゃ有能な件”

”つか通話断固拒否ってwwww”

”くっだらねえゴミプライド発揮してんじゃねーよwwww”

”ゴミの迷惑行為を全力で止めてくれたフレイヤちゃんが通す必要のない義理通そうとしてんのに。これでこのゴミが成人済みとか本気で言ってます?”

”電話かけようとしてたのはメイドさんだけど”

”さりげなくやべーもの送ろうとしてて草”

”そんなゴミみてーな性格だから、ワンパンKOされる動画が爆伸びすんだよ”

”モンスターパレードもワンパンだったしな。ある意味、命の恩人でもあるのに通話拒否とかないわ”

”さすゴミ”


 コメントの雲行きがだんだんと怪しくなってきた。

 御影のことをゴミと呼ぶ視聴者も増えてきて、ここにいない彼へのヘイトが高まっていくのを感じる。


 今朝に見た三選動画を一本しか見ておらずまだ全容を知らないので、どうしてここまでヘイトが高まっているのか上手く理解できず、後ろにいるリタに聞こうと振り向こうとして、視界に映った画面を見て止まる。


「ど、同接四万二千人!?」


 配信を始めた時はまだ一万八千人だったものが、十分足らずで四万を超えていた。

 それに比例してチャンネル登録もまた伸びており、高評価も今までにないくらいついている。


”はえぇwww”

”開始十分も経ってないのにすごいな”

”四万突破おめ! そして美少女の驚いた顔に乾杯!”

”怪物揃いの特等を除けば最上位にいる一等探索者ワンパンした女子高生が伸びないわけがない”


「こうしてお傍で見ているとすさまじいですね。これが人気配信者になった人の配信画面ですか」

「これ、どこまで行くのでしょう……」

「雑談配信でこれですから、本来の攻略配信ですとこの三、四倍は行くのではないでしょうか」

「ひえぇ……」


 リタが今もまだ数百人単位で増え続けている同接数を見て少し驚いたように手を口元に当て、フレイヤはどこまで行くのかと愕然としたような声を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ